第22話 とろけ合う美少女達
(やっぱりそうなったか……)
これはエミルがミヤにヒールをかけた後の様子を見た俺の感想である。エミルがミヤから少し離れた後、ミヤはその場で一人ボーっと立っており、とろけた表情のまま、まるで思考停止しているようだった。
「あのっ! ミヤさん? 大丈夫ですか?」
「はっ……!?」
「あの、大丈夫ですか? なんだかボーっとしていますけど、もしかして私のヒール、ミヤさんのお体に合いませんでしたでしょうか……?」
「えっ……? あ、あれ? 私、寝てたのかな? えっと、ヒールが体に合わないって何? あっ、傷が治ってるかってことだね。そういえばもう痛くないや」
ミヤはそう言って傷があった頬を右手で撫で、安堵の表情を見せる。
「私のヒールがお役に立ててよかったですっ! 可愛い顔に傷跡が残ったらいけませんからね!」
「なんなのこの子聖女なの!?」
ミヤが異世界ならではの褒め言葉を口に出した。なるほど、聖女か。確かにパーティーメンバー全会一致で認めるところだ。
「カリンカさん、なんだかミヤとても嬉しそうですねー」
だが返事は無い。まるで名指しの独り言のようだ。まあ大したセリフじゃないから別にいいんだけど。
「ねえリクト」
「はい、何ですか?」
「エミルって聖女なの?」
「分かりません」
「そう」
代わりに成立したのはそんな会話。俺にはカリンカさんにしては珍しく何気なく興味本位でした質問に思えた。
その後もFランクモンスターとの戦闘訓練を続け、午後6時にはパーティー拠点へと帰った。
今日の半日だけでミヤの『レベル』が一つ上がったらしい。レベルが上がってからのミヤはどこか別人のようだった。といっても能力的なことじゃなく気迫というか、鬼気迫るものがあった。
ダガーを高速で何度も振り抜くミヤ。モンスターとのバトル中にも関わらず、攻撃しながらダガーの動きに合わせて「今日はっ! もう絶対にっ! ケガしないっ! このままじゃ私、ダメになるっ!」と、自分には指一本触れさせないという、強い意思を垣間見た。
そんなミヤに対して、「ワザとケガする奴は俺です」なんて口が裂けても言えない俺だった。そもそも口が裂けたら何も言えないと思うんだけど。
でもせっかくの機会だから、エミルのレベルを上げるために【ダメージ調整】を発動させて、エミルヒールをかけてもらった。
もうホント何もかも忘れていたくなる。やっぱり至福の時間だ。
そしてエミルヒールが終わるまでの間、ソワソワした様子で見守ってくれる人が二人に増えた。
拠点に戻った俺達はまず風呂を沸かし、ミヤは料理に取り掛かる。
何気に気をつかうのは風呂の順番。男の俺が女性より先に入っても後に入っても、何かしら負担をかけそうだ。
先に入ると「リクトの後、イヤだな……」ってなるかもしれないし、後に入ると「残り湯で何かする気では?」なんて思われるかもしれない。さすがにそれは俺もドン引きする行動だ。
とりあえず今日のところはみんなの気づかいで俺が先に入ることになった。まあ女性三人がその気になれば三人一緒に入ることもできるしな。風呂広いし。
そして全員がサッパリした後は、お待ちかねの夕食。リビングのテーブルに並んだのは、昨日とは香りと焼き加減が違うステーキ、つけ合わせの野菜サラダ、綺麗に盛り付けられたみずみずしいフルーツ。
見た目にも気を配っているようで、野菜の緑や赤、フルーツのオレンジや黄色など、目でも楽しむことができる。
リビングのテーブルは四人がけ。だけど長いので四人分の料理を置いても、圧迫感は感じない。
椅子は二つずつ対面して置かれており、離して置くこともできるが、数十センチほどの間隔で並べてある。
誰が俺の隣に座るかという、女性同士でのちょっとした小競り合いが起こるなんてことは無く、俺の隣には自然とエミルが座った。
「わぁー、とってもいい香りですねっ!」
「体を動かした後お風呂に入ってサッパリしてからの食事。なんという幸せな時間なんだろう。ミヤ、ありがとうね」
「えへへー、どういたしましてー」
そして全員が思い思いに食事をスタートさせた。俺はまず肉を口に運んだ。昨日とは違って、やや強めで風味豊かなスパイス。それは噛むほどに確かな旨みとなる。
それから肉の柔らかさにより、まるで口の中で溶けるかのように消えていく。
それからサラダを口に運ぶと、わずかに舌に残るスパイスのピリッとした感じを、野菜の水分が打ち消してくれ、野菜のみずみずしさが増すかのようだ。
「はわあぁぁ……このお肉、柔らかくて美味しいですー!」
「ああっ……! やはり食事は素晴らしい……!」
エミルとカリンカさんの表情を見ると、言葉がなくても味の感想が分かる。
どうやら舌だけじゃなく、表情までとろけているみたいだ。
俺はなぜか美少女達のとろけ顔を見る機会が多いみたいだな。
最後に数種類のフルーツが口の中をサッパリとさせてくれ、満足感と満腹感が残った。
「ねえねえ、リクトは私の料理どう思った?」
向かいに座るミヤが体を前のめりにして聞いてきた。
「美味い!」
これが本心であることは、カラになった皿を見れば分かってもらえるだろう。
「それだけ? でも私、そういうストレートなの好きだなー」
食事が終わり、そのままリビングでしばらく談笑してから、各自の個室で過ごすことになった。
翌日の朝10時。今日もギルドの中に入った俺達は、いつもより依頼掲示板の前にいる人が多いことに気が付いた。
どうやら近々、複数の冒険者を集めてとあるダンジョンの未踏破の階層を探索するらしく、その案内が貼られていた。
参加した冒険者は特別報酬がもらえて、なおかつランクアップにも大きく近付けるそうだ。
カリンカさんに追い付けるようなるべく早くランクを上げたい俺達は、それに参加することにした。
となれば、ミヤだけじゃなく俺とエミルも本格的にレベルを上げる必要がありそうだ。
(久しぶりにダメージ調整乱発するか……?)




