奇遇だな、俺もだよ。
視点変更があります、ややこしいです。
今回も、よろしくです!
稲妻のような意匠の入った長剣が淡く輝く。
特に本人のオーラなどに変化は無いが、何ていうんだろうか、剣とガラルドの境界が曖昧になっている、そんな感じだ。
「行きます。」
さっきよりも鋭い踏み込み、斜め下から振り上げられる剣を、正面から受け止める。
うん、力強い。受けているこっちが心地良いくらいに。
「ヒロイック」
「バーティカル」
「「ストライク!!」」
打ち合わせた剣を引き、強力な斬撃に変えながら、ぶつけ合う。
二つの魔力が弾け、周りに渦巻き、より一層、剣を激しくぶつけ合う。
技術なんか無い、単純な喧嘩。
互いに一歩も引かず、譲らず、己が我侭をひたすらにぶつけ合う。
脇腹への刺突、受けずに鎧で弾けばいい。
むっ。貫いたか。やるじゃあないか。その痛みが更に自分を高くに押しやる。
お返しだ、剣で剣を抑え、後頭部を掴んで、顔面に思いっきり膝を突き刺してやる。それも二度だ。
舞う血飛沫、唸る魔力、高まる矜持、笑う俺たち。
ああ、楽しい。
戦いが楽しいなんて、イカれてるみたいだ。でも、そうだろ?
お前、強いよ。バカみたいに強い。
どんだけ鍛えてんだって話。
うん、会えて良かった。お前でよかった。
お前もそう感じてくれてるか?
なあ、ガラルド。
「凄い…けれど。」
回復魔法と補助魔法を掛けようと、アナスタシアは手を伸ばす。
ボロボロになりながら笑う二人を見て、少し躊躇うも、意を決して魔法を唱えようとした瞬間。
「ダメだよ、邪魔しちゃ。」
頭上から声。
上質な鈴のように淑やかで、しかし、力を与えてくれるような、そんな声。
アナスタシアは思わず上体を起こす。背中から胸に響く痛みに顔を顰めながら、声の主の方を向いた。
「こら、無理しないの。
全くもう、男の子っておバカだよね。あれで分かり合っちゃうんだから。」
優しく背中を擦ってくれるのは、魔王ユーリカ。
回復魔法を使っているのか、痛みは引いていく。
―ああ、あの時と同じ暖かさだ。
感極まったアナスタシアは、ユーリカの手を握る。涙が溢れそうで、声が出ない。
伝えたい、あの時、貴女に会えて良かったと、私はこんなに大きくなれましたと。
「大きくなったね、しかも、こんな美人になっちゃって、世の中の狼共がほっとかないでしょ?
それとも、教会はそう言うの、厳しいのかな?」
ユーリカの軽い冗談に、アナスタシアにも笑顔が浮かぶ。
覚えていてくれた歓びと、繋いだ手の温もりに感謝する。
「ホント、男ってバカ。特にガラルドは大バカよ!」
マキナに肩を借りながら、アリアも側に座る。
「可愛い幼馴染が倒れてるって言うのに、あんなに楽しそうにして。
私と居るときより楽しそうじゃないの。もう。」
怒りながらも、半ば呆れたような笑顔を見せるアリアに、微笑ましい者を見る目が集まる。
「へえ〜、アリアちゃんとガラルド君も幼馴染なんだ。
私とオリ君もそうなんだよ。」
その言葉に、興味深そうに目を輝かせる二人の人間。
「そうなんですか!?
やっぱり、幼馴染同士の色々ってあったりしますか!?」
アリアは興奮、アナスタシアは期待の眼差し。
魔王とその近衛隊長が幼馴染同士なんて、まるで物語の中の出来事みたいだ、と。
「いっぱいあるよ、例えばオリ君は私のお膝で寝るのが好きだったんだけど…」
きっとこれも、一つの決着の形。
どうやら彼女たちの挑戦は、ここまでになるようだ。
(本当に、強い!)
渦巻く魔力が体に微々たる傷を付けていく。
ガラルドの限界など、とっくに超えている。
それでも、打ち合う剣を、気紛れにぶつける拳を、溢れてしまう笑顔を止められない。
(これが、これが!僕がずっと求めていた戦い!
一方的じゃない、義務的でもない、只ひたすらに、自分を相手にぶつけるだけの!)
「勝つのは僕だあああああああっっ!!」
「俺だよこんちくしょう!!」
顔への刺突、既に見切られている。
斬り上げからの振り下ろし、受け流されて拳を叩き込まれる。
お返しに頭突き、同じ様に頭を突出す理解者。
硬い音と、火が出るような痛み。
「こんなにも負けたくないって、初めて思いました。」
「奇遇だな、俺もだよ。」
ずっと戦っていたい、しかし、現実には不可能だ。
ガラルドは剣を引き、オリジンもまた、後ろに下がる。
「勇者として、は建前ですが、貴方に僕の好敵手になって欲しい。
きっと僕は、貴方を超える誰かに出会えない。」
ガラルドは本心から思った、この人に認められたい。この人の熱さを感じていたい。
「認めるよ、お前こそが俺のライバルだ。唯一絶対の好敵手だ。
だからさ、決着、つけようぜ。」
オリジンもまた、この男の誠実さや真っ直ぐな心に惹かれていた。
僅かに一月の鍛錬だった、しかし、ここまでやれた事で、やはり時間の短さに悔いが残る。
(俺がもっと強ければ、こいつはもっと強くなれた筈だ。
だから、ここは俺が勝つ。
次の為に、その次の為に、こいつの挑戦を、何時までも終わらせない為に。)
「次に、全部出し切る。完全に空っぽになるまで絞り出す。
お前も、来いよ。」
「良いですねそれ、最っ高に盛り上がります。」
互いに剣を構える。同時に詠唱を開始する。
それは二人の本当の出会いで、一時の離別。
「それは原初であり、最も新しき風。」
「穿て、裂け。如何なる物も、其の壁にはならない。」
「ただ存在する為の、成す為の軌跡。」
「この身体、この心、全てを持ちてただ有る為に。」
「リゾネイション」
「ソードオブ」
「ブレイバァァァァァァ!!」
「ジンクゥゥゥゥゥゥス!!」
熱、風、光、衝撃。
二人分の想いと覚悟が、ぶつかり、弾け飛び、消えていく。
視界の端には、指を組み、祈るようにこちらを見る我が最愛。
意識を失う前の僅かな時間、満足げに倒れた相手を見て、男は右手を高く突き上げた。




