何伝えれば良いんだっけ?
今回もよろしくお願いします
夏の終わりの日差しの中、即興で、「建直祭」と名付けられた祭りの喧騒の中、俺達一行はハグや握手を求められながら大通りに続く道を歩いていた。
勇者と言うのは、やはり世界的にも認められた有名人で、更にそれが自分達の魔王領で好敵手を見つけるとなると、これはもう市町村、或いは国を上げて歓迎するものらしい。
とにかくそう言った背景があるので、俺がオリジンである事を知っている人々、横に居るのがガラルドだと気付く人々は、まあこれでもかと食い物や飲み物を持たせてくれるのだ。
有り難いけど、もう食えないっす。
「本当に勇者って歓迎されるんですねぇ。」
同じく膨らんだ腹を撫でながらガラルドがしみじみと言う。
ユーリカはもとより、アリアとアナスタシアもあちこち引っ張りだこで、もう教会の祭りなのか勇者の祭りなのか分からん状態になっている。
「お前、帰ってからも式典とかあるんだろ?大丈夫か?」
両手一杯に荷物を抱え、オロオロし続けるアリアを指さして問う。
一応二人の素性とかは聞いているが、一般人にコレはちとキツイのではなかろうかと思っている。俺含め。
「大変だと思います、けど今の所、段々と慣れていってもらうしかないんですよね、正直色々と言われると思いますし、出来るだけ守ろうとは決めてるんですけど。」
「…そうか。果たされる事を祈ってるよ。」
守れなかった愚かな男には、お前はなってくれるなよ、勇者殿。
大通りに出る、路上で歌うバードや音楽隊、大道芸に屋台の数々。
元の世界を彷彿とさせるような祭りの姿は、ユーリカが広めたものか、それとも人はどこに行っても変わらないと言うことなのか、まあ、楽しければなんだっていいんだけどな。
ガラルドとアリアは二人で土産物を探しに行ったので、俺と残りの二人で見て回る。
よくある創作物なんかでは、人間と魔族、またはそれ以外の種族が対立していたり、奴隷として扱われていたりするのだが、この世界にはそれがなく、人も魔族も単純に仲がいい。
横で腕組んで歩いてる女の子二人からしてもそうだけど。
これにもちゃんと理由がある様で、ユーリカどころかドラグですら生まれて居ないほどの昔、二千年程前に起こった「滅び」と言われる災害、これが人と魔族を結び付ける事になったらしい。
伝説か真実かは判らないが、勇者を始めとした英雄と呼ばれた人間達、各種族の有力な魔族達が集まり、滅びの元凶とされた「三つの終わり」と名付けられたモンスターと戦い、勝利こそ出来なかったものの、なんとか撃退。
その後の世界で、強いものは戦い人々を守り、弱いものは強いものを支え、癒やし、そんな風に時が流れて人魔は融合していったそうだ。
まさに、災い転じて、と言うやつだな。
そんな事を考えながら歩いていると、何か見覚えのある後ろ姿を発見する。
カミラより頭一個分ほど高い身長、薄紫の長髪、背中のコウモリ羽根、レディーススーツ風の服に、何故か可愛くない兎のカバン。
別に怒ったり恨んだりしている訳では無いのだが、あれ以降姿すら見なかったので、とりあえず小言でも言わせて貰おうと肩を叩いてやる。
「ふぁい?」
こいつ焼きソバ食ってやがる。
くそっ!盲点だった!
焼きソバはまだ食ってねえ!こっちはもう腹パンパンなのに!
「久しぶりだな石頭、覚えてるか、俺のことを。」
気を取り直して尋ねる。
そう、コイツはあの日俺を空中で撥ね、下敷きにした挙げ句何処かに行ってしまったあの女である。
「えーと、ナンパ?
お兄さん確かにカッコいいし、アタシが魅力的なレディなのもわかるけど、知らない人には付いていくなっておじいちゃんに言われてるから…」
と、申し訳なさそうにやんわりと断りを入れる石頭。
流石にちょっとイラッとした。
「お前の」
デコピン。
「頭の中は」
デコピンデコピン。
「焼きソバでも」
デコピンデコピンデコピン。
「詰まってんのか?」
最後に痛いデコピン。
しかしコイツほんとに石頭だな、対して効いてなさそうだぞ。
「痛いじゃない!お兄さんなんて知らないってば!」
「ほほう、なら一週間前にお前が何処を飛んでいて何があったかを思い出してみろ。」
「はあ?一週間とかアタシおじいちゃんに頼まれてお使いしてたし……あ。」
石頭は思い出しながら俺の顔を見て、数秒止まったあと、やんわりと微笑んだ。
「あの時は、汗臭いって思ってごめんね?」
「そっちじゃねえだろ、謝るべきは。」
最近出会う女が大体ぶっ飛んでて辛いです。
その後きちんと謝った石頭、名前をエリーゼと名乗ったバンパイアに飲み物を奢ってやり、あの時、百花城になんの用があったのか聞いてみることに。
「んーと、おじいちゃんが何か驚いてて、自分は準備するからってオリジンって人に伝言を頼まれてたんだっけ?」
「いや知らんがな。」
ホントに知らんぞ、どうなってんの報連相。
「あ、頭ぶつけて内容忘れたから聞きに帰ったんだった。
それでまた来たら今度はお祭りやってるし、あれ?アタシ何伝えれば良いんだっけ?」
「あのさあ、お前さあ…」
魔界に来てからなんだかんだ有能な奴らしか見て無かったからか、こいつがやけにポンコツに見える。
いや、普通に考えてもポンコツなんだけど。
「多分今回もオリジンって人に伝言なんだけど、内容が、うーん。」
「おーい、オリ君!今度は港の方に行こうよ!
あれ、エリーゼ?」
いつの間にか食ってたフランクフルトの串をガジガジしながら、エリーゼが首を捻っていると、後ろの方からユーリカが声を掛けてくる。
「あ、ユーリカちゃん!どうしよう!アタシまた伝言の中身忘れちゃった!」
どうやら二人は知り合いらしい。
少しの間、二人で話を捏ねくり回していたが、らちが明かなかったのか、ガックリと肩を落とす。
「もういっその事、オリジンって人を連れて帰った方が早いんじゃないかな。」
「うーん、それが一番良いような気もするねえ。どうする?オリ君。」
「いやいきなり言われても、そもそもそこのエリーゼがどこの誰かすら知らんのに。」
「え?」
驚いたようにエリーゼを見るユーリカ。
エリーゼは何故かエラそうに腕組み、どうだと言わんばかりの顔で答えた。
「アタシ、そう言うのでえばるのって良くないと思うから。
肩書とかじゃなくて、アタシはアタシっていう、一人前の素敵なレディだから!」
だめだこりゃ、と首を降るユーリカと俺。
話が進まないのでユーリカに教えて貰うことにする。
「この子ね、グラン爺のお孫さん。多分ね、オリ君がオリジンだって事も知らないんじゃないのかな?」
「ああ、そういや名前言ってないわ。
え、孫?あのグラン爺の?」
ユーリカは疲れた表情で首を縦に降る。
エリーゼを見ると、口をあんぐりと開けたままこちらを指差していた。
「み、見つけたあああああ!!」
あまりの大声に、辺り中から視線が集まる。
どうやら、また何かに巻き込まれるようだ。
なお、今回エリーゼに一番被害を被ったのは、食べようとしていたたこ焼きを、ビックリして落としてしまったアナスタシアだと伝えておく。
人物などなど
○エリーゼ…バンパイアの少女。大人っぽい衣服や振る舞いを好むものの、所謂、子供の浅知恵。
魔王グラン=セインの孫。もちろん血は繋がってない。




