ワシは天才だからな
書きながら値落ちぃ。
朝投稿になりましたが、よろしくお願いします。
「んっ、いいよ。そこ、あっ、凄ぉい!」
「頼むから集中させてくんないかなぁ!」
新しい体の使い心地はどうだいボブ?
ああ、最高さマイク!
てなぐらいかなりテンションが上がった俺は、早速ユーリカ相手に模擬戦を申し込んだ。
実際、片手間で相手にされる位の実力差は有るのだが、それでも、ようやくユーリカに軽く防御魔法を使わせるに至った。
頑張ったと自分を褒めてやりたい。
「すっげえ、魔族の体スゲエ!
そらテツローさんも機械の体を欲しがりますわ!」
まあとにかく良く動くんだこの体は。
今までは、自分の体が動く範囲でしか考えられず、思考を制限していたのだが、思い通りに動く体は、その限界をアッサリと突破し、同時に2つ位の事ならこなせる様になった。
種族チートしゅごい。
「頑張ったかいがあったね、お猿さんのオリ君?」
「突然悪意の塊を投げつけるのやめろよ!」
ユーリカが攻勢に移る。
いつか見た、カミラの動き、グロリアに教わった技術、より早く、鋭くなった思考能力、空間把握能力。
それらを駆使し、茨の鞭を受け、流し、払い、斬る。
「ぐっ!くそっ!ぬん!ふっ!あちょ、まっ、ぐえっ!」
が、そこまでが限界。
しかし大きく前進した事を感じる。
まだ一ヶ月は経っていない。
これならきっと、勇者とだって戦える。
「お疲れ様、大分良くなったね。後はどんどん詰めていって、今後は対人戦に切り替える感じかな。
さ、朝ご飯行こっか?」
「いててて…、おう、サンキュな。
よし、肉食いに行こう肉。」
朝からガッツリ、肉を食うぞ!
朝食が終わり訓練に入るのだが、今日は体の慣らしと性能確認が先と、基礎訓練のやり直しをすることになった。
体力、持久力、今までの倍は走れる。
魔力、倍率は解らないが、強くなった。
頭、変わらず。
羽、え、羽生えた!?
「いやー、人間が魔族に変わるって言う話は昔からあったらしいっすけど、本物は初めて見たっす。」
「俺もそれは聞いてたんだけどさ、その話じゃ何十年も掛けて魔族になったって言ってたが、俺の場合はまだ来てから一月位しか経ってないんだよな。
よっぽど魔族と相性が良かったのか、はたまたとんでもない無茶をしてたのか。」
「まあ無茶には変わりないと思うっすけどねー。」
知ってる。急速な変化に耐えられずに寝込んだの俺だから。
大して疲れることもなく、午前の訓練を終え、飯に向かう。
道すがら、そういえば、と、グロリアが声を上げた。
「そういえば、午後から赤岩工房の店主が来るらしいっすけど、オリジン殿の注文じゃ無かったっすか?」
「おお!もう完成したのか!」
赤岩工房とは、城下にある鍛冶屋兼武具店で、何日か前、モンスターの素材を預けられるだけ預けた工房だ。
ドワーフの親方と、その奥さん、息子さんの三人で営んでいて、ゴーフィに腕の良い職人だと聞いて依頼した。
ちなみに俺の剣も赤岩工房製のミスリル剣だ。
とにかく厨二心を潤す見た目の装備が多く、決め手はそこだったりもするが、まあファンタジーだし良いよね、と思い、存分に趣味に走って下さい、と言ってある。
それが進化した今日届くとなると、さらに感無量である。
グロリアに礼を言ってから飯を食い、急いで正門に向かう事に。
移動はさっき練習したばかりの飛行移動。
むん!って感じで羽を出し、一度羽ばたかせ、魔力を纏い、飛ぶ。
カラスのような真っ黒な羽が舞い、一瞬で城壁の上まで飛び上がった俺は、暫くそこでホバリングする。
人の夢の一つ、空を飛ぶ事。
野球漫画の主人公のように、俺は今、猛烈に感動している!
慣れることも兼ねて、城の周りをゆっくりと飛んで見る。
本城を中心に、東西南北に4つの支城があり、それぞれが庭や回廊で繋がっている。
念願の城の全景を見たことで取り敢えず満足し、正門に向かおうと方向転換すると、
「そこの人!どいてどいてー!
キャー!」
正面から凄いスピードで女の子が飛んで来ていた。
躱す?いや、ここで止める!
謎の使命感に受け止める体制をとる、が、女の子は頭から俺の腹にぶっ刺さり、二人仲良くきりもみしながら地面に落ちる。
「ああ!ごめんね!アタシ石頭だから!ごめんね!急いでるから!また後で謝るからぁ!」
と、ダメージも無かったようで、城の中に駆け込んでいく。
そりゃね、思いっきり下敷きになったからね、俺。
まったく、とんでもない目に合った。疼く腹を抑えながら、俺は徒歩で正門に向かうのだった。
「おう坊主!届けに来てやったぞ!」
「オッスおやっさん!いい感じに格好良く出来てる?」
「ったりめーよ!実用性と見た目をキッチリ両立させてやったわ!ガッハッハ!」
リアカーを引いたドワーフのおやっさん、ベルグと、互いの肩をバシバシ叩き合う。
ベルグとは装備の見た目の事で意気投合し、熱いパッションをぶつけ合った仲である。
その完成品が積まれたリアカーの荷台は俺にとって、まさに宝の山に等しかった。
三つ目獣の灰色の毛皮で作った剣帯と鞘。
黒色硬化虫の甲殻で仕立てた軽鎧と、それに補強として付けられた、色々なモンスターの爪と火吹き鼠の赤い革。
牙は加工してチャームに、それと同じデザインのストラップもどき。
刃羽猫の堅くて白い羽は、ミスリルと組み合わされ小手と具足に。
最後にお情けで城のアルケニーに分けてもらった糸は薄灰色に染色され、フード付きのコートになっていた。
「おいおいおいおい、カッコ良すぎるだろコレは!おやっさん、付けてみていいか?」
「直しもいるかも知れんからな、一式やってみてくれ。」
いそいそと鎧を付け始める。この手順にも慣れたものだ。
一つ一つ身に着けていくたび、俺自身には変化があるわけないのに、強くなっていく気がするのだから不思議だ。
剣帯を締め、鞘の留め具で剣を固定し、コートを纏えば、それは一人前の戦士の姿。
「やっべぇ、完璧すぎるだろこれ。」
「ワシは天才だからな!ガハハ!」
バカみたいに大声出して会話してるもんだから、あちこちから人が見に来る。
俺もその度に剣を抜いて構えたり、カッコイイポーズをとったりして応えていく。
ええ年して何やっとんねんとかは言ってはいけない。男は常に少年なのだ。
「お前さん、陛下の近衛なんだってな?ホレ、これはワシからの奢りだ!」
と言って最後に渡されたのは、百合と茨の意匠が刺繍された、真っ白なマントだった。
「おやっさん…」
「ここまで趣味全開でやらせてもらったのも久しぶりでな、ワシも楽しかったそ!ガッハッハ!」
「サンキューな、今度、酒でも持ってくよ。」
戦いの準備は着々と進んでいる。
決戦は、もう直ぐそこだ。
人物、モンスターなどなど
○ベルグ…ドワーフの天才鍛冶職人。異世界でも厨二系はカッコイイのだ。
ちなみにドワーフの体型に関してはテンプレート通り。
○黒色硬化虫…現地民からは「カブトムシ」と呼ばれている黒くてデカくて堅い虫。奥地に行けば、割とのそのそ歩いている。
○刃羽猫…読みは「じんばねこ」。
全身真っ白な豹に鳥のような羽が生えたモンスター。
動きが素早い。
○火吹き鼠…見た目はイタチに近い。前足の鉤爪を擦り合わせて火花を起し、可燃性のガスを吹き出してバーナーの様に火を吹く。
ライバルは電気鼠。




