別録・勇者ガラルドの躍進〜成長編その3〜
「それは真か!」
リーベンス王城内、執務室。
リーベンス王であるベントランは、思わず椅子を倒す勢いで立ち上がると、報告に来た大臣に詰め寄る。
「兵たちのついた頃には既に村は壊滅、巨大な獣の足跡と爪痕、更には住人と思わしき人の手足が…」
「もう、よい。」
青褪めながら報告を続けようとする大臣を慰めるように肩を叩き、ベントランは静かに告げる。
「まさか、封印が破られる事になるとはな…」
王国の辺境地であるヤード領、魔界と最も近いその地には、遥か昔から一体の巨大なモンスターが封じられていた。
初代ヤード家当主が、多数の犠牲を以って地下深くに落とし、更にそこを山にする事によって解決をみせたという過去があり、それがヤード家の生まれた経緯でもある。
この事はヤード家と、周辺貴族、王家しか伝えられていない、その為に民の避難が遅れたのだと思うと、ベントランは我が身を切るような痛みと、先見の甘さを痛感した。
「ヤード家は既に動き出しておるのだな?」
「はい、民の避難は進んでいると報告されています。また、都合よく、とは言えませんが、勇者ガラルド殿がリシュリー王女殿下と共に帰郷しておりましたので…」
「リシュリーが…、そうであったな。無事を祈る事しか出来ぬ父を許してくれ、リシュリー…。」
僅かに沈黙し、目頭を押さえるも、直ぐに王としての顔を取り戻し、ベントランは矢継ぎ早に大臣に指示を出す。
「まずは避難した民が飢えぬように食糧を送れ、これは直ぐにでも王都を出させよ。
また、いつまで避難せねばならぬか分からぬ、周辺から衣服や毛布を買い集めて第二便とせよ。
ヤードに兵を送るのはそれと並行して行うように。緊急用の兵舎を建てられる技師も同行させるのだ。」
その後も入れ替わり訪れる大臣達に細かく指示を出し続け、全ての案件を終わらせた時には、日が暮れる頃になっていた。
この世界では、人は誰しもが強くなれる可能性を秘めている。
しかし、強大な敵には凡百の兵よりも、同じく強大な力を持つ英雄を当てるのが被害を抑えるためには重要である事も確か。
その点においては、リシュリーが現地に向かっているのは良かったのかもしれない。回復と防御に関しては群を抜く力を持っているからだ。
(すまぬ、娘よ。だが、国を救いえる英雄達を、どうか守ってやってくれ。)
ベントランは窓の外を一度仰ぎ、魔界から送られてきた書状に目を落とした。
ベントランが報告を受ける一週間前、ガラルド達はヤード行きの馬車に乗り込む所だった。
アリアに言われ、自分でも深く考え直したガラルドは、いくつかの贈り物と共にリシュリーを訪ね、そこで正式に求婚、返事を貰って直ぐに、ヤード家に招待する事となった。
一つは顔合わせのため、結婚する女性が、男性側の両親の所へ向かうのは王族であろうとも変わらず、オリジンの案内をするために領に帰るのだから、一緒に向かうことになったのだ。
ガラルドという戦力がある以上、余計な護衛も要らず、話はすぐに通り、リシュリーは浮かれる気持ちを抑えながら滞在の準備をしたものだ。
馬車は王族用の華美な物で、乗り心地も保証されている。
ガラルドもこれにはニッコリ。
王女のお尻の心配をするあたり、ガラルドにも少し余裕が戻って来たのかもしれない。
馬車は五日から一週間かけてヤード領へと向かう、一度だけ野営することになるかもしれないが、より安全な道を通る為、リシュリーは笑顔で受け入れていた。
数名の護衛と共に馬車が走り出す、馬車の中にはリシュリーの侍女二人を含む五人が乗っている。
ガラルドはぼんやりと外を眺めるだけだが、アリアとリシュリーは侍女を巻き込んでお喋りに夢中だ。
(結局、僕が一人で空回りしてたんだなあ。)
自分が想像していたよりも、ずっと穏やかな関係が築けているようで、ガラルドはつい溜息を吐きそうになる。
旅は終始順調で、ガラルドが出張るようなモンスターが現れる事もなく、このまま何事もなく到着するだろうと全体の気が緩み始めた頃に、異変は訪れた。
「随分と、人が多いようだけど、何かあったのかな?」
ヤード領まで後一日という町は、ガラルドとアリアの記憶ではそこまで賑わった町ではなかったはずだが、いつもの倍ほどは居るであろう人の波にただならぬものを感じる。
暗い顔をした住民達が行き来する様は、まるで戦争でも起こっているかのようだった。
「少し調べたほうがいいかも知れませんね。」
護衛の一人がそう言って馬車を離れる。
「私も協会で聞いてみる、宿で待っててね。」
居ても立ってもいられず、アリアも馬車を降りて駆け出す。
ガラルドも行くべきかと思ったが、護衛の名目もあるので離れられず、とにかくリシュリーを宿に届けることを優先した。
(予感がする。何か、良くないことが起こりそうな、そんな予感が。)
気持ちを引き締め直し、ガラルドは目の前の少女を守ると決意した。
狩猟者協会に辿り着いたアリアは、人がごった返す受け付けに目を丸くし、話が聞けないものかと自らも受け付けに近付く。
漏れ聞こえる話からは、巨大なモンスター、ヤード領、村が襲われた、などの不穏な言葉に胸を抑えつつ、なんとか受け付けの女性から話を聞くことが出きた。
曰く、ヤード領に巨大なモンスターが現れ、既に二つの村が襲われている事。
狩猟者と領兵が住民の避難を優先し、詳細が未だに届いていない事。
王都へと救援を求める報告を出したこと。
話を聞き終えたアリアは急いで宿へと戻る。
途中で護衛の人に拾ってもらい、宿につくまでに少し情報のすり合わせをする。
話はほぼ真実のようで、ヤードを故郷に持つアリアは気が気でない。
心を落ち着けようとひたすらに心の中で呟く。
大丈夫、ヤードには勇者がいる。
ここにはガラルドも居る。
だから、大丈夫、大丈夫。
とにかく明日、ヤード領に入る。
逸る気持ちのまま、アリアはガラルド達にヤードの現状を伝え、明日を待つのだった。




