第42話 少女Eの想い②
生徒会室に入ると、左から生徒会長、生徒指導の先生、担任の先生、生徒会担当の先生がいた。担任の先生は妊娠していたため、なぜここにいるのか不思議だった。
軽く志望理由などを尋ねられた次の質問。
「あなたの長所はどこですか?」
「はい。私は何事も一生懸命取り組むところが長所だと思います。」
「それだけですか?」
「あと、諦めず最後まで取り組むところです。」
抽象的だと思った。でも私は人より少しだけ勉強ができるところしか価値がない。
ここまでは良かった。理不尽なのは次からだった。
生徒指導の先生が言った。
「そういえば、今日はどこの道から学校に来ましたか?」
「大通りの2つの道のうち左からです。」
私はいつも右の道から行く。しかしそこからだとどうしても上るのが苦しくて、今日だけ左の道から行った。HR後に担任の先生から「生徒指導の先生が時々登校するあなたを見るらしい。今日は見なかったらしいから、左の道から行ったんでしょ?今後は気を付けて」ということを言われた。しかしそれは嘘だと思う。時々というならば、私が車、またはほかの道から登校した可能性だってある。きっと左の道から行く私を見たのだろう。
「なぜ左の道を使ったんだ?そこは下り専用だから使ってはいけない。自転車を押していったのならまだ良いが。」
「あ、押していきました。私は咳が出るので右の道だとなかなか登れなくて、苦しいからです。」
「そう。今回はあなたを信じる。そんな子じゃないと思うからね。でも右も左も変わらないと思うが。」
私は左の道でも十分苦しかった。しかし右よりはマシだったし、左の道を使ってはいけないということも知らなかった。
次の質問は、担任の先生からだった。
「ところで、呼びかけはしていますか?」
「、、、 これからはしようと思います。」
「いや、だから今までしていましたか?」
「、、、 いいえ。」
「そういえば、生徒会役員選挙から1カ月経ちましたね。」
他の先生と目を合わせて、ですよね、と言っていた。
「体調不良で1週間休んでいたとはいえ、以前もしてくださいと言いました。」
私は怒鳴りつけたかった。生徒会役員選挙からは1カ月も経っていない。約2週間くらいだ。それに、生徒会になれるとは限らないのに呼びかけをする奴がどこにいる?私は学級委員ではない。確かに呼びかけをしろとは言われたが、私はその次の日からずっと休んでいて、それから初めて来たのは昨日だ。まだ回復したわけでもないのに、無理がある。
「これからは呼びかけをしようと思います。」
「何を言うのですか?」
「例えば、みんなが静かではなかったら静かにしてください、2分前着席に間に合っていなかったら座って下さい、と呼びかけしようと思います。」
「それだけですか?」
「、、、 今ぱっと思い浮かぶのは先ほどの2つだけですが、他にも呼びかけが必要な場面では呼びかけをしようと思います。」
「明日からちゃんとしてください。」
それからのことはよく覚えていない。最後に生徒会長が一緒にがんばりましょう、楽しみにしていますというようなことを言っていて涙が出そうになったこと、厳しいとは聞いていたがここまで理不尽だったことに泣きたかったこと、家に帰ると熱が上がってまた休むことになったということは覚えている。
あんなことを言われたのにもかかわらず、私は生徒会執行部になりたい、という夢を諦めることができなかった。
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生徒会役員選出の発表の日も、私はまだ熱が下がらず休んでいた。
そして、熱は完全に下がったが咳は止まらないまま学校に行くと、友達が「ーーちゃん名前呼ばれていたよ!」と教えてくれた。
言葉では表せないほど嬉しかった。これから頑張ろうと思っていた。
また、部活で挑戦したP検3級に合格していた。1年生で3級は私だけだし、資格は一生残るものだからこれも嬉しかった。努力が報われた気がした。
さらに、一番良い知らせが舞い込んできた。
周年記念未来の市作文コンクールで特別賞をいただいたのだ。
部活で各学年1人応募で、急に言われて2日で仕上げたものだった。9000点以上応募がある中で賞をもらえたのは驚きだったし、幸せだった。
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周年記念ということで、私の街では人気キャラクターのイベントみたいなものがあった。
私はちっとも興味がなかったし、勉強がしたかった。
しかし母が行こうよ、と誘ってきた。もちろん拒否した、行きたいなら一人で行けと言った。最初は優しく言っていたが私の意思が強いと知るとだんだんイライラしてきて、暴言を吐くようになった。
昔先生と問題になったことがあった。そんなんだから先生にいじめられるんだ、あの先生はあなたを「見抜いて」いた、どうしてあんたなんかが生徒会に。
それは私にとって思い出したくない経験だった。それに私を生徒会に選んだのは先生だ、そう言った。
親に口答えするなんて失礼だ、と言われて殴られた。
「失礼」と言われたのも、顔を殴られたのも初めてだった。両手で何度も何度も殴ってきた。いつもは腕や腰、お腹とかだったのに。いわゆる平手打ちではなく顔面をつぶすような、めりこんでくるもので、ものすごく痛かった。涙を堪えるのに必死だった。
それからも色々言われたが、このまま勉強できないなら、と思った隙に無理やり連れて行かれた。
しかし私たちの場所からは何も見えなくて、未だジンジンとする痛みのまま無駄に終わった。
痛い。痛い!
そのあとすぐ父が帰ってきて母は機嫌がよくなったようで、笑顔も見せるようになった。痛みが治まらず、深く傷ついている私とは反対に。
それから普通に話しかけてきたが私に一言も謝罪はせず、「悪いのはあなただ」の一点張り。謝罪が欲しかったわけではないが、今日も密かに涙を流した。




