子供の遊びじゃ!
間が空いてしまいました
今回もよろしくお願いします
カミラからの提案を受けた俺はその日の内に準備を済ませ、一夜明けた今日は、馬(風モンスターの引く)車に乗って、東へと続く大きな道を移動していた。
東の魔王領は、人間と魔族がほぼ半々で住んでいるらしく、人間の中には「テイマー」と呼ばれる、モンスターを使役するスキルを持つ人たちがいるらしい。
この馬車もその産物だ。
とにかく東の人間は、様々なスキルや魔法を使い、多種多様な職を生み出し、それを極めながら生きていく、所謂、研究肌なタイプが多いらしい。
ま、カミラを見れば納得だな。
一方、魔族の方はアンデッドが殆どで、生産活動などは特に行わず、街や自然、大きく考えれば国の維持に関わる者が多く、人間との付き合いもほどほどらしい。
静と動、まったりと上手くやっているのが自慢の国だ、と言うのが、カミラ陛下の自国評価である。
「時に聞くんだが、冬までにやらなきゃいけない事って何なんだ?
東はお前抜きでも回るようにしてるんだろ?
なら、お前が関わるような事って、結構な大事な気がするんだが。」
「まあ、大事であろうな。
じゃが、定期的にやることでもあるでな、それ程の混乱も起こらぬじゃろ。」
何となく気になった事を聞いてみると、ニヤケ顔と言うか、楽しげに応えるカミラ。
流石に俺絡みでは無いことは分かっちゃいるが、他国の人間に簡単に話すような事でもないのか、と一人納得していると、続けてとんでもない発言が来た。
「妾もそろそろ家庭に入る準備をせねばと思うてな、魔王は引退じゃ。」
「ん?んんん!?」
魔王引退の言葉に耳を疑う。
この世界に来てから、魔王というのは絶対的な存在だと思っていたので、そんなにアッサリとしたものなのか?と言うのと、カミラ以外が魔王になるという事に全くイメージが沸かないので、殊更に混乱する。
「いや、待て待て、定期的にって言ってたが、魔王ってのは、そんなにコロコロ変わって大丈夫なものなのか?」
「そうさな、西や南は実力主義な所があるからピンとこんかもしれぬが、東はアンデッドの国よ。不変の存在ゆえ、治める気になればグラン爺のように、延々と治め続ける事も出来よう。
じゃがの、グラン爺を否定する訳ではないが、それではいつかつまらん国になる。それにの、東の魔王なんぞ飾りに過ぎぬ。
冠が無くとも王が王であるように、魔王が誰であれ、国は国よ。」
妾も魔王は三十年程しかやっておらん、と言葉を締め、意味ありげにこちらを流し見る。
「これは国や王に限った話ではないぞ?ソナタもそうじゃ。」
「俺?」
「左様、強ければオリジンなのか、志し無くばオリジンではないのか、ソナタが自分に定めたオリジンと云う定義は、果たして本当にソナタをオリジン足らしめて居るのか。最近のソナタには出逢った頃のような自由がないぞ?
今じゃからこそ、よく考えい。
尤も、これから強くなろうとする者に送る言葉としては不適格じゃがな。」
そう言ってカミラは再び外を眺め始める。
カミラの助言は、いつも俺に新たな発見をくれる、物凄く有り難い物だ。
それは分かっちゃいるが、今回は俺にとってはちょっと漠然とし過ぎている。
もうちょっと賢くなりたいもんだ。苦笑いし、言われたことを反芻しながら、俺も流れる景色に目を移した。
適当にモンスターと戦ったり、獣人と出逢ったり、カミラが満足するまでなんやかんやあったりして、気付けば四日目、旅の中間地点でもある、北と東の国境に辿りついた。
国境だからと特に何かがある訳でもないが、ここまでは右手に山、左手に森で進んできたのが、一気に視界が開けた。
ここが小高い丘になっているからか、先の方まで伸びた太い街道がよく見える、左手は相変わらず森だが、それも随分と人の手が入っているように見える、少し遠くには炊事の白い煙が空に上がり、人々の営みを感じさせる。
北とは違った意味で静かな印象のある街に到着する迄には、カミラの言うアンデッドが維持している国だと、よく理解できていた。
何しろ、街道整備、木々の手入れ、モンスターの間引き、その他色々な事をやっているのは、ほとんどがアンデッド達だったからな。
「これってさ、強制労働って訳じゃないよな?」
「阿呆め、そんなもん、妾が許さぬわ。」
本当に二つの種族は対照的で、難しい顔して何やら相談しながら歩いているのが人間、あちこち修繕したり、まったりと座っているのがアンデッド。
町中を眺めながら、異国情緒的な物を感じていると、思いついたようにカミラが口を開いた。
「うむ。では、ここから鍛錬を始めるとしようかの。」
「ここからって、町ん中だぞ、土木作業も無さそうだし、何やるんだよ。」
タタタッと、数歩先に行き振り返るカミラ、腕を組んでふんぞり返り、メッチャ笑顔で言った。
「子供の遊びじゃ!」




