聖なる安置所
第十二章 謎の村
S県と隣県の境目にある盆地に着いたのは昼だった。
入り口には侵入を阻んでいるかのような、鉄柵がある。
鎖が巻きつけてある鉄柵をみんなして開く。
「ふぅ、案外簡単に開いたね。錆びもないし、誰かが使ってたみたいだねー」
「よし、とりあえず写真を頼りに奥に進むか」
ワゴン車にみんな乗り込んで上織村に入って行く。
木や蔦に覆われた不気味な村の入り口、衛星写真をもとに地図を作製していく。
村の南に出入り口である鉄柵があり、大きな道路を回ると学校、役場、図書館、ぽつぽつとある民家に墓場や教会、森、浄水施設、地面を這う水路、病院、焼却場などがあった。
民家を回ってみたが、とうの昔に放置されていたらしく、人っ子一人いなかった。
「さて、どこに行ってみるかな?」
「ちょっと気になったのですが、墓地に行きませんか?」
長谷井が提案した。
「なんでだ? 長谷井?」
「ほら、覚えていませんか? 守君が書いた無名の墓碑と香月さんの写真の中にあった墓碑。 そして魂の故郷の詩。
あれは墓地の事を指しているように思えるんですが」
「確かに長谷井っちのいう事に一理あるような気がするな」
「そうだね、暗くなってから墓地には行きたくないな」
健治と冬哉が同意した。
学校が村の中心部にあるとすれば、南東にある教会と墓地にみんなは向かう。
墓は延々と広い霊園内に広がっていた。
奥には教会がある。
香月が写した写真に一致する墓はすぐに見つかった。
単純な話、無名の墓碑だけを探していたら、一つしかなかったというだけのことだ。
「これ誰の墓なの?」
「裏回ってみようぜ」
武斗を中心に調べ始める。
「ん?なんか書いてあるぜ? 苔が邪魔して見えねー」
苔を爪で剥がして、何とか読めるようになった。
「木川菜月(きかわ なつき我が最愛の人?」
「そう言えばさ、不思議に思ったんだけど、墓碑の十字架には苔がはびこってたのに、墓の台石だけは綺麗なんだよね。
なんかありそうじゃない?」
健治のもっともな言い分にみんな生唾を呑み込んだ。
「暴けとか言うなよ?」
顔面蒼白で狼狽えている武斗が、おろおろしながら言った。
「いや、暴こう。 何か手がかりになるかもしれない」
「マジかよ? 祟られるぞ!」
「俺は信じない」
琉惟は墓石に手をかけて力を入れた。
易々と動いた墓石の下には手狭な空間があり、一つのペンダントロケットが置いてあった。
「骨は?」
「ない」
拍子抜けした武斗の声に、琉惟が答える。
銀製の精緻な細工が施されたロケットを開けると、セピアの香月に似た顔の女性が、窓辺で赤ちゃんを抱いて微笑んでいる写真が納まっていた。
「誰だ、これ?」
「墓の人じゃないか? 木川菜月さん」
「でも香月とそっくりだな」
「じゃあ、教会に入ってみるか。 誰か人がいるかもしれないし」
教会前に移動して、重たい扉を引くと、ガコガコと何か引っかかっているような音がした。
「押すんじゃないのか?」
「―っ。 駄目だ。 びくともしない」
教会の周りを歩いていた健治が、裏手に回って何か見つけた。
「おーい、みんなこっちきて!」
「どうした健治?」
麻斗が裏手に回ると、健治が錆び付いた鉄製の梯子に上っていた。
「思ったんだけどさ、『鍵を開くのは 鳴らない鐘楼』ってあったじゃん? あれってここの事だと思わない?」
「確かに、どうだ?健治、梯子どれくらいの重さにまで耐えれそうだ?」
「うーん、俺と琉惟君は大丈夫そうだけど、たっちゃんは無理かな。
まぁ上の鐘楼台にまで登ってみるよ!」
健治は鐘楼台のところまで上がって、ひょいっと最上階に身を滑らせた。
大きな鉄製の歯車と小さな歯車が床というか、二階の天井から突き抜けている。 脇にレバーがついてる。
そして大きな歯車から金属の棒が伸びて釣鐘を吊っている横棒に繋がっている。
床面には鉄の短い棒だとか歯車だとかが転がっていた。
「うーん、なんだこれ? さっぱりわからん」
「おーい、健治! なんかわかったか?」
「ごめーん、全然からきしわかんない」
でへへと苦笑いする健治に、みんな嘆息する。
「あっ、そうだ。 琉惟君寄越してよ! なんかわかるかも」
健治の提案で琉惟が行くことになった。
梯子はギリギリ保った。
「やっほう、琉惟君?」
高いところが苦手な琉惟は不機嫌な顔でじろりと健治を睨む。
教会の高さは約二階建ての建物くらいで、健治と琉惟がいる鐘楼台は二階目から三階目の半ばと言うところだ。
「……ギミックだな、これは」
ぱっと見た感じの直感で琉惟は答えた。
「あー、やっぱり?」
「ベロか、真ん中にあるはずのベロがないんだ。
恐らくだがこの巨大歯車と鐘が繋がっているから、鳴ったら仕掛けが動くはずだ。
もしこれが詩をなぞっているとすれば、扉が開くんじゃないか?」
「うーん、それはわかってもここの謎が解けなきゃねー」
「ああ、散らばっている歯車の部品もなんか意味があるんだろう。
しかし、鐘楼にベロをつけるっていっても届かないんじゃな」
「う?琉惟君ここの床の色違わない?」
「雨か何かで腐ったんじゃないか?」
床は木材だ。 放っておかれれば腐るのは当然だろう。
「いや、この床ほとんどそうだけどさ。 たぶんここだけ木材じゃないよ?」
健治はそう言って短い金属棒で床面を叩いた。
石と金属のぶつかる音、そして色の違うところだけ音が軽い。
「二人係で剥がすぞ健治」
「おうよ」
色の違う床面を剥がすと、大型の工具や脚立が出て来た。
「スパナや六角レンチ?」
「どうやらこれを使えってことらしいな」
「あーあ、こういうのって本当はたっちゃんの仕事なのに」
ぼやく健治を尻目に琉惟は散らばっている材料を集め始めた。
「ぼやくな、あいつは上って来られないんだから仕方ないだろう」
「へいへい」
大きさの違う歯車がいくつかと、歯車とかみ合うようなチェーンベルトが一つ、キャップボルトがいくつかありそれらを当てはめていく。
「ねえ、琉惟君。 思ったんだけどこれどうやって鳴らすの?」
「確かにな。 鐘と吊り下げ部分は固定だから、何か鐘の中にひっかけて鳴らすんじゃないか?
見ろよ、鐘の中央になにか鉤状のものがある」
「確かに、ってもしかしてこれ吊り下げる奴?」
健治が床を叩いた金属棒を指した。
端っこがフック上で、金属の擦れた跡がある。
「大当たりだな。 なんだかオルゴールでも解体してるような気分だ」
「……あるの? そんなことしたことが?」
「それは想像でもしとけ」
琉惟はああでもない、こうでもないと歯車の順番を調整している。
「横向きの歯車は中くらいのじゃない?」
「そうだな。 だがそれなら鐘から伸びた歯車と、チェーンベルトをつなぐ歯車が欠けることにならないか?」
「うーん、だからその鐘から伸びてる棒には、大きい歯車をはめてって……、あれ? 合わない」
「だろう? だから俺も悩んでる」
琉惟は思案を巡らせた。
中ぐらいの歯車があればいい、ベルトの長さと大きさに差が出ないから、うまく歯車を回す仕組みになってくれるはずだ。 そうだ、例えば、もともと鐘楼を吊り下げてる棒の先についている歯車のような……。
「わかった! 健治、脚立乗ってあの釣り棒にくっついている歯車を取れ」
「えー、琉惟君やってよ」
「馬鹿言うな。 俺は高いとこ苦手なんだ。 支えてやるから四の五の言うな」
脚立を固定して支える琉惟に渋々スパナで歯車を取る健治。
次に大きな歯車をその取った歯車のところに当てはめ、取った歯車の中心部の凹凸が大きな歯車とかみ合うようにセットし、取った歯車の横の溝の部分にベルトをひっかける。
そのベルトを床から突き出た歯車の横向きの物にひっかけて、歯車を次々と固定していく。
「よし、これで最後にレバーをひくだけだな」
ギギッと軋むレバーを引いて二人は鐘を見上げた。
カラーンカラーン……。
鐘が鳴った。
それとともにどこからか、何か軋んだ音がした。
「おーい、健治、琉惟! 教会の扉が開いてるぞ!」
「今降りる!」
健治が降りたのを確認して、無事に琉惟も降りた。
正面に行くと教会の扉が開いていた。
中は礼拝堂と教壇、ステンドガラスを背景にした十字架、規則正しく並ぶ長椅子があった。
「ここになんかあるのか?」
神聖というより、長い年月の不気味さを讃えた教会は、人の手が入った様子がない。 その証拠に埃が目に見えて積もっている。
祭壇に少し溝があった。
「ん? この十字架外れるぞ?」
底辺の台座ごと外れた十字架をその溝にはめ込む。
ズズズズズという地鳴りと共に、教壇がスライドして地下へ続く階段が現れた。
「本気なのか? 夢じゃないよな?」
呆然として呟く麻斗に、健治がツッコむ。
「あっちゃん、これが夢ならここにいるみんな、シンクロでもしてるのかもしれないね」
「おっ、これ使おうぜ?」
武斗は燭台についている三本の蝋燭と、祭壇の引き出しにあった予備の蝋燭と、マッチで蝋燭に火をつける。
「なんか地下探検なんてワクワクするね」
「でもなんかかび臭いぞ?」
地下へと伸びる階段を照らすと、地下にも苔のようなものがはびこっている。 ご丁寧なことに壁に、等間隔に燭台が付いていて、順番にそれに火を付けていく。
「ここの村ただの村じゃないよな?」
誰もが思っていた疑問を先頭を歩いていた武斗が口にする。
幽霊とか、お化けが怖い武斗はへっぴり腰だ。
何故先頭を行くことになったかと言うと、敵対するような人間が現れた場合、力的には武斗が一番強いということからだ。
「うん、そうだよね。 なんかただでさえも廃村って不気味なのに、いきなり謎解きとかしないと、開かない教会とかマジで笑えないよ」
「これでお化けとかでてきたら、絶対後で覚えてろよお前ら」
武斗が恐る恐る階段を進む。
何もなく階段を降り切ると、そこは開けた空間だった。
部屋に明かりをつけるとその異様さが浮き上がった。
牛の頭に筋骨隆々とした上半身、人間の男性を思わせるような下半身。
まるでギリシャ神話のミノタウロスだ。
そんなブロンズ像が等身大の高さで、部屋の中央の寝台のような祭壇を挟むように二体が前後に立っている。
「えっここって、まさかサバトやってたりしないよね?」
「教会の地下でか? かなり演出としてはできすぎだろ」
「でもここまでくると確信犯じゃないか?
仕掛けを解かないとまともに入れない扉。 地下通路への入り口が祭壇の下という聖なる場所に秘匿。 なにか秘密の保持を図ったとみるのが妥当なんじゃないか?」
健治、麻斗、琉惟と思い思いに口を開く。
「じゃ、まさかこれは生贄の祭壇? うげぇぇ、気持ち悪い」
みんなあまりの不気味さに探索を忘れ、階段付近に固まった。
かび臭い空気と、時折聞こえる水音が不気味さを増長させる。
「まあ、待て。 落ち着こうみんな。 冷静に観察しよう。
ただの部屋じゃないはずだ。
こんなものだけが地下に造られたなんて不自然じゃないか?」
「そうか? 人に言えない趣味とか、嗜好があって造られた部屋じゃないとしたら、ここはなんの利用価値があるんだ?」
部屋をくまなく見てみるとさまざまな物が見つかった。
髑髏、金の聖杯、まだ中身が残っているワインのボトル、美しく装飾がされた箱、壁に飾られた曇りガラスの板が見つかった。
「なんなんだ? ここ……また謎解きかよ」
頭脳労働は分野じゃないと言いたげに不満の声を漏らす武斗。
知識と知恵が得意分野の琉惟と長谷井は興味深々だし、ひらめきが得意で、つねに小説のネタを探している健治にとっては喜んでいる子供同然だ。
冬哉は記録係というか、カメラ片手に写真をデジカメで保存している。
「その曇りガラスにはなにか書いてあるのか?」
麻斗の問いに、燭台を武斗から受け取った長谷井が興味深そうに角度を変えて見ている。
「あっ、これはまた暗号というか謎解きですね。
『生贄の聖餐を悪魔に捧げよ。 食卓の左にキリストの血を、右に食べかすを』 この箱についての記述はないです」
「これ絶対、この中のものを使って謎を解けってことだよな」
「そんな、触りたくないのはみんな一緒なんだから、我慢だよ。
たっちゃん」
「聖餐って食事のことだよな。 キリストの血っておそらくワインの事だろう? それをまあ捧げるのはわかるけど、食べかすってなんだ?」
「この場合やっぱり……これじゃないの?」
健治が髑髏を指す。
「この場合ほかの選択肢はなさそうだな」
「問題はどっちの悪魔が右と左かだよね」
悪魔の像は同じ形をして祭壇を挟んで向き合っている。
「まず、この箱の謎を解きませんか? 新しい手がかりになるかもしれませんし」
「そうだな……」
箱をあれこれ触っている長谷井の手元をみんなが覗き込む。
「開かないのか?」
「普通の開け方ではないようです」
「ヒントとかあればなー」
「そうそう都合よくあったら、苦労はないですね。 ……ん?」
長谷井がいろいろと箱をひっくり返して、四隅の箱の脚を引っ張った。
「おぉ?」
出て来たのは鍵だった。 それも普通の鍵ではなく古そうな鍵だ。
「スケルトンキーですね。 それもこれは鍵穴を隠している。
普通の鍵でなくどうやら和錠、からくり錠との組み合わせみたいです」
「あれ? スケルトンキーって合鍵って意味でよく使われてない?」
「確かに歴史的にはウォード錠が、ほとんどスケルトンキーで開いたのでそう呼ばれるようになったみたいです。
ウォード錠の鍵は千八百年代に流行った鍵で、スケルトンキーなどで開きやすい、というセキュリティの低さから廃れていったんですけどね」
「むぅ、なんか無駄に役に立つ無駄知識ありがとう」
健治が低く唸った。
「問題は鍵穴ですね。 カラクリ錠でしょうから飾りのどれかにっと」
そうして飾りをいじっていた長谷井が鍵穴を見つけた。
鍵穴は四方にあり、とりあえず適当に鍵を指して回していく。
しばらくそうしていたが、なぜか開かない。
「何かまたヒントが足りないのかもしれませんね」
スケルトンキーを見ながら、ふと長谷井はあることに気が付いた。
「あっ、これよく見たらそれぞれ模様が違う」
脚になっていた部分をよく見ると、動物や生き物の彫金が細工されている。
「こっちはナメクジ、こっちは蛇、こっちは蛙。 こっちはまた蛇……なんの意味があるんでしょう?」
「うーん……。 ん? これちょっと、とれそうじゃない?」
そういって健治が箱の鍵穴に被せてあった飾りをみてみると、飾りの部分がとれてガラスの向こうに模様が見えた。
「生き物の顔だ。 これは蛇?」
「他のも見て見ましょう」
いじって、他のも飾りを外す。 それぞれ生き物の顔が出て来た。
「じゃあ、順番に回していきましょうか」
一つずつ鍵を回して、蓋を引っ張る。
しかし開かない。 四人協力して同時に回しても開かない。
「妙だな、鍵穴に対応する鍵は当てはめたはずなのに……何が違うんでしょうか?」
「えー、こんなところでまた行き詰まり?
気味悪いから早く出たいよ~」
「アホ、みんな同じ気持ちに決まってんだろ。
我慢してんだから、喚くな。 響くだろ」
「三竦み……じゃないか?」
それまで黙っていた琉惟が突然口を開いた。
「え、確かに生き物はあてはまりますが、鍵は四本ですよ?」
「考えてみた。 四本あっても開かない場合、そのどれか一つはフェイクなんじゃないかって。
生き物から考えれば当然三竦みの関係が妥当だと思う。
だとしたらこれはおそらく一本多い蛇が邪魔で、後を三竦みの関係で鍵を回していけば開くんじゃないか?」
「それでは、どちらかの蛇の鍵穴が偽物?」
「可能性の一つではある」
「じゃ、早速試してみようよ!」
健治の明るい声に、左面のナメクジの鍵穴に蛙の鍵を、右面の蛙の鍵穴に蛇の鍵を、そして正面の蛇の鍵穴にナメクジの鍵を入れる。
カチッ
音がしたかと思うと、箱の蓋が開いた。
「あれ? 思ったよりも中は浅いな」
中は布張りの柔らかな小物入れのようなもので、折りたたまれた紙が入っていた。
「これは絵?」
そこには折りたたまれた絵があった。
祭壇描かれている三角が逆三角形を正面として、左に聖杯を、右に髑髏を持ったミノタウロスが描かれていた。
「この祭壇のマークが鍵みたいだね」
「よし、こっち側にはないからそっちじゃないか?」
琉惟が珍しく行動的に自分から反対側を除いてぼそっと呟く。
「あった」
「じゃあこっちに聖杯」
「こちらは髑髏ですね」
「げっ、長谷井、よくそんなもの恐れ気もなく持てるな」
「だってこれレプリカですよ? 平気です」
相変わらず穏やかな笑顔で、にこにこと長谷井はミノタウロスの手に髑髏をひっかける。
そして健治がとぽとぽとぽと、ワインを注ぐ。
ガシャン、ギギギギ。
ミノタウロスの腕が下がり、奥へと続く階段が現れた。
燭台を持って武斗を先頭にみんな後へとぞろぞろ続く。
行きついた先は明るいドアの前だった。
金庫のようなハンドル付の扉に、三つの丸い円盤がついている。
「なんか、また得体のしれない物が出て来たな」
武斗が見上げる。
身長が一番高く、体躯がいい武斗よりもはるかに大きい。
高さは三メートルほどだろうか?
幅は二メートルほどの地下通路が先ほどの祭壇の部屋から繋がっていた。
琉惟と長谷井が興味津々に扉を観察し、あちこち触って確かめる。
「あっ、こっち外れます」
「こっちも外れる」
そう言って二人が外したのは、丸いカバーだ。
二つとも何か、ナンバーロックがかかっているのか、数字のボタンが零から九までついている。
「ここもかよ……。 いい加減うんざりなんだが?」
げっそりという言葉が似合いそうな顔で武斗は脱力した。
「そうか、俺は興味深い」
琉惟の言葉に同意するように長谷井も健治も頷く。
「あっ、琉惟君その箱持って来たの?
ご丁寧に鍵さしたまま」
健治の言葉に琉惟が片手で持っていた箱を見て、頷いた。
「たぶんまだ使うんじゃないかと思って一応」
そう言って正面に刺さっていた、ナメクジの鍵穴から鍵を抜いて今度は、背面の蛇の鍵穴に刺して回す。
カチ。
また開いた音がして、琉惟は箱をひっくり返す。
そして底板を触るとカコッと外れた。
今度は紙が二枚出て来た。
「C―1の扉、C―2の扉の解除法って書いてある」
「どっちがC―1で、どっちがC―2なんだ?」
「カバーには書いてませんね」
「あぁ、ここの埃の所に書いてある」
「左がC―2で、右がC―1みたいだね」
琉惟がおもむろにボタンを適当に押してみる。
ポチポチ……。
「……反応がないね」
記録のため近寄って、デジカメで撮影していた冬哉が不思議な顔をする。
「たぶん、上の鐘楼とかとは違う電源なんだ。
ここまでの明かりも原始的な蝋燭だったし」
そして底板を触るとカコッと外れた。 今度は紙が二枚出て来た。
「第三研究所閉鎖。 存続が無理故、電気系統を破壊し、閉鎖する」
「……やっぱり、閉鎖されてるからか、反応がないね」
記録のため近寄って、デジカメで撮影していた冬哉が不思議な顔をする。
「おっ、もうすぐ五時来るぞ? 今日はこの辺にしとかねーか?」
「そうだね、また今度の機会だね」
「今度は本格的になにか道具を用意したほうがいいかも。
僕もまた浅生さんに接触してみるよ」
「俺はまた男爵にメールしてみる。
冬哉、悪いがデジカメのデータ後でパソコンに転送してくれ」
「わかった。 じゃあみんな戻ろう」
再び戻って行く一向は、入る人がいるとも考えにくかったが、十字架を取り外し、元の飾ってあった場所に据え置いて、地下室の通路を閉じた。
「教会の扉はどうやったら閉まるのかな?」
「試しに閉めて見ればいいんじゃないか?」
「俺はもうあんな高いところ御免だ」
冬哉、武斗、琉惟が口々に言う。
霊園の駐車場に止めてあった車に乗り込み、上織村を後にする。
この時、みんなこれがまだ序章にすぎないと気づいてなかった。




