299・目で見ても信じられない出来事ってあるよねって話
『汝ら、神の手から逃れる事、能わず』
頭の中に直接聞こえて来たフランコの声、ゾワリと総毛立つ程に不気味で暗くそして威厳に満ちた声、人のそれとは思えないほどに重厚で荘厳な音の響きはまさに神の声のように思えた。
マレッサやパルカの声に比べプレッシャーが段違いだ、聞いてるだけでなんだか頭が痛くなってきた気さえする。
『ヒイロ、無事もんか!? あのやろう、パルカの旧神体から情報を得やがったもんね、それにしても加減なしの神言を使うなんて何考えてるもん!? ここは地上もんよ!!』
何故かマレッサが酷く焦った様子で俺の無事を確認してきた、ちょっと頭痛はしたがそんなに心配されるような状態じゃあない。
というか神言ってなんだ? マレッサの焦りようから見て恐らく地上で使うような物じゃあないって事は理解できるが。
「俺はちょっと頭痛がするくらいで平気だけど、どうしたんだマレッサ?」
『おお、無事そうでよかったもん!! っていうかなんで平気もん、ヒイロは人間もんよね!? なんで神言の効果範囲内で頭痛程度で済んでるもん!?』
俺が無事である事に逆に困惑するマレッサ、何でと言われても俺にも分からない。
守護のお守りとか大罪神の権能が入った太陽の涙石、あと色々と神様の加護とかも貰ってるし、そういった物が複雑に入り交ざってなんかこう良い感じになったんじゃないだろうか。
俺が何か答えようと思った瞬間、ガクンッとフィーニスの動きが止まり、ゆっくりと落下し始めた。
「あーもー、なんなのよこれ!? 何かに干渉されて身体が動かせない!? 精霊王であるフィーニスちゃんに拘束系の魔法とか魔眼とか呪いとか通る訳ないのに、どうなってんのよ!!」
「あちしもうーごーけーなーい、なんでー」
「おいらは多少動けるが、かなりきついな。頭ん中、ぐちゃぐちゃにひっかき回された気分だ……」
フィーニスとナルカは身体を動かせない状態で、セヴェリーノはそれほどでもないが状態はかなり悪いようだ。
この三人がこんな状態なのに、なんで俺はほとんど平気なんだ? 確かに色んな物を持ってはいるが、それでもこの三人を越える防御が俺にあるとは思えないんだが。
『ヒイロが無事な理由は後で考えるもん、これからどうするかを考えるもんよ!! 浮遊魔法で浮かせてるから一気に落下する事はないもんけど、もう外には出られないもんよッ!!』
マレッサの言葉で気付いたが、既に竜巻は閉じており、空は全く見えなくなっていた。
もはや、完全な風の檻に閉じ込められてしまったという事だ。
「とりあえず、神言ってのは一体何なんだマレッサ? フィーニスやナルカ、セヴェリーノがこんな状態になったのはそれのせいなんだろ?」
『そうもん、神言は神域で使用される神の言葉もん。神域という高次世界の言葉は地上種の魂すら破壊しかねない程に力に溢れてるもん。それは地上種である以上、人間も魔族も精霊もそして竜すらも関係ないもん、まぁ竜種は多少抵抗値高いみたいもんけど。当然、神にはほぼ効果はないもん、フィーニスには竜の因子があるし、ナルカとセヴェリーノは神の因子があるもんから、多少抵抗出来てるみたいもん、普通なら魂が壊れててもおかしくはないもん』
「いや、それなら余計に俺はなんで平気なんだって話になるんだが?」
『そこは本当によく分からないもん、まぁデイジーが何かしたに決まってるもん、そうでないと色んな加護とかある程度のヒイロが無事な理由にならないもん!!』
うーむ、マレッサに分からないと言われてしまったら何も言えない、マレッサの言う通りデイジー叔父さんのおかげと思うしかない。
そこでふと思ったが、フィーニスの動きが止まってゆっくり落下しているというのに、フランコの追撃が来ていない、デイジー叔父さんが本体の動きを止めているとしても、俺たちを攻撃してくる余裕があったフランコがなんで追撃をしてこないんだ?
俺と同じ疑問を持ったのかマレッサが下に居るフランコに視線を向けているのに気付いた。
『……なるほど、それなりに無茶したって事もんかね。本来なら世界の構成要素の違いから地上では発する事すら出来ない神言、あいつはパルカの旧神体を塵よりも小さくして散布する事で周辺を疑似的な神域とする事で神言を無理矢理使いやがったみたいもん。ただ、あの加減なしの神言は中身が神であっても、肉の身体の方は耐えられなかったみたいもん。たぶん、連続では使えないと思っていいもんね、そして――』
マレッサが言い切る前にフィーニスからバチンッと何か硬い物がはじけ飛ぶような音した。
ゆっくりと落下している中、フィーニスは岩で覆った手を握ったり広げたりして、自由に動く事を確認している、どうやら神言の効果が切れたようだ。
『効果自体は本来のそれと遜色なかったもんけど、疑似的に神域を再現した程度だと地上での効果時間はそこまで長くはないみたいもん。言っとくもんけど神言は地上種には防ぎようがないもん、次に使われる前にアイツを倒すか、パルカの旧神体つまりは魔王躯体を引き剥がせばなんとかなるはずもん』
「一体どうやってフランコから魔王躯体を引きはがすんだ?」
『魔王躯体はより強い者に引き継がれる仕様もん。なら話は早いもん、アイツをぶっ倒せばいいだけもん!! デイジーがアイツを倒すまで、わっちたちはセヴェリーノに宿る異神をアイツらに取り込ませないようにするもん!! 倒した後の事は後で考えればいいもん!! って訳で、デイジーあとは任せたもんよ!!』
マレッサの大声にデイジー叔父さんは応えない。
どうしたのだろうか、多少弱体化しているとはいえ、デイジー叔父さんが冥域の炎や神言なんかでどうにかなるとは思えないのだが……。
どうにも様子がおかしい。
咳き込んでいる、あのデイジー叔父さんが激しく咳き込んでいるのだ。
嫌な汗が背中を伝うのが分かった、口を覆う掌の隙間から赤い何かが滴り落ちるのが見えた。
あり得ない、あり得ない、あのデイジー叔父さんが血を吐いているだって?
信じられない光景に俺はおろか、マレッサもフィーニスもナルカもセヴェリーノも絶句していた。
フランコすら怪訝な顔でデイジー叔父さんを見ている。
その時、頭上で爆発音が轟き、冥域の炎混じりの風の檻を突き破って何かが落下してきた。
それは凄まじい勢いでデイジー叔父さんとフランコの間を通り抜け、地面に激突し巨大なクレーターを作り出した。
大量の土煙が立ち込めるクレーターの中心には二つの影が悠然と佇んでいた。
「カカカカカカッ、たかが勇者、たかが人間風情がここまでやるかッ!! 実に悪くない、いや、むしろ良い、この神が許す、もっと楽しませろ人間!!」
「素敵だわ、素敵だわ!! こんなに思いっきり遊んでもちっとも壊れたりしないだなんて!! えぇ、えぇ、もっと楽しみましょう、わたしも知らないわたしの全部、出し切らせてくださいな!!」
互いに笑い合う二人、それは傲慢の大罪神アロガンシアと『全知全能』の勇者特権を持つアリスの二人だった。




