第13話 何か思い出してました?
朝10時にガリアーノの街を出発して、草原を抜け、街でエリクサーを調合してもらい、それから馬車に揺られエミルの住む村へ。
ようやく村にたどり着いた頃には、もうすぐ陽が落ち始める時刻になっていた。
道中の馬車は商業として出されていることもあり、俺がFランクダンジョンに行くために乗ったギルドの無料馬車とは、快適さが全く違っていた。
(そういえばあの時は初心者パーティーのノロケを聞かされたっけ。正直あれはキツかった)
ところが今はどうだろう、俺の横にはエミルとカリンカさんがいる。周りから見れば俺がモテてるように見えているんだろうか?
村を囲っている木の柵の切れ目から中に入ると、まず畑が視界に入ってきた。
それはどの家の近くにもあり、この村は農業が盛んなのだと一目で分かる。
「おっ、エミルちゃんじゃないか! 元気?」
「あらぁー、エミルちゃんじゃないのー。よかったらまたウチに来て話し相手になってくれるかい?」
おじさんやお婆さん。村の中を歩いているだけなのに、それ以外にもいろんな人がエミルに声をかける。それに対してエミルは「元気ですー!」、「はーい!」などと元気よく返す。
もうその光景だけで、普段からエミルと村の人達との関係が良好であることがうかがえる。そんなところからも、その人の人間性が分かると俺は思う。
「ここが私の家です」
そこには平屋建ての家があり、これまで大都市しか見てきていない俺にとっては小さく見えたけど、周りの家もそのくらいなので、これが普通なのかもしれない。
その代わり庭は広く、畑が多い。農業で生計を立てているとエミル自身が言っていた。もしも俺が異世界スローライフをするとしたらピッタリの環境だろう。
「ただいま!」
元気よく中に入ったエミルを出迎えたのは、30代半ばくらいの男女だった。二人ともエミルと同じ銀髪をしており、男性は短髪で、女性はエミルと同じく腰あたりまである。
「おかえりエミル!」
二人ともがそう言ってエミルを抱きしめた。きっと家族に違いない。むしろそうじゃなかったら、ここはいったいどこなんだということに。
「あら? そちらのお二人はどなた?」
「あ、えー、はじめまして。俺、いや、僕はエミルの、いや、エミルさんの旅のお手伝いをさせてもらって……同行と言いますか——」
そういえば俺、初対面の人が苦手なんだった。誰か俺にコミュニケーションスキルを授けてください……!
すると勝手にテンパってる俺に助け舟を出すかのように、カリンカさんが代わりに答えようとしてくれていた。
「はじめまして。私の名前はカリンカといいます。そしてこちらの少年はリクトといいます。二人とも冒険者をしております。エミルさんとは冒険者ギルドを通じてご縁がありまして、こうして同行させていただいております」
それからカリンカさんは丁寧に分かりやすく今までのいきさつを説明した。
「まあ! エミルの護衛をしてくださっていたのですね。それからリクトさんも、いろいろとよくしていただいたようで、お二人ともありがとうございます」
「僕からもお礼を言わせてください。ここまでエミルを無事に連れて来てもらってありがとうございました」
「いえいえ、私達がそうしたかったのです。それにしてもエミルさんは本当にいい子ですね」
「そんなことないんですよー? いつも甘えてばかりで、この前だって——」
「もう! 私、怒るよ!?」
いやぁー、ほのぼのとする光景だなー。俺の出る幕なんてどこにも無いやー。
「それよりもっ! マリーは起きてる?」
「さっき起きたばかりだけど、もう少しベッドの中にいるって言ってたわよ。エミルが帰って来たということは、もしかしてエリクサーが手に入ったの!?」
「うんっ!」
それから全員で右奥にある部屋へと移動した。そこには本棚や小さなテーブルなどの家具が部屋を圧迫しない程度にゆったりと置かれており、部屋の外から見て左側にベッドがある。
そしてベッドの中では、銀色の髪をしたミディアムヘアの女の子が仰向けになっている。
「お姉ちゃん……?」
エミルに気が付いた女の子が体を起こして俺達のほうを見た。妹のマリーは9歳だそうで、緊急性は低いものの数ヶ月ほど前から、一週間に一度は通院しないといけないほどの病気にかかってしまっているらしい。なので一日の大半はベッドの中で過ごすことが多いのだとか。
ポーションで治せるのはケガだけ。でもエリクサーは一部の病気に有効らしく、一応市販されてはいるものの超高額なので、そのまま買えるのは一部の金持ちくらいらしい。
日本でも特効薬というものがあるから、この世界にだってそういうものがあっても不思議じゃない。
「お父さんにお母さんも。それと、だれ?」
「この二人はね、お姉ちゃんのお友達なの。あとね、とってもよく効く薬を持ってきたから、飲んでくれるかな?」
「うん、わかった」
エミルが透き通るような薄い青の液体が入った小瓶をマリーに手渡すと、マリーはそれを素直に飲み干した。
それがエリクサーであることは、カリンカさんの鑑定スキルによって証明されている。
ホントなんでもできるんだな、このお姉さんは。
「本当にこれでよくなったのかしら……?」
「ちょうど明日が病院に行く日だから、僕も一緒に行くよ」
「そうね、詳しく診てもらいましょう」
どうやら明日になれば効き目が分かるらしいので、ぜひとも見届けたい俺とカリンカさんは宿を探すことにした。
ところがその前に、話があるからと三人でエミルの自室に行くことになった。
「どうした? 改まって」
「あの、私、正式に冒険者として活動しようと思うんです」
「そうなのか? 俺はてっきり登録だけしたものだと思ってたんだけど、何か理由が?」
「はい。少しの間だけど冒険者として活動してみて分かったんです。それがどれだけ危険な職業なのかを。私達が日々を安全に過ごせているのは、冒険者さん達のおかげだなって。そしてカリンカさん達が戦っている姿を見て、私のヒールが少しでもお役に立てればいいなって思いました」
意外だったけど、俺からエミルにパーティーを組みたいと頼もうかと思っていたから、正直なところこう言ってもらえると助かる。
「あのっ、なので、もしよかったら、お二人とも私と冒険者パーティーを組んでもらえませんか!」
「俺としてはエミルがそれでいいなら賛成なんですけど、カリンカさんはどう思います?」
「エミル、家のことはいいのかい?」
「はい、マリーの検査結果次第ではありますけど、やっぱり私、せっかく使えるヒールをもっといろんな人のために使いたいんです」
「そうなんだね。エミルのその意思はとても尊いものだと思うよ。分かった、私からもお願いするよ」
「ありがとうございますっ!」
「やっぱりパーティーにヒーラーは必要ですよね。カリンカさんのパーティーにもミントさんというヒーラーがいましたから。エミルのヒールがあれば心強いですね」
「えっ? あ、ああ、エミルのヒールか。そうだね、やはり回復魔法は必要だからね」
「そこまで私のことを必要としてくれるなんて、嬉しいです! たくさんヒールを使いますね!」
「できればエミルの出番は無いほうがいいんだけどな。そうですよね、カリンカさん?」
「えっ? あ、ああ、エミルのヒールのことだろう? もちろん誰もケガしないに越したことはないさ」
俺は何気なくカリンカさんに振ったつもりだったけど、カリンカさんの返事はまるで何かを思い出していたかのように、歯切れが悪かった。




