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魔法世界へ、さようなら。  作者: 市谷朱雀郎
バルザ連合編
1/2

始まりの誕生

 目を開けて、息をする。周囲に明かりはなく、ただ閉ざされた深淵と変わらない暗闇だった。眠い目を擦ってあたりを睥睨してもそれに意味はなかった。


 辛うじて音は聞こえる。しかし反響と吸収によって音は濁り、それが一体なんの音であるのかわからない。


 手のひらには鈍い感触がある。何か湿っているような、よくわからない感覚だけがなんとなく理解できる。


 僕は、ゆっくりと立ち上がる。足元はあまりにも不安定だった。肉質な、はたまたクッションのような、ともかく硬質な地面ではなかった。それに、そのよくわからない地面は膝上まで僕を飲み込んでいて、得体の知れなさが不気味だった。


 バランスを崩さないように、ゆっくりと足を踏み出す。足元を掻き分けて、確かな地面を目指した。視界のほとんどない空間で、どこまでいけば良いのかもわからず、ただ本能的なものなのか、僕は歩みを進める。


 遮二無二歩いてどうにか地面についた時、僕の目は暗さに慣れて、目の前に続く廊下を見た。根源的な暗闇の恐怖と、先の見えない直線路は、窺い知れぬ正体不明であって、本物の深淵であった。

 

 目があった気がした。


 それに目があるわけもなかったが、ただ存在そのものの威圧感が、獣に睨まれたかのような錯覚を感じさせる。


 視界は恐怖に狭まって、耳鳴りがひどい。キンと響く音の筋に、若干の自然音が同化して足の進もうとするのを拒んだ。音はさらに複雑さを増し、違和感として消化しきれず残る。輪郭がぼやけてわからないが、耳鳴りのそれだけではないようだ。


 閉じる意味のない目を閉じて、耳を澄ます。耳鳴りは未だ止まず、心臓の音はやけに大きい。遠くに聞こえる水の滴る音に、これはなんだ?ぼわぼわとした音?あぁ、足音か、靴底が床を踏み締める音が聞こえる。それが近づいてくるのがわかる。


 何か不思議と安心できる感じがした。僕の記憶の彼方に預けてあった感情が勘となって、それは敵ではないと訴えかける。


 ざかざかと鳴る足音がはっきりと聞こえる。ランタンか何かの仄かな反射光はあまりにも頼りなかったが、今より幾分かマシだし、何より人の存在を知らせるそれは福音に等しかった。


 安堵や病的な恐怖感からの寛解によって筋肉は弛緩し、僕はその場に倒れ込む。


 意識の消失する最中、遠くの人影は何かしらの声を放っていたように思うが、それを反芻する余裕は僕にはなかった。



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 ロマニア王国は、バルザ都市連合共同体と呼ばれる組織の盟主であった。この共同体の成立についてはさまざまな所以があるが、前身となった国家はバルザ帝国と言ったとだけ知っていれば問題はない。


 また、盟主であるロマニア王国はそれ自体が都市連合の様相を呈している。王のおわす中心都市ウルヴィスを筆頭にサテマ、ノトス、ゲライオスと続く4都市から成る国家であり、国家の運営は、各都市を管轄する貴族による合議制であった。貴族は王に臣従し、王は貴族による都市の自治を認めていた。貴族議会は王によって設立され、議決に関してもその殆どが王の権限によるものであった。


 ある時期、バルザ都市連合共同体(以下バルザ連合と呼称)は帝国時代から反バルザの根が深い地域からの襲撃を受けていた。盟主であるロマニア王国国王は辺境都市防衛のために兵を遣わせ、これを撃退した。ただし当時の王は自前で育てていた騎士団を派遣せず、血税によって集めた烏合の衆とも言える兵を向かわせたために、バルザ連合の他都市を含めた兵に大きな損害を出したのである。責任は当然訴求された。


 しかしこの決断を下した当時の王は、反バルザ勢力を撃退する前に流行病に罹り病死してしまっていた。したがって、次代の王はまずこの問題を片付けなければならなかった。次代の王の下した決断は全くもって投げやりなもので、当座の問題解消のみに焦点を置いたものだった。


 曰く、「血税による兵は正式に国家に忠誠を誓い、新たに第二騎士団として同盟国に駐留せよ。」と。


 結果として、この処置はうまく行った。バルザ連合加盟国には騎士団駐留による国土防衛を、兵たちには名誉と安定した職を、ロマニア王国にはほとぼりが冷めるまでの猶予を、と言った感じに利益があった。感情的な部分で、燻る禍根が残ることになるのはまた別の話である。


 この事件を皮切りに、騎士団の乱立が始まる。第三騎士団は地方の盗賊退治や、災害や戦争など異常事態時の治安維持などを目的として設立され、第四騎士団は主要都市防衛の任が与えられ、第五騎士団には都市法の執行、つまりは警察力の行使を主任務とする体制が築かれたのである。


 この潮流により、結果的に治安は大きく改善し、私刑が蔓延ることもなく、また血縁者による報復も禁止された。盗賊はその殆どが弾圧され、戦争や災害など緊急時であっても、著しい治安の悪化はほとんどなくなっていたくらいである。


 そして、とりわけ今現在起きている


    「「サテマ消滅」」


などと言う一大事であったとしても、これはある程度機能していた。


 ロマニア王国第二の規模を誇る都市サテマが消滅したと言う報告を受けた貴族議会は、ある種諦念とも取れる絶望に支配されていた。サテマと言えば、ロマニア王国に於ける流通の中心地であり、他国との貿易窓口の集中していた場所でもある。つまりは、ロマニア王国の富の集積地と言い換えても問題はない。そこが消滅するとなると、国が傾くどころの話ではなかった。バルザ連合自体の存続に関わる大事件である。当代のロマニア王国国王である、ラロザ・ア・ロマニアは動揺を隠しきれないと言った姿で、とりあえず口を開く。


 「避難民の受け入れはどうなっている。」


 「第三騎士団の報告によりますと、避難民は数えるほどしか居らず、言葉通りの意味でサテマは消滅した模様です。」


 粛々と報告をこなす青年はサテマ市長であり、サテマ領主の息子アメア・ザイオンである。偶然ウルヴィスに来ていたので助かったが、家族はと言うとそう言うわけにもいかない。彼の沈痛な面持ちもこの議会の諦念を作り上げる一因である。


 「、、、そうか。では、私たちは後手すら打たせてもらえないわけか。」


 「サテマに関して言うならば、、、その通りです。」


 ため息が出そうになるのを我慢しつつ、ラロザは思案を巡らせる。幸いにも季節は春に差し掛かっている。食糧備蓄もそう問題が出る程ではない。サテマにいた荷馬が都市消滅とともに消え去ったのは痛手ではあるが、他の3都市の存亡に関わる事態ではなかった。


 「そもそも、なぜ大都市であるサテマが消滅するようなことになるのだ!」


 ガスタ・オーヴェルが堰を切ったかのような怒声を漏らす。議会の面々はその真っ当な疑問に答えるべき回答を持ってはいなかった。ガスタは禿頭に青筋を浮かべて今まさに爆発しそうな怒りを必死に抑えた様子である。


 「第三騎士団及び第五騎士団による合同調査が今取り急ぎ行われています。駐屯の第四騎士団サテマ分隊が消滅したのは痛手でした。」


 「そのような感想はどうでもいい!それで、いつその調査とやらは終わるのだ!」


 「如何せん、調査が始まったのは一昨日の晩のことです。第一報が来るのもまだ先でしょう。」


 議員たちは下を向き、ガスタはさらに怒りを溜める。総騎士団長アルトバルドの言でさえ、その空気感を解消するには足りないようであった。


 「説明ありがとう総騎士団長。では、その報が上がるまで議会は一時閉会とする。守るべき所領があるものはその防衛に専念し、そうでないものは連合の駐在官に先触れを出せ。説明に官吏を向かわす。」


 そうして何の進展も得られないまま、会議は一応の終結を見た。

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