24話
「おはよう。朝から騒ぎを起こすなんてね。普通は闇夜に紛れて行動するもんだが、そのへんはやはり妖精ということか」
会っていきなり馬鹿にされました。
てか王様がこんなところにまで何用?
「国王みずから現れるとは、どういう了見か」
「これはこれは、グリセラ様。お久しぶりです。ご健勝のようでなによりです」
「御託はいい!なぜ、こんなとこにいる!」
「なぜ?もちろんあなた方の安否が心配でね。エルフの民として妖精や精霊を保護せねばならないのです。なにより、そこの自ら新種という妖精殿は丁重に扱わねばなりません」
扱うって、すでに物扱いされてない?
生き物ですよ、僕。
「マシウスと言ったか、貴様の言う保護というのは、我らには息が詰まる。自己満足だけの保護などに意味はない。妖精の末裔とまで言われた森の民が聞いて呆れる」
ドーガさん、王様の嫌味に対抗して挑発をしています。
少しお怒りモードです。
さっきから、後ろにいる僕に火の粉が掛かってます。
火傷するほどではないけど、暑い。
「森の民だからこそだ。我らが滅びれば森もいずれ失われる。そうなれば、妖精たちも居場所をなくすだろう。この世界が生きていけなくなる!我わエルフこそがこの世界においての調停者として君臨せねばならないのだ!古事記に書かれている滅びなどあってはならないのだ!」
思い込みが激しすぎるぞ、エルフの王様。
古事記にこだわりすぎ。
確か、新しい秩序が生まれて、古いのは滅びが何たらって書いてあるんだっけ?
昔の教えを守るのは僕も大事だとは思うけど、新しい事も受け入れていかないとダメだと思うよ。
それに、自然はそんなに軟ではない。
大地に根付き
雨を糧とし
太陽の光で成長を促され
風に己が意志を乗せる
自然は強者だ。
もちろん森の為に手助けもできる。
でもそれは、あくまでそこに生きる者が、生きやすいように手を加えるものだ。
本来、森に手助けは必要ない。
創造と破壊を常に自然が行っているからだ。
森を生かしているのは、エルフでもなんでもない。
僕たちは皆、この世界に生かされいるのに。
「少し手荒になるが、致し方ない。やれ!」
エルフ王の号令で、近くにいた魔術師のような出で立ちのエルフ数人が何やら詠唱を始めた。
「まずい、森の精霊術を使う気です」
グリセラが焦った声をあげ、教えてくれる。
森の精霊術?
ドーガを見るが別段焦っている様子はない。
グリセラが走り出そうとするが、伏兵が周りから現れて、矢をこちらに向けて飛ばしてくる。
足止めしてくる。
「ドーガ!」
「安心しろ。たぶん大丈夫だ」
焦ってドーガの名前を叫ぶが、どこ吹く風。
ホントに大丈夫なの?
たぶんなんでしょ?
“だぶん”って安心の要素何パーセントあんだよ!
僕が焦っている間に、詠唱が終わったのか魔術師エルフが叫ぶ。
いつの間にかグリセラは僕の近くにいて、守るような立ち位置にいる。
「森の民たる我らに応えよ!」
魔術師エルフ達は杖をこちらにむける。
地面から草が揺らめき動き、木に絡まっていた蔦がこちらに向かってくる。
まるで、僕たちを捕え……ないね。
途中で止まってる。
「何をしている!早くせんか!」
「術は発動しているのになぜだ!大地よ、風よ、森よ!我ら森の民に応えよ!」
魔術師エルフが再度マナを高めるが草や蔦は反応を示さない。
ドーガが小声で教えてくれた。
「森の民ごときが、世界樹を前にして、森を操る術で害をなせるはずがなかろう」
ドーガは自信ありげに答えてくれたけど、さっき“たぶん”って言ってたよね?
下手したら捕まってたんじゃないの?
土壇場でその自信はどこからくるんだ。
「我らが王はさすがですね」
グリセラも関心してるけど、僕だってこうなるとは思ってなかった。
たぶんで予想した精霊はいますが。
「やはり報告にあった通り、君は森を狂わせる存在なのかもしれないね」
エルフの王様が確信めいたように言ってるけど、狂わせたのではないよ。
森を操ってきたのはそっちじゃん。
森はただ、僕への攻撃を拒んだだけだと思うよ、ドーガの言う通りならだけど。
エルフ達はホントに森の民なの?
それとも森の民としての矜持を無くしたのかな。
ここまで、高慢だとイラッとする。
「しかたない、最後の手段だ。あれを持て!」
エルフ王が悪役のセリフを吐いた!
現代の地球じゃやられ役のセリフですよ!
フラグ立てちゃったね。
エルフ達が持ってきたのは、この前僕が育てた大きな花だった。
こういう時は、お約束を破って先制攻撃だ。
「ドーガ、グリセラ!何かする前に攻撃を!」
「焦るな、今はこちらに有利な状況だ。何ができるか見届けてやればいい。我が打ち砕いてやる」
ドーガさん、それもやられ役のセリフです。
戦闘民族の王子が毎回そんな事言ってやられてるでしょ!
こっちもフラグ立てちゃったじゃん!
「その花は!ルシウス、それが森の民のやる事か!」
ほら、グリセラもなんか怒ってる。
ドーガさん攻撃しようよ。
あれきっとヤバイんだよ。
「ふん!黙ってみておくがいい、エルドラードの国を!民を守らねばならんのだ!」
エルフの王様はそう言って、僕が育てた花の蕾の先端、花びらの中に腕を突っ込んだ。
引き抜いて出てきたのは、一糸纏わぬ姿の幼い少女。
少女は腕をもたれ、意識がないのか、ぐったりと吊り下げられている。
「何を」
驚きのあまりに僕からでた言葉はそれしかなかった。
「邪悪な森の化身である、お前も知らぬだろう。我らエルフの秘術にはこいつが必要なのだ。アウラウネの蕾のみ、その実はもたされる」
「ドーガ!!」
嫌な予感しかしない。
僕は強く命令するかのように、ただ、ドーガの名を呼び捨てた。
ドーガ、グリセラ、パック、妖精達が一斉にエルフ王のもとに走る。
自分が足手まといであることも忘れ、僕も走る。
だけど、護衛達が行く手を阻んでくる。
やめろ!やめろ!やめろ!
「遅い!」
エルフ王は少女の胸を貫いた。
血が舞った。
赤い血が。
僕はその瞬間に目を背けた。
どうして、僕は、力がないんだ。
どうして、僕は、ドーガに最初から。
どうして、僕は、もっと慎重に。
どうして、どうして、どうしてもエルフ王が許せない。
「遅いのは貴様だ」
そこに現れたのは、銀色の髪に頭からはピンと立った犬の耳、銀色の毛並の尻尾。
「ポチ!!」
ポチはエルフ王の腕を掴んでいた。
アウラウネの少女の胸を貫ききる前に。
ポチはエルフ王を蹴り飛ばすと、文字通り一足飛びで僕の前にアウラウネの少女を抱えて来た。
「申し訳ありません、お館様。完全に止める事ができませんでした」
「いや、よくやってくれたよ!ありがとう!」
僕はその場で少女の治癒を行なう。
アウラウネの少女はエルフ王の貫手で胸に拳大の傷があった。
アウラウネの蕾からのみ、たった一つとれる実、心臓。
それで何をしようとしたのか、わからないけど、わからない方がいい。
アウラウネの少女の傷は癒え、目は覚まさないが呼吸もしている。
僕の腕のなかで眠るような少女をみて、安堵の息を吐いた。
「なっ!治癒魔術だと、バカなあれほどの治癒など」
エルフ達に僕の治癒能力を見せてしまったけど、魔術と勘違いしているならそのままでいい。
たとえ、ばれたとしてもかまわない。
どうせ、お前達は許さない。
現状、僕たちの方が優勢だ。
「くっ!退くぞ!退路を開け!」
「一人も逃がすな!」
僕は少女を抱いたまま、眷属を生み出すため近くの樹木に手を触れる。
奴らを追え!
一人も逃がすな!
僕に従え!
「やめんか!」
樹木に触れていた手を無理やり、ドーガに引きはがされる。
「落ち着け!我らはエルフの殲滅をするためにここに居るのではない!妖精や、今ユキの腕の中にいる少女を助ける事だ!助けた命をまた、危険にさらすのか!」
ドーガに言われて、僕の腕で眠る少女をみる。
ドーガの言ってる事は正しい。
理解できる。
僕は頭に血がのぼっている。
ここは落ち着かないといけない。
でも、
それでも……悔しい!
納得したくない思いが込み上がる。
半ば強引にドーガに引きづられ、僕たちはエルドラードを脱出した。
僕のやるせない感情を置いて。




