創世教会は貴方を歓迎します。
今回もよろしくお願いします
フローラルージュの街は、主に五つの区画に分けられる。
大街道を挟み、山に近い東側が工業、工房系。
海と平野に近い西側が、食料、農産系。
どちらも城に近づくにつれ、住宅街、それも、ちょっとお高い住宅地になっている。
勿論住むのはお金持ち、それに、貴族。
この国には貴族は居ないのだが、城や街での役職持ちは、貴族待遇とされていて、ここも別名、貴族街なんて呼ばれている。
大街道を南に進めば、一般の住宅地があり、更に海の近くには、商店の賑わう区画がある。
とにかく賑やかなこの魔王のお膝元にも、実は人間族は結構住んでいる。
特に多いのは西の一般住宅街、その中でも、創世教会に近い区間に多い。
教会は立て直し中で、集まるところが無かったにもかかわらず、食い物や酒の趣味が合えば仲良くなるのは人も魔族も変わらないようで、ユーリカ曰く、約二倍の大きさになった創世教会のお披露目に参加しようと、集まった人、魔族の数たるや、とにかく一杯である。
「百花城、及び、王都フローラルージュに祝福を。
そして、新たなる教会、清らかなる聖堂で、我が主、我が神に祈りを捧げられる事に感謝し、また、司祭として恥じぬように勤めていくことを皆様に誓い、挨拶とさせて頂きます。」
アナスタシアの清涼な声で挨拶が行われ、辺りは拍手の喝采が巻き起こる。
そして挙げられる魔法の花火、アルラウネ達が祝いの花の吹雪を舞い散らせ、教会前広場はさらなる熱狂に包まれる。
今日は善き日。
さあ、飲めや歌えや。
「よう、お疲れさん。」
「これはオリジン様、ようこそいらっしゃいました。本日は当協会の司祭として歓迎致します。」
お祝いだからかホストだからか、昨日一昨日よりも豪勢な法衣に身を包むアナスタシアに声を掛ける。
本当はユーリカも連れて来てやりたかったが、わざわざ街を混乱させることも無いだろうと、後でコッソリ来るらしい。
「おいおい、あまり堅っ苦し過ぎるのは止してくれ、それならこちらもそれなりの態度を取らなくてはならないのだが、如何かな、司祭殿?」
「ふふっ、そうですね。いらっしゃいませ、オリジンさん。」
クスクスと笑うアナスタシア、その向こうに、多くの人の目に晒されてぐったりしているアリアと、苦笑いでそれを慰めるガラルドの姿。
「お前達もご苦労さん、随分と立派だったじゃないか。」
「やめてよ、こう言うの向いて無いんだから。ホントは後ろの方にヒッソリ立ってるつもりだったのに、ガラルドがどうしてもって言うから。」
「ごめんね、そんなに嫌だとは思わなくて…」
「べ、別に嫌とは言ってないでしょ!」
うむ、今日も清く正しきツンデレである。
教会の中でそんなやり取りをする俺達をよそに、外からは肉やチーズの焼ける匂いと、喜びや笑いの声が届く。
「どうする?ユーリカが来るまで適当に外で時間潰すか?」
「いえ、折角ですから待ちましょう。なにしろ、一番楽しみにしていたのはユーリカさんですから。」
確かに、あいつは遠足前の子供かってくらいはしゃいでたな。
「僕も賛成です。一日中一緒に居られるのは、今日が最後ですから。」
ああ、そうか。
ガラルドとアリアは明後日の船で帰っちまうんだよな。寂しくなる。
「んじゃ待つか。なに、暇つぶしなら山程あるぞ、お前の知らないユーリカの姿を教えてやろう。」
冗談っぽく言う俺に、アナスタシアも破顔する。
話し出そうとした時に、強い風と大量の花びらが教会に吹き込んだ。
「残念だけど、それはまた今度かな。」
我等が魔王の登場だ。
今日は式典だからか、薄桃のシンプルなドレスに、髪も上げて纏めている。
「ユーリカ陛下、この度は創世教会に多大な配慮を頂き、誠に」
「いいよいいよ、堅苦しいのは。多分、オリ君にも言われなかった?」
アナスタシアと俺は顔を見合わせ、思わず笑った。
一頻り笑った後、アナスタシアの案内で聖堂の奥、立派な教壇の前に並ぶ。
ステンドグラスからはカラフルな美しい光が差し込み、まるでこの世の者では無いかのようにアナスタシアを輝かせる。
幻視する、辺り一面の光と、立っている誰か。
それが何か、胸騒ぎを起こし、不安になって、
「アナスタシア」
思わず声を掛けた。
「はい、どうされました?」
返事が合った瞬間、視界は現実に戻り、胸の違和感も消え去る。
少しの神経質になっているのか、想像が現実にフィードバックしているのか。
まあ、何もなければそれで良いさ。
「いや、何でもない、始めてくれ。」
創世教会の入信の儀式。
特に大層な事をする訳ではない、自分の願いや想いをしっかりと言葉にし、神に伝える様に祈りを捧げる。
ちなみにこの世界、宗教観はかなーり弛く、教会に勤める神官以外は、いくつの教会を掛け持ちしてもいい事になっている。
多神教と言うより、自然や現象に感謝や敬意を示す考え方なので、俺にも随分と受け入れ易かった。
「それでは、儀式を開始します。自分の心と対話し、神に祈りを捧げて下さい。」
神への願い、想いね。
そうだな、それなら、小さな幸せを誰かに与えてやって欲しい。
例えば、拾った小銭で食った物が美味かったとかでも、それを届けて感謝されたでもいい。
子供が生まれたとか、ジジババが今日も元気だとか、久しぶりにあった誰かと酒を酌み交わしたとか。
なんなら、今朝はデカいクソが出たなんて、笑い話でもいい。
そう言うのがきっと、俺が守りたい何かになる。
「祈りを捧げられたら、目をお開けください。」
長いのか短いのか分からない時間を祈り。
目を開く一瞬、耳鳴りの様な物が聞こえた。
―が、変わる。
…空耳だ。気にすることはない。
「はい、これで我等が主と繋がりました。創世教会は貴方を歓迎します。」
恐らくは定型文であろう台詞で、アナスタシアが締めくくる。
公務はこれにて終了。
よし、祭りを楽しむぞ!




