つまりは、異常って事だ
短めです、今回もよろしくお願いします。
俺は肝心な時に、いやな予感とか、虫の知らせとか、そう言うのを感じずに生きてきていた。
こっちに来てからはむしろ敏感になった様な気がしていたが、気のせいだったのか。
それとも、これは俺に宛てたメッセージだったから、気付けなかったのか。
あの時の、夢の中身を思い出した。
「お前には、期待している。」
白い世界、輪郭の無い誰か。
あの日、聖堂で見た景色。
「これは、試練だ。」
目の前の誰かが、俺に話しかける。
自分がそこに居るのに、居ないような。そういう、ふわふわした感覚を覚える。
「いつか、全てが変わる。」
言うだけ言って、消え去る誰か。
果たしてそれは、なんの事なのか。
よく分からないが、腹がたった。
ふざけんじゃねえぞ。
心の中で、俺は叫んだ。
アナスタシアが倒れたのは、昨日の午後。
昼の礼拝に行ったまま、出て来ないのを心配して見に行った街の人が見つけたそうだ。
医者、魔法使い、ユーリカにも見せたが、ただ眠っているだけだとしか思えないらしい。
まあ、起きないから大問題なんだが。
「とりあえず、命に別状は無いんだな?」
「ハイっす、カミラ殿やグラン殿に見せた方が良いんじゃないかって事で、自分が先にここまで飛んできたっす。」
なかなか泣き止まなかったグロリアを連れて部屋に戻り、詳しい内容を聞く。
アナスタシアは数人の魔族に連れられて、このフォーグロウに運ばれているらしい。
医学が役に立たない、こういう時に頼りになるのは、知識量で他の追随を許さないカミラと、歴史を知り尽くしているグラン爺の二人なのだそうだ。
幸いにして、時間的な余裕もあり、ドライアド達が体調の管理も徹底してくれているとの事で、今すぐに焦らなくてはならない事態にはならないようだが、心配だよなあ。
「俺の能力は大抵が劣化版の能力だから、直接的な助けにはならんかもしれないが、何か出来そうなことがあったら、いつでも言ってくれ。」
「了解っす。最悪、アナちゃんの意識が戻らなかった場合、オリジン殿に頼ることがあるかもしれないのは覚えていて欲しい、との事っす。」
…俺に?
いや、なにが出来るのかは知らないが、そのつもりで、そういう覚悟を持っておこう。
夜が明ける。グロリアはアナスタシアの運搬に加わるらしく、朝一番に宿を立った。
何も出来ない俺は、いつも通りに街の修繕に向かうのだが、やはり顔や行動に出ているのか、心配ばかりされ、いまいち身が入らない。
ならばいっそ、と、今日は全力で魔法を使い続けてみる。
俺に何かを求められたときに、今より優れた俺であれるようにだ。
昼休憩、今日はカミラの姿は無い。
その頃には俺もなんとか調子を取り戻し、積極的に働きまわっていた。
にわかに騒がしくなる周囲。
見上げると、十数人の魔族が、箱のような物を運んで来ていた。
先頭にはグロリア、つまり、アナスタシアが来たのだろう。
逸る気持ちを抑えつつ、翼を出して飛び上がり、そこに近付いていく、魔法の膜のような物の中には、ベッドに寝かされたアナスタシアの姿。
本当に眠っているだけのようで、穏やかな表情のまま、ロザリオを両手で包み持っていた。
それがむしろ、不安を掻き立てる。
「グロリア、何処に運ぶんだ?」
「教会の前まで行くっす、先に行って、場所の確保をお願いしたいっす。」
「分かった、行ってくる。」
グロリア達から離れ、教会の前に降り立つ。
相変わらず礼拝に来る人の数は多いが、説明して場所を空けてもらう。
ゆっくりと降りてくるグロリア達を見ながら、無性に気持ちが焦る。
「お疲れ様、オリジン君。不安だろうが任せてくれたまえ。」
「妾たちに知り得ぬ事はないのじゃ、ダーリンはどっしり構えておれ。」
ソワソワしていると背後から声を掛けられる、二人も既に待っていてくれたのかと思うと、少し落ち着いてきた。
「頼りにしてる、頼むよ、二人共。」
軽く頭を下げる。
二人に肩を叩かれ、頭を上げてアナスタシアの元へ。
「ふむ、まずは見てみよう。アナライズ。」
「こちらは外的要因が無いか探るかの、ライフカレント。」
アリアとは比べ物にならない程、精密な魔力がアナスタシアを撫でる。
カミラはアナスタシアの手を握り、自分の魔力と調和させている。
「異常はないね、そちらは?」
「こっちも異常無しじゃな。」
「つまりは、異常って事だ。これは、詳しく調べてみないといけないね。中に運んでもらえるかな?」
同行のドライアドに言いつけ、グラン爺はこちらを向く。
「オリジン君、何か解れば直ぐに知らせよう。
不安や心配はあるだろうけど、君は君の成すべきことをしたまえ、他人にばかり構ってられるほど、時間は残ってはいないよ。」
何か言い返そうとして、止めた。
その通りだ、勝手に焦って勝手に騒いでも意味がない。
俺には俺のやるべき事があるし、これ以上何か言うのは二人を信用してないって事になる。
「分かった、街の方に戻るよ。
しつこいようだけどさ、少しでも早く、助けてやってほしい。」
頭をもう一度下げ、二人から離れる。
そうだ、全てを自分がだなんて、考えるのはバカのする事だ。
自分よりも優れた人たちが付いてくれている、不安を消すことは出来ないが、今はそれで納得するしかないのだ。
だから、ちゃんと戻ってこいよ、アナスタシア。
俺はまだ、仲間を失うのなんて嫌だからな。




