別録・勇者ガラルドの躍進〜成長編その2〜
少々間が開きましたが、これからはまた毎日更新出来そうです。
今回もよろしくお願いします。
どうしてこうなったのだろう。
僕はただ普通に、君と居たかっただけなのに。
目の前の光景から目を逸らす、ガラルドにとってはあまりに屈辱的なその光景。
目を逸らせども耳に入るその声が、笑う声が、ガラルドを更に追い詰めていく。
つまり何が言いたいかと言うと。
「まあ、そんな事を?」
「そうなの、それなのにガラルドったら、これが正しいやり方だー、なんて言ってて。」
「ふふふ、ガラルド様もおっちょこちょいな所があるのですね。」
「まだまだあるわ、いつもキリッとしてるみたいに見えるけど、同じくらいお間抜けでお馬鹿な所もあるのよね。」
なんか凄い意気投合してるんだけど。
しかも話す内容はガラルドの失敗談や、今よりももっと若き日の笑い話ばかり。
まるで針のむしろ、いや、そこまででは無いが。
話が下世話な方向に進もうとしていたので流石にそれは止め、アリアの思惑が分からずについ困った顔を向けてしまう。
「何よその顔、せっかく姫様があんたの事が聞きたいって言ってるんだから。嫌なら自分で話しなさいよ。」
ジト目で睨まれる。この流れで何を話せと言うのか。
そもそもだが、アリアは自分が断わるのを援護してくれるものだと思っていたのだ。
それが蓋を開けば明らかにリシュリーよりの立場で話を進めている。
アリアは分かっているのだろうか?
王家と縁が出来れば、次は貴族たち。その縁で次は商会、更には大きな街の有力者。
芋づる式に縁談は増えるのだ。
「アリア、僕は」
「駄目よ。」
断わるつもりで来ているんだ、とは言わせてもらえなかった。
明らかに怒気が混じる声に、思わず
息を飲む。
少しの沈黙。部屋の空気はすっかりと変わってしまった。無論、悪い方へ。
自分の意思、アリアの意思、周りの思惑。
そんな事で頭がこんがらがっていくガラルドの耳に、静かな声が届く。
「ガラルド様の仰っしゃりたい事は、わかります。
思いの深さや、長さ、横入りになってしまう事も重々承知しています。
ですが…」
その声は震えていて、今にも溢れそうな涙を堪えているんだろうと想像できるような、感情を抑えた声。
「ですが、私は、受けて頂きたいと思っています。」
胸が締め付けられる、ぐっと両手を握り込む。
何度か出そうと思った言葉は喉から離れて行かず、けれどその言葉が、自分の望みである、筈だ。
「ガラルド。」
下がりきっていた視線を上げると、リシュリーの背中に手をあてながら、アリアは鋭い視線でガラルドを睨んでいた。
「分からないの?それとも、分からないフリをしているの?
どっちにしても今のあんたは最低よ。
いつまでそこにいるつもりなの、満足して立ち止まらないで、私達は、ずっと進んでいかなきゃいけないの。あんたが止まったら、私も姫様も前に進めないの。
そんな事もわからなくなったの?」
その言葉が稲妻のようにガラルドの体を撃ち抜く。
止まってしまっているのだろうか、厳しい言葉を投げかけるアリアを見ていると、まるで別の人を見ているような気分になる。
それはもしかしたら、今自分が見ているのが、アリアの背中だから、だろうか。
強くなりたかった、強くなったつもりだった、でも、本当に強いのはアリアのほうだった。
「殿下、まずはここまで長引かせてしまった事を謝罪します。」
僕も成長出来るだろうか?
全てを飲み込めるほどに大きな人間になれるだろうか?
「この御縁を頂いた時、僕は不安でした。アリアと離されてしまうのでは無いか、と。」
今までの僕は結局は全て自己満足でしかなかった。
君を笑顔にしたいと思うことは、こんなにも難しい事だったと初めて知った。
「僕はまだまだ未熟です、この大役に見合う成長が出来るかも、正直分かりません。」
それでも、
「それでも、」
君を守りたいと思っていても、いいだろうか。
「この話を、お受けしたいと思います。」
夕暮れの町並みを肩を落としながら歩く。
及第点以下のガラルドの出来に、アリアは機嫌を悪くしたまま、ずんずんと先に進んでしまっている。
言い訳ではするつもりはないが、断り以外の言葉を考えていなかったのだから、少しは大目に見て欲しい。
ガラルドはそんな事を考え、また溜息をつく。
「ねえ、アリア。せめて何が駄目だったのか教えて欲しいんだけど…」
出来るだけ刺激しないように恐々と声をかける。
礼儀作法については問題ないはずだ。その点はアリアよりも知っているし、リシュリーの返答も定形通りだった、間違っているとは思えない。
そう思い返していると、アリアはピタッと足を止めて、キッとガラルドをにらみつける。
「アンタ、分かってないの?」
声が冷たい。
最近はめっきり涼しくなってきたが、それどころではない冷気が漂うようだ。
「あ、あの、何か間違ってた、かな?失礼に当たるような事はしてなかったと思うけど…」
アリアは大きく溜息をついて、更に冷たくなった視線でガラルドを射抜く。
「プロポーズ。」
「えっ?」
「姫様にプロポーズしてない。最低、馬鹿。」
「いや、お受けしますって」
「それは返事でしょ。はぁ、姫様が不憫だわ。」
不憫、まさかそこまで言われるのか、とガラルドは戦慄する。
だが、言われてみれば確かにしてはいない。
正直、貴族同士の婚姻、それも政略的なものならばしないことのほうが圧倒的に多いはずだ。
「どうせあんたの事だから、王族とか貴族とか政略結婚とか、そんなつまんない事を考えてるんでしょうけど、それって男としてどうなのよ。」
「いや、あの、はい、ごめんなさい。」
「私に謝ってどうするのよ、明日また贈り物とかして、ちゃんとするのよ?いい?」
腰に手を当てて、ビシリと指を突きつけながら言う。
勢いに押されるままに首を縦に何度も動かし、そこでようやくアリアは表情を緩める。
「じゃあ、明日は何か依頼を受けて、少しでも良い物を贈れるようにしなきゃね。」
自分の対女性スキルの無さを痛感し、情けなさに肩を落としつつ、ガラルドは力なく、了解、と答えた。
翌日、ガラルドとアリアは朝一番で狩猟者協会を訪れた。
いくつか依頼を見繕って受付に向かうと、綺麗に封のされた便箋を渡される。
差出人の名前を見て、二人は顔を見合わせ、直ぐに手紙を開封する。
読んでいく内に笑顔になる二人、その内容は
「「オリジン殿がこっちに来る!!」」
魔界を離れて四ヶ月と少し、再会は思ったよりも早く訪れるのだった。




