そうとも言うのう
今回もよろしくお願いします
石を一つ積み上げる。魔法で固定する。
石を一つ積み上げる。魔法で固定する。
額の汗を拭いながら、腰ほどの高さになった基礎部分をポンポンと叩く。
大工の棟梁に次は何処かと尋ねようとするも、どうやら昼休憩の様子。
周りの声が聞こえないくらい熱中していたらしい。
「棟梁ー、終わったから別のとこ行ってくるー。」
「おー、気を付けてなー、ありがとよー。」
グラン爺に誘われ、土木工事を始めてから早十日。
ニートを脱してからというもの、ジョブチェンジばかりしている気がする。
近衛、勇者の好敵手、子守、そして土方。
うん、これ異世界ものとしては失格だわ。
何にせよ、やはり騒ぐのは元勤労国民としての血。
中途半端な仕事はしたくないし、体が超強化された分、一日平均約十六時間と言う、ブラックも真っ青な勤務時間もへっちゃらである。
ま、楽しんでるからかもな。
「オリジーン、これ壊れたからー、直してー。」
「あ、オリジンさん!これ切ってください!お願いします!」
「オリ兄ちゃーん、お水切れちゃったー!」
「ええい、任せろ!フェイククリエイト!スラッシュ!クロススラッシュ!ウォーターボール!クリアウォーター!」
こう言う、同士多数の依頼にも既に慣れたもので、今回は半ばヤケクソだったが、しっかりとこなすことも出来るようになって来ていた。
今建てているのは、教会に併設した学舎。
教会から離れた場所にある建物は、古い上にやや手狭、街の区画整理と共に、なるべく明るい感じの街にしたいという、グラン爺の希望を汲んだ形だ。
ホープル、エルフが中心とはいえ、デスアーマーやスケルトン、フォッグにフレッシュゴーレムが徘徊するこの街が、明るい雰囲気になるのかは知らないが。
しかし、何故グラン爺は俺に土方をやらせているのか。
初めはずっと考えていた、働き出したら楽しくなってあまり気にせずにいたのだが、冷静になってみると、あれっ?と思う。
直接聞いてみれば良いのだろうが、グラン爺は何かと捕まらない。
と、もう一人知ってそうな奴が来てるじゃないかと思い付く。
「ダーリーン、昼を持ってきたのじゃー!」
そう、カミラである。
今回アンデッドの多い街だからと言う理由と、カミラが暇で仕方がないと言う理由から、俺のバックアップに付いてくれている東の魔王さま。
当然ユーリカとは色々話してるだろうし、グラン爺ともそれは同じだ。
何かと面倒を見てくれているし、因子の取り込みにも積極的に動いている。
そこには何らかの意図があるはずだ。
「サンキュー、カミラ。どうせだから一緒に食おうぜ。」
「うむ、美味い茶を見つけてきてあるのじゃ、たまにはそれも良かろうて。」
と言いつつ、隅っこの方で休憩することにした。
木陰が出来ているところに二人で座る。
早速取り出してくれたのは、肉、野菜、魚が挟まれたサンドイッチ、なんとカミラお手製である。
この前まで料理なんて出来なかったのにな、ホントありがたい。
「さて、ダーリンが妾を誘うなぞ、一体何の用があったのじゃ?」
「おいおい、一緒に飯を食いたかったのは本心だぜ?
ついでに聞こうと思った事があるだけだよ。」
良い香りのするお茶を淹れながら、カミラがいたずらっぽく笑う。
全く見透かされてるな、と思いつつも、感謝の気持ちを伝える。
「正直、助かってる。
まあお前がどんなつもりで世話してくれてるかは分からないけどさ、美味い飯作ってくれるし、色々アドバイスくれるし、嬉しいよ、ありがとな。」
「ふっふっふ、ダーリンの良い所はそう言う、礼を欠かさぬ所じゃな。褒められ、感謝されて喜ばぬ女なぞ居らぬ。
妻は夫に尽くすのだと配下に教えられてな、それを実行したまでじゃが、なるほど、これは中々に良いものじゃな。」
初めて見たぞそんな顔。
照れ笑いするカミラに、俺も気恥ずかしくなり、サンドイッチに手を伸ばす。
美味い、向こうの方でこっちをコソコソ覗いている奴らが気にならない程美味い。
その後もマッタリと食事は進み、二人で食べ終え、二杯目のお茶を楽しみながら、本題を切り出す。
「なあ、どうしてグラン爺は俺にこんな事をさせてるんだ?カミラは何か聞いてないのか?」
正直なところ、焦りはある。
ガラルドは確かに強かったが、それだけで自分の今の強さが判るはずもなく、ユーリカや他の皆に手も足も出ない現状、もっと鍛えて強くならなければならないと言う気持ちが強いのだ。
「なんじゃ、気付いておらなんだのか。これも鍛錬の一つじゃと言うのに。
最近取り込んだ因子が、魔法系に強い種族ばかりだと言うのは気付いておるか?」
「ああ、それは流石にな。でも、俺の中ではそれとこれが結びつかないんだが。」
「ふむ、ならば考え方の違いじゃな。魔法を強くする、或いは、魔法を上手く使う方法は多々あるが、一番は、様々な場面での最適解を見つける事じゃ。
故に、多種多様の魔法を使う此度の作業は、単純な魔力に加え、瞬時の適応力を鍛えることにもなる。
後は自分で考えるのじゃな。」
そう言われて理解する。確かに、今までは戦闘用に使う魔法ばかりに気を取られていた。
それは絡め手に非常に弱い。
あのユーリカでさえ、魔封じの盾にはしてやられたのだから。
アグニの戦闘方法は、力によるゴリ押しだと聞いている。
しかし、切り札があるのは恐らく間違いない。
その場その場での対応をして、咄嗟の事態にも適応できるようにする。
それには街づくりなんて大掛かりな作業を、魔法、スキル、経験で対応していくのが確かに良いのかもしれないな。
けどさ、
「…つまり、俺を鍛えながらも、街を作り変えられるグラン爺が一番得してるってことだな。」
「そうとも言うのう。」
そう言って笑うカミラ。
ホント、魔王ってのはどいつもこいつも強かである。
この日の作業も終了し、学舎の残りは大工の仕事を残すばかりとなった。
明日からは、道を拡げたり、家を動かしたりする作業が待っている。
「今日も助かった、また明日な。
いつかまとめて礼をするよ。」
結局、残りの一日を付き合ってくれた小さい相棒に礼を言い、宿まで送る。
「なに、気が向いたときに妾の相手をしたくれるだけで良いのじゃ。
二度や三度では満足せぬので、そのつもりでな。」
「お前は俺を殺す気か。
まあ、それも考えとくよ、そんじゃな。」
俺の返答が意外だったのか、少し驚いた顔をするカミラ。
俺も成長してるってことだぜ、カミラさんよ。
宿の前で別れ、俺も自分の寝床に戻る。
いくらタダで貸してくれるって言っても、毎日高給ホテルに居るのは落ち着かないからな、安宿だ安宿。
カウンターで晩飯を貰い、そのまま座って食べ始める。
味が濃い目の料理なのだが、これはこれで北の料理って感じで気に入っている。
ビールを貰いながら、黙々と食べていると、何やら入口が騒がしい。
ふと、顔を向けると、そこには青い鱗のドラゴニュート、グロリアが誰かを探していた。
「グロリア!こんなところまで来てどうした、何かあったのか?」
声をかけると、泣きそうになりながらグロリアが駆け寄ってくる、嗚咽を我慢できなくなったのか、俺に抱きつき震える声で告げた。
「オリジン殿、アナスタシアさんが、アナちゃんが倒れたっす…!」
種族などなど
○デスアーマー…鎧の中に闇があるような感じの種族。魔法はほぼ使えず、物理全振り。
北の懐刀「鉄騎将軍」リディで有名。
○スケルトン…骨。普通に喋るし意味はないが飲み食いも出来る。食べたものが何処に行くのかは永遠の謎。
○フォッグ…霧状の種族。ほぼ思考能力は無く、何となくユラユラと過ごしている。
○フレッシュゴーレム…ゴーストやレイスが何故か受肉し、動き始める事がある。意志あるものはバンシーと呼ばれ、それ以外はフレッシュゴーレムになる。




