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死んだ幼馴染が異世界で魔王やってた  作者: ないんなんばー
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別録・勇者ガラルドの躍進〜成長編その4〜

 

「どうだった?」


「駄目だな、朝つけた傷が塞がっているようだ。再生能力が高すぎる。」


「あの場所から動いていないのは幸いだが、如何せん、奴を殺すだけの手がない、か。」


ヤード領に現れた大型のモンスター、それに対処しようと集まった狩猟者達は頭の痛い事実と対峙していた。


それはヤード兵も同じで、幾度となく突撃を繰り返し、被害を出さぬまま退却する、そこまでは良い。

問題は、モンスターの回復に攻撃が追い付いていない事だ。


斬れば切れるし、魔法も効果が見られる。

続けて攻撃をすれば、どれほど体力が多かろうといずれは倒せる筈だ。


しかし、そうなると相手も黙ってはいない。


何度か倒せそうな勢いがあったが、その度に反撃にあい、大きな痛手を喰らっている。


何故か今居る場所からは動かないが、いつ動くのかと思えば楽観視も出来ない。

結果、ほぼ睨み合いのまま動くに動けず、王都からの増援、及び、何処かの勇者の到着を待つことになっている。


「しかし、言いたくは無いが倒せるのかね。傷は治る、毒も効かん、飢えん、寿命も無い。

良く良く考えりゃ、モンスターってのは厄介極まりないな。」


「まあそうだろうよ、だが、その為の勇者さ。

幸運なことに、ガラルド坊っちゃんがこっちに来ているそうだ。」


「おお、閃光のガラルドか。確かに今一番の勇者はガラルドだろうな。他の勇者とは何か違うもんを感じるぜ。」


人間の強さの完成形、勇者という存在は、こうして人々の希望となっていく。






「なりません、私も戦場に向かいます。」


ヤード領首都、ヤード家の屋敷。

ガラルド達は到着の挨拶もそこそこに、直ぐ様モンスター討伐に出ようとしていた。


当主である父は、領民の心の安寧の為に出ることは出来ず、名代としてガラルドの兄が軍の司令として戦地にいるそうだ。


ガラルドも直ぐに追いたかったのだが、準備を終わらせていざ、という時に、リシュリーも同行すると言い始めたのだ。


「駄目です、殿下を危険に晒すわけには参りません。」


「そうよ、私達は勇者とその仲間として、故郷を守るために行くの、わかって、姫様。」


ガラルドとアリアはなんとか止めようと説得するが、リシュリーは首を横にふるばかりだった。


「私も戦いたいなどとは思っていません。後方の支援、特に回復要員としてお連れ下さい。

それに、いずれは此処が私の故郷になるのです、黙って見ていることなど出来ようもありません。」


と、同じようなやり取りを何度も繰り返している。

噂に聞くリシュリーの光魔法の力は確かに有用だろう。

しかし、やはり王族を戦地に出すことは躊躇われるし、ガラルドとしては仲間として、そして、妻に迎える者としてリシュリーを守りたいのだ。頷くわけにはいかない。


「私は、大切に飾られるつもりはありません。勇者の妻として、一人の人間として、貴方達と同じ道を歩みたいのです。」


「姫様…」


「…分かってください、僕はまだ、貴方を守りきれる程強くはない。機会は、これからだってまだまだ有るはずだ。」


「それでも、」


リシュリーは一度言葉を切ると、強い瞳で集まっている領民を見渡す。


「それでも、私は後悔のある選択を受け入れたくありません。

出来ることをしないのは傲慢です、持てる力を使わないのは怠慢です。

私はリシュリー=ミゲル=リーベンスです。そうであるし、そうでありたいのです。」


迷いのない、力強い意志。

それを持っているからガラルドは戦える、それを持っている者を戦士と呼ぶ。


「準備は出来てる?強行軍よ、お姫様にはキツイかもしれないけど、大丈夫よね、リシュリー。」


「アリアさん…、はい、いつでも出られます。」


ああ、まただ。

ガラルドは拳を握る。

このところずっと、アリアに置いて行かれていると感じる。


これでは駄目だ、僕にはまだ足りていないものが多い。

決めるのだ、全て背負う覚悟を。

成るのだ、勇者という希望に。


「…後方からの支援魔法、それと、回復を頼むよ。旗色が怪しくなったら、僕たちより先に避難を。

ヤードを守ろう、リシュリー。」


「はいっ!」


きっと、また迷い、間違い、傷付けるのだろう。

それでも、前に。

ただ、前に。


それが、ガラルド=ルイ=ヤードとしての生き方なのだ。







馬車を最速で飛ばし、ヤード領の端、宿営地が建ち並ぶそこへガラルド達は到着する。


早速状況を聞くと、ここ数日動く気配の無いモンスターを、三方向から監視するように囲んでいるそうだ。

ヤード領軍の位置を聞き、今度はそこへ向かう。

向かう途中で、前方から歩いてくる避難民の一団を目にする。


その顔は絶望に沈み、やつれているように見える。


こんな現実を、落陽を許すわけにはいかない。

ガラルドは心のままに叫ぶ。

この熱を、思いを、どうしようもなく伝えたかった。


「領民達よ!よくぞ生き延びた!

私はガラルド=ルイ=ヤード!勇者ガラルドだ!

たかがモンスターが何するものぞ!必ず!必ずや私が打ち倒してみせる!

だから安心しろ!このヤードにこれ以上の悲劇は必要ない!

風に聞くがいい!私の雄姿を!戦いを!そして知れ!

我々ヤードは!決して負けない!」


避難民から戸惑ったような声が上がり、やがてそれは歓声となる。

希望に満ちた声に、もう暗さは無い。


そして、その声に、熱量に背を押される。


これが、勇者なんだ。



やがて見えてくる、ヤード領軍。

そして、その向こうには巨大な、屋敷ほどもあるモンスターの姿。


「大きい…!」


「とんでもないわね…」


真っ黒な体毛に、頭からは二本の大角。

四本の足は強靭で、その蹄を振り上げている。


牛、それが一番近い生き物だろうか。


(確かに、大きい。まともにやりあって倒せるとは思えない。けれど。)


僕は勇者だ。勇者ガラルドだ。


「倒そう、あれを。僕達で。」


落ち着いた声に、アリアとリシュリーの心も落ち着きをみせる。


ガラルドの目は、敵だけをしっかりと見つめていた。

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