終話 終わりと後悔
魔王との戦いが終わり早くも1ヶ月が過ぎようとしていた。
ゆっくりではあるが、聖京都、テイルエンド全体も日常を取り戻そうとしていた。
一番大きなダメージを受けた聖京都城もエチャメールのドワーフ達の協力を得て修復作業が進んでいる。
僕達はと言うと、来月開くオーウィズ国王の即位式典の準備で色々と忙しい日々を送っている。
即位式典と魔王討伐の栄典授与式を同時に行い事になり、僕達も参列ではなく、中心として式に出るため、このところ緊張感が抜けない。
嬉しい限りではある。あの戦いが夢のようである。本当に魔王を倒したのか?なんか不思議な感じである。
「ナギト、何考えてるの?口元が緩んでるわよ。」
隣で作業していたストナがこっちに近づいてきた。
「別に、何でもないよ。ストナこそ楽しそうにしているだろ。」
「いいでしょう。綺麗なドレスって手に取るだけで幸せな気持ちになるのよ。」
「そのドレスどうするの?」
「売る?のかな?」
「誰が要るのよ。捨てた方がいいわよ。」
僕とストナとライガの3人で第4王子であったキンデルダルの部屋を片付けを命じられていた。
すなわちリリラの根城だ。
何が残っているか分からない為、僕達がこのゴミ捨ての任務に当たる事となった。
思った以上に普通だった。荷のほとんどがリリラの私物と思われる。バンパイア、3魔女のリリラとは違う、普通の女性の好む物が多く残されていた。
ストナがドレスの仕分けをしながら呟いた。
「敢えてかな?」
「敢えて?」
「誰かに見られても良い様に、真っ当な物しか置いてないとか?」
「誰に見られるんだよ。」
「…………?衛兵?」
「蠱惑のスキルがあるんだから、そんな気づかいする?」
「そうよね。そう考えるとリリラも普通の女性って感じね。もっとドクロとか、腐乱死体とかあると思ってた。」
「そりゃ、誰もが思ったから僕達が派遣されたんだ。でも、転移陣とかあるかもしれないから、今ライガさんにエージナさんを呼んできてもらっているんだろ。あまり、ここ以外を触らない方が良いよ。」
「そうだね。でも綺麗なドレス。」
ストナがひとつひとつを品定めするかの様にドレスを見ていた。
その時、部屋の扉が開いた。
「ライガさん………………!お、お前!」
扉の横には茶褐色の肌の男性が立っていた。その男は忘れもしないあのレフト・カサブレラだった。
「失礼するよ。」
そう言って扉を閉めた瞬間に、部屋の中が闇と邪のマナで充満した。
バタン!
隣でドレスを整理していたストナが突然倒れた。僕はストナに駆け寄る。ストナを抱き上げる。息はある。けど、意識がない。僕はカサブレラを睨みつけて言った。
「彼女に何をした!」
カサブレラは両手を上げて戦う意思がない事を示してきた。
「何もしていない。ただ倒れただけだ。」
「嘘をつくな!何もしないで倒れるか!」
「私のマナは邪のマナを有している。本物の邪のマナは神経毒、深睡眠、呼吸困難、そして心肺停止を引き起こす。お前達は本当のマナと対峙していない、魔王との戦いも運が良かった。不完全な復活で助かったな。」
「何が言いたい!」
今度はカサブレラが僕を睨んで来た。その時、部屋のマナが一層濃くなった。魔王殿戦いで床に溜まっていたマナ溜まりが部屋全体に充満した感じだ。
か、身体が動かない。
金縛りにあっている?いや、違う。マナの壁に挟まれて身動きが取れない。そんな感じだった。
カサブレラはゆっくりと近づいて来る、応戦しようにも身体が全く動かない。
彼は僕の襟首を掴んで持ち上げた。ストナを抱きかかえていたが、ストナを手放してもその抱きかかえていた状態で静止している。世界が……、時間が停まっている様だ。
カサブレラは僕を彼の視線まで持ち上げた。そして僕の目をまじまじと見つめて来た。僕と言うより僕の目の奥に語りかけるよう話出した。
「うらやましい。眼と脚の継承?聞いた事がない。どうすればそうなる?」
「何が言いたい!」
僕の声は全く聞こえてない様に話を続ける。抵抗したくても手も足も動かせない。
「本当にうらやましい。今お前を洗脳してその能力を奪ってやろうか!いや、今の私には継承権がない。そうなれば、2つの力は悠久の時の中に再び消える。くそ!」
そう言って僕を首から手を離した。僕はそのまま空間に押し付けられる様に浮いていた。カサブレラは何か考える様にその場を回っていた。
このままではまずい、僕は身体を動かそうと色々と試したが全く動かなかった。
再びカサブレラが僕に向って近づいて来た。今度は僕の目に焦点を合わせて話出した。
「新たな国王陛下に伝えろ。光の坑道の件、忘れるな!即位式典から1ヶ月、誰も入れるな!入って来れば全員殺す。忘れずに伝えろ!」
そう言ってから、カサブレラは少しの間目を瞑っていた。すると、突然手に剣が現れた。それは炎粉飾剣、炎のロッドだった。
「これは友人の物だ返してもらうぞ。では、また会おう。」
そう言って後ろを振り向いた瞬間にカサブレラの姿が消えた。
それと同時に僕を圧迫していたマナが解けてそのまま床に落下した。
「痛た、そうだ、ストナ!」
ストナの方が見ようとした時に再びあのマナが全身を襲った。カサブレラのマナだ。
そう思ったと同時に目の前に再び現れた。カサブレラは床に腰を付いている僕を首を持って再び持ち上げた。
「な、なんだ!」
「そうそう、ひとつ言い忘れた。お礼を言っていなかった。」
「お礼?」
「封印を解いてくれたお礼だ。その礼に良い事を教えてやる。かつてこの世界は闇のマナ獣と他のマナ獣との争いが起こった。マナ獣達は闇のマナ獣を倒す為に自身の持つ知識をドワーフやエルフに伝えて禁断の技術を開発した。戦いを終えて彼からはこの技術を危険と感じて封印した。それが今から1000年以上前の話だ。しかし、今から100年前にアホな英雄達はその技術を復活させてしまった。お前の大好きなエイディとカルメだ。彼らはやってしまった事を後悔して独自の封印をした。その封印をアホみたいに解いたのお前だ。」
「……。まさか!」
「お前は禁断の叡智を解き放った。この大陸はこれから、いや、既に大きく動き出している。大きな力は互いにぶつかり合い。そして周囲を巻き込み、大陸全体を滅ぼしていくだろう。お前はそれを見て後悔するだろう。魔王倒す為だけに、マナの剣を復活させた事を。」
「そ、そんなエイディはそんな事……。」
「我が友人のせいにするな!全てを行なったのはお前の手だ。この世界が滅ぶの見るのが先か?お前自身が滅ぶのが先か?楽しみだ。さらばだ。」
そこまで言うとカサブレラは去っていった。
僕は何も言えず、呆然と座り込んでいた。
そして1ヶ月後、オーウィズ国王が誕生した。テイルエンドに再び光が差し込んだのだった。
ただ、僕の心に深く忍び寄る影はその華やかな式典の中でも消える事は無かった。
七本槍の道化衆3(テイルエンドとミルロワールの王女)完。
3魔女シリーズ完。
駄文。
トントン!
部屋にノックの音が響いた。部屋の奥から初老の男が現れた。その初老の男の容姿は少し背も曲がり顔に爛れた様なシワが出来ていた。その男は杖をつきながら扉を開ける。
「はい。」
扉を開けるとそこには高身長の男性が立っていた。
「やあ、久しぶり。」
高身長の男は初老の男に清々しくあいさつをしたが、老人は何も答えず、部屋の中へと進んで行った。
「つれないなー、戦友の来訪をもう少し歓迎してくれよ。」
老人は流し目でその高身長の男を見て言った。
「変装をやめたか?それで珈琲店も辞めたか?相変わらず、いい加減なヤツだ。お茶ぐらいは出すが、こっちも時間がない、飲んだら帰れ!」
そう言って老人は奥の部屋へと入っていき、高身長の男がそれに続いた。
男は部屋の中をキョロキョロと見回していた。品定めするかの様に部屋の左から時計周りに周囲確認していく、そして、手彫りの熊があるのを見つけて手に取った。
「新しい趣味か?」
「趣味ではない実験だ。欲しいか?やるぞ。」
男は首を横に振って熊を棚に置いた。そうしていると部屋中に紅茶の香りが広かった。
「いい匂いだな。この辺りの茶葉かい?」
「そうだ。この山の南東でわしが育てている。」
「勝手な事をするとマナ獣に叱られるぞ。」
「マナ獣か、懐かしい響きだな。しかし、洞窟から出てこない輩に興味はない。怒ったところで火山を噴火させるくらいが関の山だろう。」
そう言いながら老人は客の前に紅茶を淹れたカップをおいた。
「ありがとう」と礼を言って、男は座って一口紅茶を口にした。老人も自分のカップに紅茶を注ぎ、高身長の男の対面に座った。
「元気で何よりだ。ここ最近君の事が気になって仕方なくてこうして足を運んでしまった。」
老人は男のを冷ややかな視線で眺めながら紅茶をすすった。
「で?何の用だ。」
「つれないな。朗報を教えに来たのにな。聞いて驚くな!カルメの封印が解けた。」
「そんな事か?知っている。」
男は老人の言葉に声を失った。
「何を驚いている?カルメの書の写しはここにもある。それが読めるようになれば封印が解けた事くらい察しがつく。そんな過去の遺物に興味はない。わしが目指しているのはもっと先だ。わしは忙しい、話が済んだのなら帰ってくれ。」
男はつまらなさそうに少しむくれっ面で立ち上がった。
「面白くないやつだ。昔から変わらんが。それでは今日のところは帰るとしよう。」
そう言うと男は何歩か進んでから立ち止まった。そして向きを変えて再びテーブルの前に戻って来て小剣をテーブル上に置いた。
「忘れていた。借りていた物を返すよ。」
老人はその小剣を自身の手前に引き寄せて言った。
「炎粉飾剣か!懐かしいな。もうわしには無用の物だが……、師匠と友の形見だ。受け取っておく。」
そう言うと、その剣を持ち上げた。その瞬間、老人の眉間にしわが寄った。
「オウミ・ナギトに会ったのか?」
男の顔が再び驚きにでとまる。
「なぜ知っている?リグナ、お前ナギトを知っているのか?」
リグナと呼ばれている老人は笑い出した。
「そうか、そうか、カルメの封印を解いたのも、バンパイア3姉妹を倒したのもナギトか!」
リグナの笑い声が部屋中に響く。
最初は驚きの様子だった男も次第にあきれた様子でリグナの様子を見て言った。
「質問しているのはこっちだぞ。」
リグナは少し澄ました表情をして紅茶をすすりながら隣で少し苛立っている男を見下ろす様に見つめた。
「だから、何でお前が知っているんだ!」
リグナはゆっくりと紅茶を置いて話出した。
「わしはセタ村から必ずエイディの力を受け継ぐ者が出ると思っていた。だから、数年に一回村へと通っては子供達に餌付けしていたという訳だ。」
「いつから気づいていた。」
「ナギトが5歳くらいの時に近所のサマールと言う友達に連れられて来た時からかな。もう15年近くなるな。」
「なぜ言わない!」
「言ってどうする?奪うのか?もう奪う資格もないだろう。」
「けっ!」
その男は怒りをテーブルにぶつけるかの様に思いっきり叩いて立ち上がった。
「邪魔したな。帰る。」
男が立ち去ろうとした時に、リグナが呼び止めた。
「レフト、頼みたい事がある。」
「なんだ?」
レフトと呼ばれる高身長の男はリグナの方を面倒さそうに見た。
リグナは服の袖をめくって腕をレフトに見せた。
「見ろ!わしはもう時間がない。わしには結局エルフ化の法は合わなかったんだろう。もってあと1年か。」
その腕は肉がただれて崩れはじめており、微かに骨が皮の下に見えはじめていた。リグナはその腕を隠した。
リグナの腕を見てレフトはもう一度席に着いた。
「何してほしい?」
「計画は後で話す。報酬はこの洞窟内の私が集めた文献全てだ。どうだ。愛しのウリエルの手記も残っているぞ。」
……。
「なんだ悠久の時を得ても心は子供だな、顔が赤らんでいるぞ!」
「うそをつくな!昔の話だ。興味はないがお前の最後の頼みだ聞いてやる。」
1時間程2人は話してレフトと言われた高身長の男は帰って行った。
駄文完。
次回8勇士シリーズへと続く。
次回27年 春~夏、掲載開始予定




