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293・急展開過ぎてついていけないよって話

パキィン、と水晶か何かが割れたような酷く高い音を響かせて、ソロモンの魂核が完全に砕け散った。

砕けたソロモンの魂核の中心に何か黒く輝く小さな光が浮いているのが見えた。

アレは一体――


『あ、ヤバいわ。人間、目を――って間に合わないわね、えい』


「パルカ何をギャアアアアアア目がぁああアアアア!?」


唐突にパルカのクチバシが俺の両の眼を目にも留まらぬ速度で突っついてきた。

余りの痛みに俺は両目を抑えて叫び声を上げつつ悶絶してしまった。


「あらぁん、パルカちゃん助かったわぁん。あと一瞬遅かったらヒイロちゃんの眼が失明してたわねぇん。これがパルカちゃんの昔の神体ってヤツを加工して作った魔王躯体なのねぇん。す~っごくピッカピカで、イカしてるわぁん、ブラックっていうよりダークネス、全てを包む夜の様な静けさって感じでクールねぇん」


『当然よ!! 旧式とはいえ神の身体、神気とか威光とかが溢れ出るってものよ!! ……というか旧式だからこその輝きなのよね。地上種には強すぎて毒にしかならないから出力下げる加工をしたんだけど、何故か活性化してるわね、ソロモンの魔力を取り込んだ影響かしら?』


デイジー叔父さんとパルカの話を聞く限り、パルカが俺の眼をクチバシで突いたのは、魔王躯体を見ると俺が失明してしまうからのようだ。

黒い光、なんだか矛盾してる気がするがそんな感じの光だったが、そんなに凄い光だったのか。

まだ眼がズキズキと痛むがパルカには感謝しないとな、ホント痛いけど。


『あーやっぱりデイジーの方に来てるもんね。どうするもん? デイジーなら壊す事は出来るだろうもんけど』


『はぁッ!? それはダメよ、魔王に代々受け継がれてきた魔王躯体なのよ!? 魔王の証明に必要……、まぁリリシュとサタナスには魔王躯体が受け継がれてなかったけど。魔王国の子たちに魔力供給するのに必要……、いやでもソロモンが隠してたし、リリシュとサタナスが魔王してた間はどうしてたのかしら……? ちゃんとみんなに魔力は供給されてたわよね、ソロモンが肩代わりしてた? そんな子じゃあなかったと思うんだけれど……? まぁいいわ、とりあえず魔王国に必要な物なんだから壊すのはダメよ!!』


パルカは魔王躯体の破壊を拒絶した、それは当然と言えば当然だろう。

なにせ自分の守護する存在を守る為に作られた物なのだ、色々と複雑な事になってはいるようだが、だからと言って壊すだなんて納得できる物じゃあない。


「うーん、わたくしとしても、特に必要のない物ではあるけれど、パルカちゃんが魔王ちゃんの為に作った物なのよねぇん。壊すのは憚られるわぁん。あと、ソロモンちゃんの魂核が砕けた影響かしらねぇん、

ちょっとセヴェリーノちゃんのお兄さんの様子が変だわぁん」


「え?」


ようやく、少し見えるようになってきた眼でセヴェリーノの兄、フランコの姿を探す。

フランコの様子がおかしい事に気付いたからか、セヴェリーノとバルディーニの動きも止まっていた。


「うぐぅ、あがああああああああ、か、身体がぁ、く、くずれぇえああああああッ!!」


フランコの身体が末端から崩れて散っていく、風に飛ばされる砂の様に。

セヴェリーノはその様子を複雑そうな表情で見つめていた。


『恐らく、ソロモンの魂核が砕けた事で、ソロモンの肉に汚染されてた身体が自壊を始めたんだろうもん。魂まで浸食されてるみたいもんから、もはや神でも助ける事は出来ないもんよ』


マレッサの言葉に俺は何とも言えない気持ちでフランコを見つめる。

その時、ふと気づいた、バルディーニの視線がフランコには向いていないと。

その視線はフランコの更に後方、砕けたソロモンの魂核があった場所、そこに浮かぶ黒く輝く小さな光、つまりは魔王躯体に向けられていた。

バルディーニは呆けた顔で何かをぶつぶつと呟いている。


「あぁ、ただの戯言であろうと思っていた、勇者とは言えたかが人間の言葉、信ずるに値しないと。今回の進軍で多少なり四大公爵の力を削げれば良い、あわよくば始末をと考えていたが、まさか、まさか本当に……。ソロモンめ、そんなところに隠していたのか、守護神パルカ様より授けられた魔王躯体をッ!!」


道中に居るフランコの事は恐らく目に入ってすらいない、そのまま焼き尽くし消し飛ばす勢いでバルディーニは爆炎を滾らせながら、魔王躯体へと突き進む。

だが、その突進を轟雷を纏ったセヴェリーノが力ずくで受け止めた。


「クソ兄貴の始末はおいらがしなきゃあダメなんだよ、元帥さん。これだけは誰にも譲らねぇ。通りたきゃあ避けて通りなよ」


「うるさい、邪魔立てするな人間風情が!! 人間如きを避けて通れだと、ふざけた事をぬかすな!!」


セヴェリーノの言葉に激昂し更にバルディーニは炎の激しさを増して、周囲の雨を雲を蒸発させていき、凄まじい灼熱の蒸気を生み出していく。

視界が高熱の蒸気で埋め尽くされる、死の視線は感じないが、たぶんデイジー叔父さんの側から離れたら、一呼吸で俺の喉や肺は焼けただれるだろう。

そんな事を考えていると、激昂するバルディーニに対して苛立ちを隠さない様子のセヴェリーノが怒声をあげた。


「魔王躯体とやらに興味はないんだよ、おいらはッ!! ちょっとすっこんでろ赤毛ッ!!」


「よくぞ吠えた異神の末裔、兄弟仲良く塵一つ残さず焼き尽くしてくれるわッ!!」


灼熱の蒸気の中、爆炎のバルディーニと雷神を宿すセヴェリーノが近距離での肉弾戦を始める。

周囲では二人の戦いの余波だけで、凄まじい炎と雷鳴が轟き、飛び散る火花がそこかしこで爆発を巻き起こしている、二人の戦いをフランコは虚ろな表情で見ていた。

そんな中、デイジー叔父さんの目と鼻の先で魔王躯体の黒い光が空中を漂っていた。


『悪いけれど、それは魔王であるサタナスの物よ。いくらソロモンを倒して魔王躯体がデイジーちゃんを選んでるとしても、それは魔王の為の物なの。そこは譲れないわ』


パルカがデイジー叔父さんと魔王躯体の間に入り、凛と澄んだ声でそう告げる。

デイジー叔父さんもそれは理解しているし、魔王躯体を受け取る気はないはずだ。

それでも、パルカは魔王国の守護神としてそう言わずにはいられなかったのだろう。


「えぇ、もちろんよぉん。わたくしはその魔王躯体を受け入れる気はないわぁん。パルカちゃんの意思を尊重するから安心してちょうだぁい」


『ありがとうデイジーちゃん、貴女ならそう言うと思ってはいたわ。色々とこちら側に不手際があったのは事実、埋め合わせはいずれするわね』


「あらぁん、そんな事気にしなくていいわよぉん。誰にだって失敗はあるんだもの」


『そうだとしても、神としての沽券に関わるのよ。ごめんなさいね』


一切引く気のないパルカを見て、デイジー叔父さんはやれやれと言った感じで苦笑いを浮かべた。

灼熱の蒸気、激しい炎、轟く雷鳴、それらが多少視覚や聴覚を損なったとしても、通常のデイジー叔父さんならばそれに気づく事が出来ていたはずだった。

だが、度重なる様々な要因がわずかばかりにデイジー叔父さんを弱体化させていた、それらが偶然の積み重ねだったのか、もしくは誰かの策略だったのかは分からない。

あるいはデイジー叔父さんの弱体化とは無関係に目の前のパルカに気を取られていただけなのかもしれない。

けれど、どんな理由があるにせよ、その場に居る誰もがそれに気付けなかった。

もはや塵となって消えゆくばかりと思っていた、それ、半欠けになっているフランコが魔王躯体に手を伸ばしていた事に。


『新たな身体が必要、これならば、我らにふさわしい』


その声はフランコの物とは明らかに違っていた、酷く落ち着いていて、それでいて神々しく、その上で身震いする程に恐ろしい物だった。

その声にみんなが気付いた時、フランコは掴んだ魔王躯体をゴクリと飲み込んでいた。

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