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死んだ幼馴染が異世界で魔王やってた  作者: ないんなんばー
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別録・勇者ガラルドの旅立ち〜始動編2〜

後何話か別視点が続きます。


今回もよろしくお願いします。


ハーストウッドから領都ヤードスまでは、僅か二日の旅だ。

まだ日も高く無いうちから二人は馬車に揺られ、ヤードスを目指していた。

そこで今後について話し合っていたのだが、自然、内容は書簡の中身に飛ぶ。


「と言う訳で、どうやら僕、勇者に認定されるらしいんだよね。」


「はあ!?そんな大事な話は昨日の内にしときなさいよ!バカ!」


アリアの叱責はもっともだった。

ガラルドを良く知る人は皆、祖父と父親の事がプレッシャーにならないよう、出来るだけ勇者の話題を慎んでいたのだから。

それを本人があっけらかんと言ってしまうのだから、アリアの内心は推して知るべし、である。


「まあまあ、正式なお披露目はもっともっと後だって話だし、観光のつもりで気楽に行こうよ。」


「だからって、急に勇者だなんて…。」


アリアにとっては複雑だ。

勿論、ガラルドが勇者に認定される事は嬉しい。

ガラルドが気付いていないだけで、周りからの期待は明らかだったし、何よりも、彼自身が祖父と父親を尊敬している。


だが、そうなってしまっては、ただの町娘であるアリアが側に居続けるのは、きっと難しいだろう。

そうなる前に、離れるべきなのか、それとも、この気持ちをきちんと…。


「そんな心配そうな顔しないでよ。たとえ勇者になっても、僕は只のいち狩猟者、君のパーティーメンバーなんだから。」


アリアの不安を払拭する様に、ガラルドは明るく声を掛ける。

勿論、それは本心で、何より、


(申し訳ないけど、アリアを逃がすつもりは全く無いんだよ、僕は。まだ伝えられてはいないけどね…)







次の日の夕方、二人を乗せた馬車はヤードスの街の中心、ヤード邸に辿り着く。

見るからに豪華絢爛と言うわけではない、普通の屋敷だ。

それでも、数人いる使用人達は、ガラルド達の帰りを歓迎してくれていた。


「よくお戻り下さいました、坊ちゃん。ご領主様とお客様が、是非、夕食を共に、と仰っております。

アリア様もいらっしゃいませ。一家を以て歓迎いたします。」


「そんな、様だなんて止めてください。前みたいにアリアで良いですよ。」


「いえいえ、なにせ、何れは坊ちゃんの…」


「あーあー!僕達旅装のままだしさ!一度埃を落としたいんだけどなー!」


ガラルドの大声に、アリアも老執事も目を丸くしながら、少し笑って顔を見合わせる。


「確かに、何時までも立ち話をしている訳には参りません、お二方、どうぞお入り下さい。」


バツの悪そうなガラルドと、その横で笑うアリア、幼い頃から知っている二人の、まだまだ付かず離れずの距離を見て、老執事は頬を緩めるのだった。





ガラルド達が身支度を整えている頃、客間から会食の場に向かう廊下の真ん中で、一人の女性が、ソワソワと落ち着かない様子で佇んでいた。


髪は肩までの金、理知的な青い瞳は小さな星が散ったよう。身に纏う白い法衣は、女性が司祭であることを示している。


頻りに胸元にある教会印ロザリオ、創世神と言われているオルドエンティオの意匠のそれを触っては思いを馳せていた。


(ああ、遂に、遂にあの国に行ける、あの方に逢える。

神よ、この思し召しに感謝致します。)


彼女の名はアナスタシア。


アナスタシアは幼い頃に出会った、『美しき赤い華』魔王ユーリカに心を救われ、いつか、その側に立ちたいと思っていた。




―辛い時でもね、ちゃんとご飯を食べなきゃダメ。それじゃあ元気になんかなれないよ。

私の大好きな人はね、すっごく食べるのが好きだったの。だから、いっつも元気一杯だった。

これは私のワガママだけど、貴女もそうであって欲しいなって思うよ。―




幼くして両親を亡くし、教会に預けられたアナスタシアは、悲しみの中で孤独を感じていた。

支えてくれる周りの人に、心を開けなかった。


だが、その言葉を聞いて以来、食事がとても美味しく感じた。

その事を伝えている内に、自然に周りと打ち解ける事が出来た。


(だから、私はここ迄こられた。

立派になった私を見てもらいたい。あの人は覚えてくれているだろうか?ううん。忘れられていても良い。

ああ、逢える日が待ち遠しい。)


アナスタシアは再び、オルドエンティオに祈りを捧げた。





夕食の席に案内されたガラルドとアリアは、直ぐに見慣れない女性がいる事に気が付く。

恐らく依頼者である女性は、創世教会の司祭服を着ていて、その顔は正に、美の結晶と言えるほどの美しさだった。


「ほれ、二人共、見惚れてないで挨拶をせんか。」


領主であり父であるガルシアから促され、我に帰った二人は意気込んで自己紹介を始める。


「狩猟者協会所属のガラルド=イル=ヤードと言います。この度は、勇者への認定、感謝に絶えません。」


「同じく、狩猟者協会所属のアリアと申します。今回は、宜しくお願い致します。」


「ご丁寧に有難う御座います。

私は創世教会司祭のアナスタシアと申します。

長旅へのお付き合いを承諾していただきまして、感謝しています。」


互いに挨拶を済ませ、食事が運ばれる。

歓談しながらの食事は楽しく、ガラルドは、旅中に気を使わなくて済みそうだと、コッソリ胸を撫で下ろしていた。


「もし失礼で無ければ、旅の目的を教えては頂けませんか。」


だからこそ、こんな質問も飛び出した。


「実は、フローラルージュの教会の建て直しが終わりまして、私が司祭として派遣される事が決まったのです。

かの都は、幼い頃からの憧れでもあったので、是非にとお受け致しました。」


「分かります!花の都フローラルージュ!

女性なら誰しもが憧れますよね!」


「あら、ではアリアさんも?」


「はい!依頼が終わったあとに観光する予定でした!」


「アリア、正直に言い過ぎ…」


ガラルドは肩を竦め、女性二人の話は尽きず。夜はしっとりと更けていく。


明日一日を休息に宛て、明後日からは港町ボールドを目指す。


いよいよ、勇者ガラルドの旅が始まるのだった。


人物紹介


○アナスタシア…創世教会の司祭。ユーリカへの憧れと感謝を持っている。


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