第14話 なぜかこうなる不思議
エミルが冒険者になる決意を固めたことにより、俺達三人はパーティーを組むことになった。だけどカリンカさんはAランク。Fランク二人とパーティーを組んだところで大した依頼はこなせないと思うんだけど。
「カリンカさん、話の流れをぶった斬るようですけど、俺とエミルはFランクですよ? Aランクのカリンカさんなら、もっと強いパーティーに入れると思うんですけど、いいんですか? もちろん俺達のパーティーに入ってくれるのは大歓迎ですけど」
「ああ、もちろんいいさ。この村に来る途中の草原でリザードマンに遭遇しただろう? あの時君は率先して一匹を引き受けてくれたね。仲間のために自ら危険に飛び込む、それはなかなかできることじゃない」
「いやぁー、あれはただ強くなるために経験を積みたかっただけなので、そんないいものじゃないですよ」
冒険者として生きていくのなら、戦いは避けられない。そして戦いに重要な身のこなしなどは体で覚えるものだと思うから、少しでも慣れておきたかったんだ。
それに「エミルから回復魔法をかけてもらいたい!」という隠れた目的もあった。
むしろそっちがメインだろという意見についてはノーコメントでお願いします。
「そんなに謙遜しなくてもいいよ。それに私はエミルも応援したいんだ。ミントが言っていたけど、エミルにはヒーラーとしての素質がかなりあるそうなんだ。だから私はエミルの成長の手助けができたらなと思う」
「ミントさんが私を、ですか? えへへっ、そうだったんですねー! 嬉しいなっ! もしかしてカリンカさんもそう思ってくれてたり? 私、上手にヒールを使えていましたか?」
「もちろん私もそう思ってるよ。そっ、それにあの時のヒール、とても上手だったよ……! たとえ今はヒールしか使えなくても、冒険者として活動をしているうちに『レベル』が上がるはずだからね。きっといいヒーラーになれるはずだよ」
この世界でいう『レベル』とは数値で表されるものじゃなく、感覚的なものだとミントさんから教えてもらった。
冒険者をしていれば『レベルが上がる瞬間』というものが分かるそうだけど、俺にはまだやってきていない。
カリンカさんに褒められたエミルは素直に喜んでいる。ヒールに上手い下手なんてあるのだろうか?
「ところでエミル。そろそろ宿を探したいんだけど、どこか知らないか?」
「この村に宿はありませんよ?」
「えっ? まさか今から帰ることになるのか? もう夕方なのに」
「やだなぁー、リクトさん何言ってるんですかー、ウチに泊まればいいじゃないですかぁー。今から案内しますねっ」
エミルの様子がいつもと違う。いつもの控えめなエミルと今のエミル。本来のエミルはどっちなんだろう。
エミルに案内された部屋は妹のマリーの部屋と同じくらいの広さで、そこまで広くはない。
なので家具なんかは最低限の数と大きさだ。その代わりといってはなんだけど、ベッドが二つある。ベッドが二つ。……二つ。
「お二人はここで寝てくださいねっ!」
いやいや、「寝てくださいねっ!」って言われても。普通にカリンカさんが嫌がるだろう。
「いいの? ありがとう、これは助かるよ」
ところが俺の心配をよそに、カリンカさんはあっさりと受け入れた。そんなこと気にする俺がおかしいの?
そしてみんな寝る時間になったので、俺はカリンカさんと同じ部屋に二人きりだ。
「今さらだけど、リクトって呼んでいいだろうか? もう護衛と依頼主という関係ではなくて、同じパーティーメンバーだからね」
「もちろんです」
「ありがとう。それともう一つ聞きたいんだけど、その、エミルのヒールっていつもああいう感じなの?」
「そうですね、俺が口の中をケガした時は手を握っててくれました」
「そ、そう……。まあ何か理由があるかもしれないね。さあ寝ようか」
そう言われた俺は改めて二つのベッドを見た。その間隔は50センチほど。近っかいなぁ……。
明かりを消した後、俺が眠りにつこうと目を閉じると、やがてカリンカさんの静かな寝息が聞こえてきた。
それはなんだかとても上品で、女性ってこんな静かに眠るんだなと知った。
俺が人生で初めて一緒の部屋で寝た女性はカリンカさんでした。
翌朝。今日は妹のマリーの通院日。その時にエリクサーが効いているかどうか詳しく診断してもらうそうだ。朝食までごちそうになった俺達は、エミルの両親達の帰りを待つことにした。
そして昼過ぎに三人が帰って来たので、エミルが両親に「どうだったの?」と聞いた。
結果は良好。臓器にできていた悪性のモノは綺麗さっぱり消えていたとのこと。ただ病気によって落ちた体力が戻るまでは、もう少し通院が必要とのことだった。
「エミル、マリーならもう大丈夫だから、これからはやりたいことをすればいいわ。冒険者になるのよね?」
「うん。だけどお父さんお母さん、いいの?」
「僕達なら大丈夫さ。それにエミルが決めたことだからね、応援するよ。それにヒールをみんなのために役立てたいというその気持ちを大切にしてほしい。もしかしたらエミルがヒールを使えることに意味があるのかもしれないしね」
「うん、ありがとう!」
「お二人とも、エミルのことよろしくお願いしますね」
「お姉ちゃん、いってらっしゃい!」
無事に両親の許可が出たので、あとはギルドで正式にパーティー申請をするだけだ。
それからまた長い時間をかけてガリアーノの街に戻った俺達は、ギルドに申請をして正式なパーティーとなった。
気が付けば男一人に銀髪美少女と金髪美女という、異世界アニメに出てきそうなパーティーができあがっていた。不思議とこうなるんだなー。