第1話 雨 -Rain-
雨の音がしていた。
どこか遠くで、水滴が規則的に落ち続けている。
ジェイク・ウォーカーは、ゆっくりと目を開けた。
薄暗い天井。錆びた配管。湿ったコンクリートの臭い。
身体が妙に重い。
頭の奥が鈍く痛んだ。
「……っ」
小さく顔をしかめながら、上体を起こす。
狭い部屋だった。
鉄格子。薄汚れた便器。金属製のベッド。高い天井。白い床。規則正しく並ぶ独房。
そして、自分の身につけている縞模様の囚人服。
見慣れた景色だった。
そうだ――刑務所だ。
ジェイクは小さく舌打ちした。
若い頃、こんな場所には何度も世話になった。
ギャング時代、窃盗、暴力、傷害。
留置場も刑務所も、もはや珍しい場所ではない。
だが今回は違う。
懲役五十年。
仮釈放なし。
八十歳まで、ここで暮らすことになる。
ジェイクは重く息を吐いた。
「……最悪だ」
その時、通路のスピーカーから無機質な音声が流れた。
『第五ブロック、起床時間です。受刑者は整列してください』
ジェイクは鉄格子へ近づく。
長い通路。並ぶ囚人たち。遠くから聞こえる怒鳴り声。誰かの笑い声。看守の足音。
完全な刑務所だった。
看守が通路を歩いてくる。黒い制服。警棒。無表情。
「出ろ」
低い声だった。
ジェイクは舌打ちしながら独房を出た。
*
ジェイクの、この刑務所での生活が始まった。
午前六時起床。
点呼。
朝食。
労働。
昼食。
再び労働。
短時間の運動。
夕食。
夜間点呼。
消灯。
毎日が、その繰り返しだった。
単調だった。
だが、刑務所などどこもそんなものだ。
食堂では毎日のように小競り合いが起きる。
「おい、そっちの方が量多いだろ!」
「ふざけんな!」
怒鳴り声。押し合い。時には殴り合い寸前になる。
もっとも、あからさまな暴力は禁止されていた。
騒ぎが起きれば、すぐに看守が現れる。
取り押さえられ、制圧され、懲罰房送り。
それでも、看守の目を盗んだリンチや嫌がらせは消えない。
囚人社会など、どこも同じだった。
ジェイクも若い頃、同じような光景を何度も見てきた。
だから特に疑問は持たなかった。
ここも同じ。
ただの刑務所。
それだけだった。
*
数か月が過ぎた。
ジェイクは刑務所内の人間関係も覚え始めていた。
食堂で幅を利かせる連中。薬を横流ししている奴。
看守へ媚びる奴。
そして、ただ静かに刑期を待つ奴。
どこへ行っても変わらない。
ジェイクは作業場で黙々と箱を運ぶ。
隣の黒人囚人が笑った。
「おい新人。五十年だって?」
ジェイクは鼻を鳴らす。
「ああ」
「長ぇな」
「なにをやった?殺しか?」
「……うるせぇ」
男は笑いながら煙草を咥えた。
「まぁ、そのうち慣れる」
慣れる。
その言葉に、ジェイクは少しだけ寒気を覚えた。
だが、刑務所という場所はそういうものだった。
最初は地獄でも、人間はいずれ慣れる。
どんな場所にも。
*
夜。
消灯後。
ジェイクは独房のベッドへ横になり、ぼんやりと天井を見上げていた。
遠くで雷が鳴る。
雨はまだ降り続いていた。
あと五十年。
いや、もう四十九年と数か月か。
ジェイクは小さく笑った。
「気の遠くなる話だ……」
誰も答えない。
ただ雨の音だけが、静かに響き続けていた。
【作品設定資料】
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https://www.bitneko.net/eden-100-years/
※キャラクター紹介・世界観設定・EDENシステム資料などを掲載しています。
※仮想刑務所への収監手続きは必要ありません(笑)




