麻斗チーム
第十六章 二チームに分かれて
車で市役所の横にある図書館の駐車場に車を止めて、同じように職員の入り口から中に入る。
「うわー、埃っぽい。 冬のせいもあるかもしれないけどここはちょっとマスクしといた方がいいかもね」
カーテンの閉め切られた本棚の並ぶ図書館内で、冬哉と琉惟は素早くマスクをした。
「おい、お前らなんでそんなに用意水筒なんだよ」
呆れながら、真面目に間違えた武斗に、琉惟が無表情で訂正を加える。
「武斗、用意周到。 水筒じゃない」
「う、ウルセー!わざとだ、わざと!」
「武斗、それはそれとして、ここでこんな大量の埃は体によくないよ?ハンカチかなんかないの?」
「タオルならな……って、そう言えば!」
リュックから武斗の所属球団のロゴの入ったバンダナが出てくる。
「どうしたの武斗、それ?」
冬哉の問いに、武斗は鼻から口を覆うように巻いて結びながら喋った。
「ああ、もらった」
少しくぐもって聞こえるが、会話に支障はないだろう。
「ここの本かなり古いものばかりだよ? 古書としても、資料としても価値あるものだよ!
ただ、やっぱり保存状態がよくないなぁ~」
唸りながら、本を嬉々として吟味する冬哉。
「冬哉、本来の目的を忘れるな。 ここもなにかあるはずだ。
探すぞ」
「おい、琉惟。 まさかここの本全部、目を通そうとか言うわけじゃないよな?」
「そんな非効率的なことはしない。 詩の内容に照らし合わせて探したほうがよさそうだ」
「たとえば?」
「古を記したとあったからこれは、この村の設立当時の資料が残っていると考えられる。
そしてこの村で行われていた研究記録があるはずだ。
少なくともパソコンが出現するまでは、紙媒体だったはずだ。
だから資料は固まって整理されてるはずだ」
「なるほど、琉惟は歴史書と、研究レポートみたいなのが残っていると睨んでるんだね?」
「ああ、何しろ人体実験をした挙句、死者までだしておきながら、警察もマスコミも動いてない。
よほどの上の圧力があったはずだ。
隠滅するにしても何か残した可能性は高い」
本棚の本をパラパラめくり見ながら、二人は探した。
「あっ、長谷井さんと定時の連絡の時間」
ぼそっと言うと、手近な椅子に座り、パソコンとバッテリー、モデムをセットする。
起動させてすぐに画面が青いスクリーンに変わる。
フォルダが並ぶ中、一つ選んでログインする。
チャットみたいなものだ。
ログインして、長谷井のアクションを待つ。
「何か進展ありましたか?こちらは無事図書館につきました。
今閉鎖理由や研究レポートのようなものを探しています」
『水が一か所の水門に流れているので、そこを開けてこれから入るところです。 どうやら地下水道らしいですね。
閉鎖されたのがおそらく十三年前の可能性が高いですね。
香月さんは小学校から、高校まで私立の学校に通っていたそうなので』
「わかりました。 頭に入れておきます。
ではまた一時間後に連絡を」
そして琉惟はパソコンをシャットダウンさせ、リュックにしまうと、二人の元に行った。
「見つかった?」
「ないなぁ。 琉惟ここらの本は本当に一般人が読むようなものだよ。 専門書もあるみたいだけど、的外れもいいところって感じだね」
冬哉のボヤキに、琉惟は顎に手を当てて考える。
「冬哉、閲覧できない書籍は通常どうする?」
「それは当然書庫行きだろうね。後はデジタル化かな?」
「そこのカウンターの後ろのドア。 怪しいな……。
武斗、店から持って来たドライバー出して」
「へいへい」
適当な相槌の武斗は、スポーツバッグの中を漁る。
その間、琉惟はカウンターの後ろにあるドアをしげしげと観察していた。
「琉惟、あったぞ?」
「武斗、このドア蝶番外せる」
「やれってことね」
ため息をつきながらも、プラスドライバーを持って、器用に外していく。
大きく傾きかけるようにして、書庫のさらに深奥が見えた。
中は本棚にかかった暗幕と埃のせいで、暗い上に今いる部屋より空気が悪い。
「冬哉、懐中電灯でブレーカーとか、スイッチ探して。
図書館の構造はだいたいどこも似たようなものだろ?」
「そう言っても、わからないよ?
この村の設計者たちの意図がわからないもん。
でもやってみるよ」
冬哉は武斗から懐中電灯を受け取ると、天井の届く範囲を照らして探し始めた。
琉惟と武斗は二人して図書館側の窓を開けて、書庫の暗幕を外していく。
書庫の本棚は図書室の物より、随分と状態が良かった。
その時、パチっと電気がつく。
蛍光灯の白い明かりが妙に書庫の雰囲気を浮き上がらせた。
「冬哉、できるだけこの村の歴史書探して。
俺と武斗はまたどこか隠し部屋がないか探すから」
「わかった、頑張ってね二人とも」
穏やかに目じりを和ませた冬哉のマスク越しの声が、心配しているのを二人は感じた。
琉惟は部屋のおまかな見取り図を造りながら、本棚を一つ一つ調べていく。
「琉惟!」
不意に武斗が呼んだ。
「この本棚おかしくないか?」
一見して普通の本棚だ。棚にも本がきちんと整頓して並べられてある。
だがしかし、何か、強いて言うなら引っかかりのようなものを覚えた。
「……武斗、でかした」
淡々とした抑揚のない声で琉惟が呟く。
「なんだ?」
「この本棚の周りだけ埃がない!
暗幕がかかっていていくら埃が上からは被らなくても、中で空気が循環するから埃が積もるはず。
それなのにこの本棚だけ、綺麗すぎる!」
鋭く目を光らせ、嬉しさを密かに滲ませた、探検者のような顔つきで琉惟は言った。
「武斗、この本全部出して、調べてみよう」
「任せとけって」
二人はせっせと本棚の本を出して、棚を調べ始めた。
麻斗達はマウンテンバイクを拝借して、あらかじめ琉惟から渡されていた地図を頼りに、水門まで疾走していた。
「なんかチャリこぐの疲れるね~」
緊張感のカケラもない声で健治がぼやく。
「仕方ないだろうが、お前は少し運動した方がいい。
二段腹になるぞ?」
麻斗も爽快にマウンテンバイクをこぎながら、毒舌を吐いた。
「うーん、それは嫌かも。 二人ともすごく早くない?
俺、正直ついていくのでやっとだよ?」
飄々と言ってのけているかのように聞こえるが、実は一番呼吸が荒いのは健治だった。
しかし健治は無駄話をやめようとしない。
構う麻斗も麻斗かもしれないが、途中、水分を補給して、水門まで来た。
車で回った時は広いとは思わなかったが、マウンテンバイクでもいい運動になる程度には広い。
マウンテンバイクを立てかけて、問題の水門に来ていた。
地下水道に繋がるらしい灰色の塗装のトンネルの観音開きに開いた扉の前に、問題の手動式の水門はあり、そして水嵩が土手までせりあがっていた。
「水を少しずつ流しましょう。 詩の通りならば水の流れる方向に進めば迷うことはないはずです」
長谷井はあらかじめ、制御室を探してたまたま見つけた地下水道の地図を持ってきていた。
長谷井はピンピンと撥ねる髪がうっとうしいと、今は香月そっくりに束ねている。
「長谷井っちってそうしていると、女の子みたいなんだよねー。
本当の性別、女の子じゃない?」
健治がふざけて言うと、にこやかな笑顔で長谷井が応酬した。
「じゃあ、私と薫の子は誰が父親なんでしょうね?
なんですか、私はコウノトリさんですか?」
「ひぃいぃぃぃ。 ごめんなさい、長谷井っちは男の子です!」
顔をひきつらせながら、健治は平謝りだ。
「反省してくれればいいんです。 反省してくれればね」
「長谷井、目が全然笑ってないぞ?」
麻斗のツッコミに、長谷井は気を取り直して、二人に少しずつ水門を開けるように頼んだ。
「んぎぎぎぎぎぃ~、長谷井っちこれ、マジで開かないよ?
水を一旦戻すことは……できませんよね」
何故水がここに集まったのか、その理由に行きついて、健治が情けない声を出す。
水は高いところから低いところに流れる。
ポンプ車や水が逆流しない限りなどない限り無理だろう。
ギギギイイイイ……。
ようやく少しだけ、水門のギロチンの刃のような門が上に上がった。水が流れ出す。
「足場があります。 行きますよ。ここから先はやはり非常灯が着くようになってます」
「つまり、誰かも奥に用があって、そこに行きつくための明かりってわけだな?」
「そう言うことになります」
涼しい顔の長谷井に、健治が真っ赤になった両手をグーとパーを繰り返して、指先に血流を送っている。
気持ち涙目になっている気もしないでもない。
「あっちゃん、長谷井っち待ってよ~」
「まだ行きませんよ。 健治さん、焦らなくて大丈夫です。
今日中にここは制覇しなければなりませんが、中で定時連絡の時間になって繋がらなかったら話になりませんからね」
「じゃ、じゃあ?」
「時間まで休憩しましょう。 そろそろ昼時ですしね」
長谷井の、今度は正真正銘穏やかな笑顔に、健治はほっと一息ついた。




