第20話 胃袋をつかまれる
「そろそろメンバー募集してみるのはどうだろう?」
借りたばかりの豪邸のリビングでそれぞれが椅子に座り、カリンカさんがそう提案した。
「メンバー募集ですか。確かにそれもいいかもしれませんね」
「新しい人を迎え入れるんですか? 私、楽しみです。どんな人が来てくれるんでしょうー?」
「エミル、ずいぶん嬉しそうだな」
「はいっ! 私、いろんな人とお話しするの好きです」
エミルは控えめなところもあるけど、基本的に明るい子だ。そして何より素直。世界中がみんなエミルのようなら争いなんて起こらないのになぁ。
「それでカリンカさん、何人募集するんですか?」
「今のところは一人だけにしようかと思っているんだ」
「ということは四人パーティーになるってことですね。前から疑問だったんですけど、四人パーティーが多い理由ってなんですか?」
「私が思うにバランスがいいからじゃないかな」
カリンカさんいわく、パーティーメンバーの構成としては前衛・後衛・支援役・回復役の四人が基本とされているらしい。
それに加えて必要に応じて人数を増やすこともあるとのこと。
「それに四人より多くなると、いろんな問題が増えるんだよ」
「例えば?」
「パーティー内でのトラブルで一番多いのは報酬の分け前だね。前衛や後衛がある日突然、直接モンスターと戦うのは自分達だから他より多くもらうのは当たり前だと言い出したり、サポート役は攻撃に参加せずただ安全な場所で見てるだけなのに、均等なのはおかしいとか言い出したりすることがあるみたいだね」
追放もの作品でたまに見かける話だなぁ。本当にあるんだな……。
「うーん、メンバーそれぞれの役割ってもんがあると思うんですけどね。直接戦わないからって、サポート役は別にサボってるわけじゃないと思います」
「やっぱりリクトはしっかりした考えを持っているね。そういうところ好きだよ」
「ありがとうございます」
と、平静を装ったはいいものの、サラッと「好き」って言われた……。しかも金髪美女のお姉さんから。
だけど分かってる、いくら俺でも分かっているとも! さっきの「好き」はそういう意味じゃないことくらい。
俺が初めて一緒の部屋で寝た女性はカリンカさんで、誰かから「好き」と初めて言われたのもカリンカさん。どうしよう、カリンカさんに俺のいろんな初めてが奪われていく……!
「それで話を戻しますけど、俺とカリンカさんが前衛でエミルが回復役だから、支援役を募集するってことですね」
「そうだね。二人も賛成ならばね」
「俺は異論なしです」
「私も賛成ですっ」
「よし、それじゃあ明日にでもギルドにあるメンバー募集専用の掲示板に、募集内容を貼り出しに行こう」
「分かりました。それで具体的にはどんな能力がある人を募集するんですか? 偵察ですか? それとも遠距離攻撃ですか?」
「それはね、『料理』だよ!」
「え……?」
「リクト。君は今、私を変な目で見ているね?」
「いやいや、そんなことはないですよ。ただ、予想外すぎて驚いただけです」
「お料理ですかぁ。確かに毎日のことですから、おいしいご飯を食べたいですねっ!」
意外なことに、エミルは納得しているようだ。
「リクト。ここはもう私達の家なんだよ? それなら当然家事も自分達ですることになる。このリビングだってまだまだ掃除する必要があるし、物も人手も足りない。それに家を自分達好みにカスタマイズできるなんて、ワクワクすると思わない?」
「それはまぁ確かにそうですね。ところで一つ聞いていいですか? カリンカさんとエミルの料理の腕前はいかほどなんでしょうか?」
「リクトだって毎日外食だと嫌だよね?」
(あれ、俺の質問どこいった?)
「せっかくこんないいキッチンがあるんだから、使わないのはもったいないよね?」
俺の質問はとっくに迷子になり、代わりにカリンカさんから、まるで「はいと言え」とでも言わんばかりに質問が飛んでくる。
俺は助けを求めるようにエミルのほうを見た。
「私も毎日おいしいご飯が食べたいです……」
なるほど。もはや空気は吸うだけのものじゃなく、読むものにもなった。それなら俺が言うべき返事はきっとこうだ。
「応募条件に『料理ができること』も書き加えましょう」
うん、まぁ俺も料理できないし仕方ないよね。
こうして、冒険者パーティーメンバーの募集なのに『料理ができること』が必須という、珍妙な募集貼り紙が完成した。
翌日にはギルドに行き、その紙をメンバー募集の掲示板に貼った。
するとなんとその日のうちに一人が応募してくれたので、とりあえず面接ということでパーティー拠点に来てもらうことになった。
俺達はパーティーとしてはEランク。だから比較的、応募するハードルは低くなるらしい。
例えばこれがAランクパーティーからの募集だったなら、よほど腕に自信がある人しか応募しないだろう。
そして家のリビングで、応募してくれた人を面接させてもらうことに。
俺達は三人並んで座り、正面に応募してくれた人が一人で座っている。
(もしも転生してなかったら、俺もこんな感じで面接を受けていたのかぁ。俺には無理だな)
応募してくれたのは、水色のミディアムヘアに、それと同じような瞳の色が特徴的な女の子。目鼻立ちはハッキリしており、エミルやカリンカさんと並ぶほどの美人。
第一印象としては、おとなしそうな感じ。歳は16歳であるエミルと同じくらいだろうか。
真ん中に座るカリンカさんが俺達を紹介した後、最初の質問を投げかけた。
「それではまず応募してくれた理由を教えてください」
「はい。私は冒険者になったばかりで、まだ右も左も分かりません。だからソロで活動するのが怖くって……」
女の子の言葉は語尾に近づくにつれ、次第に小さくなっていった。
「だけど私、人見知りなので自分がパーティーの中心になるなんて考えられません。だから私を入れてくれるパーティーを探していたんです」
「なるほど。ここにいるリクトとエミルはEランクではありますが、冒険者としてはまだまだ駆け出しです。なのできっと一緒に成長できることでしょう」
「ほ、本当ですかっ……!? それなら私、合格ということでしょうか!」
ガタッと音を立てて椅子から立ち上がる女の子。ちょっと気が早いと思うんだけど。
「すぐにでもそうしたいところではありますが、もう少し質問をさせてください」
「あっ、ど、どうぞ!」
「これだけは誰にも負けない! というものはありますか? 言い換えれば長所ということになります」
「はい。私、一度やると決めたことは最後まであきらめません! どんな方法をとってでも成し遂げてみせます」
控えめかと思いきや、突然力強くなった。よく分からない子だな。
どんな方法をとってでも、か。確かに冒険者にはそれくらいの固い意思が必要なのかもしれないな。
「あきらめない心、素晴らしいですね。それは冒険者にとって必要なものです。例えばとても勝てない強敵に出くわした時、あきらめてしまえばそこで終わりです。だけどそれでも、どんな方法をとってでも生き延びようと行動することが大事なんです」
「それなら私、合格ですかっ!?」
再び前のめりになる女の子。本当に人見知り?
「いえ、まだ質問はありますよ。冒険者としての特技は何かありますか?」
「はい、私は気配察知が得意です!」
「それは頼もしいですね。モンスターから思わぬ奇襲をうけることもありますから」
「合格ですかっ!?」
「いえ、それでは料理の腕前を見させてもらいます。いくつか食材を用意しました。これらを使って何か作ってみてください」
なんでカリンカさんは冷静でいられるんだろう?
「分かりました!」
女の子はそう言うとキッチンに立った。そしてジュージューと何かを焼いているような音がし始めた。その手際の良さを見る限り、かなり慣れていそうだ。
するとリビングにいい香りが広がり、腹の虫が鳴りそうになる。さらにそれから少し待つ。
「お待たせしましたー」
女の子がそう言ってテーブルに置いたのはステーキ。この世界の一般的な肉を使ったものだ。
まず食欲をそそるのは香ばしい匂いとほどよいコゲ目。
そして口に運ぶと噛むたびに肉汁があふれ出す。焼き加減もちょうどよく、食事をしたという満足感で満たされる。気が付けば完食しており、腹も満たされていた。
「すごい、とってもおいしいです……!」
「見事な腕前です。ごちそうさまでした」
エミルとカリンカさんもこの反応。全員が胃袋をつかまれたようだ。
「ではこれで面接は終了です。結果は明日となります。また明日来てもらえますか?」
「分かりました!」
人見知りとはなんだったのか。こうして面接が終わり美少女は帰っていった。
その日の夜に三人で話し合い、メンバーに入ってもらうことが決まった。
ともあれ、またもや美少女がパーティーに加わることに。ただ少ーしだけ、つかみどころが無い子だなと俺は思った。




