第七話 テイルエンドとミルロワールの王女③
その暗い、暗い道はどこへ続いているのだろうか。
ポタポタ。
水滴がしたたり落ちる高さ1メートル程の通路で僕達は腰を落としながら進んでいた。
「本当にここで合ってるの?」
ストナの声が後ろから回廊全体にこだまする。
「黙れ!」
その声を一掃するかの様にマーロンの声が前方から後方へと流れる。
暫くの沈黙のあと、僕の後ろからエージナの小さな囁きが聞こえて来た。
「本当にこの道でいいかいな?」
その声に僕も小さく返す。
「分かりません。オーウィズがここと言う以上ここでしょう。ただ、オーウィズの伝言と合っているかは別問題ですけど。」
「ナギトも黙れ!」
今度は低い重低音が前から飛んで来た。
ゴン!
咄嗟に背筋が伸びて頭が天井にぶつかった。後ろからクスクスと笑い声が聞こえてくる。
「怒られたな。」
「エージナさんの所為ですよ。」
「勝手にわしの所為にするでない。おぬしが不注意なだけじゃ。」
「冷たいな。」
僕は自分の頭を撫でながら前へと進んでいった。
ここはどこなのか?
それは聖京都城から中央広場東側へと続く隠し通路の中である。
一部の王族しか知らない。不測の事態に備えられた逃げ道。ストナ、マーロンも知らない特別な避難ルート。僕達はそこから聖京都城内へと入りこむ作戦を取った。
既に3魔女リリラは魔王復活の儀式へ着手している可能性が高い。そうなれば、ルイーゼ王女の命が危うい。危険を覚悟でこの抜け道を通る事にしたのだった。
この抜け道の出口は謁見の間、玉座の裏手にある壁へと通じる。危険極まりない賭けである。目的地へと出た瞬間にリリラとの対決となる可能性もある。
しかし、これ以外に選ぶ選択肢はない。
このルートを知っているのは既に亡くなった現王と第一皇太子であったオーウィズの父ふたりだけと言う事になっている。
そもそも聖京都建国以来ここを使う様な非常事態は起こった事がない。その為、一部王族以外は知る由もないルートである。
ではなぜオーウィズがこのルートを知っているたのか。それは祖父と父の会話を盗み聞きしたからである。と言う事は、キンデルダルもこの事を知っている可能性は高い。そうなればリリラも同じ。
このルートに安全と言う文字はどこにもない。
現状、この通路に何かトラップやモンスターが配置されている様子はない。しかし、それが知られていない理由にはならない。
奥へと進むにつれて心臓の鼓動が高くなってくる。でも、なぜだか落ち着きもある。
今僕には最高の味方がいる。信じるしかない。ライガやマーロンを。
時より心音を確かめるように深呼吸をして暗い回廊の奥へと進んで行った。
ドン!
目の前を行くカールの背中にぶつかった。
「しっ!着いたぞ。」
全員が静まり、通路内に水滴の音だけが響いていた。静かな時が流れる。
「10秒後に出るぞ!」
マーロンの声で再び鼓動が高鳴った。
10……8……5……3……。
「行くぞ!」
マーロンの掛け声と同時に僕達は一気に通路から広場へと飛び出した。
「な、何だ、ここは?」
マーロンの声が聞こえると同時に、僕の目に見も知らぬ光景が飛び込んで来ていた。
「ここはどこ?」
自然と声が漏れていた。
そこは魔王城を彷彿とさせる奇妙な装置で満ちていた。
装置に見覚えがあった。いや、見覚えと言うより、装置の形や並びがリトダの悟りの書に書いてある通りである。
地面には数え切れない程の多くの配管が大中重なりあって巡らされている。その配管が中央の玉座に集まっていた。
その玉座には何かが座っている。気配はあるがこちらに気をする様子もない。
僕とストナは恐る恐るその玉座へと足を向けた。玉座の後ろから王冠とすこし白髪の交じった茶色の髪が見えた。
「キンデルダル!」
ストナが声を上げた!しかし、キンデルダルは全く微動だにしなかった。
突如として扉が開いた。
ギィーー!
その時身体を何か水に流される様な感覚を覚えた、そう思った瞬間に押し流される様に身体が浮き始めた。足が地面から離れた瞬間に全身が流され始め、あっと言う間に流された。
王座から下るように下へと押し流され、そのまま謁見の間の扉から外へと流され、どんどん下へ下へ。ついにはエントランスまで来て流れは止まった。
7人全員無事。ではあるが、何が起こったのか訳も分からず、ただ立ち尽くしていた。
ストナが僕の身体に触れてきた。
「何?」
「濡れてないよね。」
その一言に僕は自分の衣服に触れてみたが、どこの部分も濡れた様な感触は無かった。むしろ、あの通路で濡れた部分も綺麗に乾いている。
「何が起こったんだ?」
ストナも首を横に振る。誰一人この状況を理解していない様子で立ち尽くしている。ただライガ達は緊張をほどいていない。既に敵の攻撃範囲にいることは間違いない。
突然、先程流されてきた扉から巨大なマナが漂って来た。このマナ、バンパイアいや、リリラだ。
扉から細い腕が現れたかと思うと、女性がゆっくり姿を現した。
「皆さんご機嫌よう。ようこそ、我が主の城へ、歓迎いたします。」
「リリラ、ルイーゼ王女はどこにいる!」
マーロンが最初に声を上げた。
リリラが右手を上げるとマーロンが押し流される様に壁に激突した。
「あなたに話してないわ。私が話したいのはナギトくんあなたよ。どう?結論は出たかしら。私達に組するか、ここでその命を終えるか。決まったかしら。」
「始めっから決まっている。誰がお前なんかと組むか!それにこっちに来る?刺客を送っておいてよく言うな。」
「あら、ウィンザーのこと?あれはけじめよ。けじめ。あなた達は妹達を殺した。だから、あの死闘を申し込んだ。それだけよ。あの死闘に勝った以上、あなたはこちらに来る資格を得たのよ。喜びなさい。」
「ナギトは断ると言ってるだろうが!」
ライガが言葉を発すると、今度はライガが激流に飲まれる様に押し流された。
「外野は黙ってなさい。私の部下になりなさいとはいってないわよ。こっちに来たら、悠久の命を得る方法を教えてあげるわよ。」
「結局、バンパイアになれと言う事だろ。」
「あら、あなたもバンパイアだけが悠久の時を生きると思っているの?私達の同族に会ったでしょ。」
「同族?」
「レフト・カサブレラよ。彼は我々とは違う方法で悠久の時を手に入れたのよ。どう?我々の方へ来る気になったかしら。」
「断る。」
「そう、残念だわ。交渉決裂と言うことね。」
リリラはそう言うと再び手を上げた。
何か仕掛けてくる。僕は構えたけど、特に何も仕掛けてこない。
静かなつかの間の沈黙あった。
「なによ。これ?」
ストナの叫びと同時に皆が気づいた。
腰の所まで見えない水に埋められている感覚があった。
水?
いや、水ではない。濡れていない。なんなんだこれは?
もしかして、このまま不思議な水で窒息するのか?
徐々に腰から上へと上がって来て、首を筋まで来た。僕は軽く背伸びをする。
これはヤバいか?
「ライガさん。」
「ん、どうした。」
ライガの方を見ると、ライガは座っている。考えてみると、僕よりも背の低いエージナやテロットも何ともなく立っている。
「これは何なんですか?」
「これは浸透魔水と言うなのスキルじゃ。これは地上で海洋系モンスター呼ぶ水系召喚士が使うスキルじゃよ。」
ライガが立ち上がった。
「さて、来るぞ。おそらく、クラーケンだ。」
「クラーケンってあの魔災害の?」
「ああ、ミリアンの手下に魔災害の英雄がいた時点である程度想像はついていたがな。」
空間全体に笑い声が響いた。
「さすがね。妹達を殺しただけの事はあるわ。どう?最期のチャンスよ。ライガ、あなたがそこの男を説得すれば、あなたは魔王様に特別なバンパイアへとしてもらえる様交渉するわよ。どう?」
「断る。」
「そう。それなら仕方ないわ。来い!クラーケン!」
そう言うと、天井に何かマナの転移陣の様なものが出来あがった。その転移陣から吸盤のついた触手の様な物が出てきた。
「出てきたぞ!気をつけろ!」
触手がこちらに来て、僕達をひとまとめで掴もうとした。
「投網!」
カールの投網が僕達を包んでくれた。
「助かりました。」
「助かってないぞ!これからどうするか考えろ!」
マーロンの激が飛ぶと同時にクラーケンは僕達の入った投網をボールの様に振り始めた。
身体が上下に叩きつけられる。投網自体クッション性があり、叩きつけられたくらいではダメージをけないが、単純に目が回る。
「カールなんとかしろ!」
「無理だ。解除したら、潰されるぞ。」
再び何度も振り回された。目が回る。目が回る。
暫く振り回して飽きたのか、触手の動きが止まった。助かったのか?
…………。
「ヤバい!食べられるぞ!」
触手が僕達の投網を口元へと運んで行く。
「カールなんとかしろ!」
「無理だ。」
食べられる!そうだ。これが口の中に入らなければいいんだ。
「カールさん、この投網って巨大化できないのですか?」
「ダメだ。一度スキルを解くしかない。けど、解けば潰されるぞ。」
どうする?
「カール!一度スキルを解け。俺とマーロンを信じろ。」
ライガの声が響く、彼はすでにクラーケンの口へ向かって攻撃を仕掛ける準備している。マーロンも剣を構えている。
「分かった。解くぞ。5秒後だ!」
このままクラーケンに丸呑みされるよりはスキルを一度解く方へ賭けた。
しかし、解けば相手の触手攻撃を一気に食らう可能性がある。それでもやるしない。
僕も剣を構えた。
……。
カールのスキルが解かれた。
ライガの万段突撃とマーロンの万位十字格子閃で一気にクラーケンに攻撃を仕掛けた。
しかし、軟体生物のためか、攻撃が入っていない。多少のダメージがあるのか、一瞬クラーケンの身体が止まったが再び触手が動き出した。
剣で無理やり斬ってだめだ。
剣が弾かれてしまう。その弾かれた隙を付いて吸盤で締め付けようと触手が襲ってくる。
避けるので精一杯である。この浸透魔水がクラーケンの能力を最大限に活かしてしまっている。なんとかしないと。
リリラの方を見たが彼女はもういなかった。クラーケンを無視してリリラを追う手も無くないが、挟み撃ちに合う可能性が非常に高く危険である。
クラーケンはここで仕留めた方がいい。
エージナが僕の方へと近寄って来た。
「火のマナ寄せならどうじゃ。」
「それより、火炎鳥でどうにかなりませんか?」
「ならん。さっき火炎球で攻撃したが弾かれた。あやつ何か全身にマナの覆いを纏っておる。その覆いが魔法攻撃を弾いている。だから、剣で斬ってから体内へ直接マナ攻撃しかないと思うんじゃ。」
「分かりました。やってみます。」
僕はエージナの火のマナを剣に寄せた。そしてクラーケンへと向かって行った。
触手が来る。
マナの流れを見るんだ。覆いが掛かっているなら、その覆いに反発する様に攻撃すれば、弾かれる。マナの流れに合わせろ!
触手の先端は多くの覆いをまとっている。けど、先端から数メートル先にマナの覆いが薄くなる部分を発見した。
そこだ!
しかし、簡単ではない。触手攻撃を剣の柄で躱しながら、その部分へと近づいて行く。触手攻撃が全方向から来る為、マナを頼りに躱す、躱すと言うより受け流して進んで行く。
マナの薄くなる部分に近づいた。
その部分へ剣を突き刺した。クラーケンの覆いと剣を取り巻く火のマナが反発しあう。剣の勢いに覆いが崩れていく、ゆっくりと確実に剣先がクラーケンの触手を刺し通していった。
その瞬間に僕は剣を左右に揺さぶる様に振るった。火のマナが触手の切れ目に入り込み焼き切っていく。
ついに触手が断ち切れて床へと転がった。
「やった。え?」
斬った触手が突然動き、僕に向かって襲ってきた。そんなバカな。斬っても襲ってくるのか?
「火炎鳥」
エージナのスキルで触手を焼き尽くした。
「良く焼けたわ。うまそうな焼きイカじゃな。」
「食べるんですか?」
「わしは焼きイカが大好物じゃが、そんな暇はなさそうじゃ。見てみろ。怒っているぞ。」
再び僕の方へ触手が3本迫ってきた。
「同じ様に斬ってくれ、わしが焼き尽くしてやる。」
「簡単に言わないでください。3本ですよ。3本。どうやって避けるんですか?」
「おぬしの眼ならなんとかなるじゃろ。」
他人事だ。それでもやるしかない。触手を見るな。触手を覆っているマナを見るんだ。3本中1本は先ほど僕が斬った触手だ。マナの覆いが弱い。これなら、先端から一気に斬れる。問題は残り2本だ。
1本はまっすぐ、もう1本は右から、最後に先端を斬った触手が左側から迫って来た。
マナをみろ。そう自分に言い聞かせて、攻撃方法を模索する。
決まった。
僕は左の触手側へと体の向きを変えた。まず先端の斬れた触手を裂く様に斬り付けて、残り2本の触手が代わる代わる僕に攻撃を仕掛けてくるが、それをマナの流れで避けていく。裂くように斬りつけていた触手を思いっきり奥まで裂いて焼き切った。
残り2本だ。
左右から触手が来る。右が先だ。右を受け流していくと、今度は左側から触手攻撃が来る。
主攻撃の触手で僕を捕まえようとくねくねと攻撃して来て、その間に他の触手は直線的に刺し通そうと攻撃を仕掛けて来る。このパターン、直線的な攻撃側を避けてもそのまま突き抜けて行くので、勝手に目の前に覆いの切れ目がやって来る。
来た!
僕は主攻撃の触手を躱しつつ、直線的攻撃の触手を思いっきり斬りつけた。
触手は事の他簡単に斬れた。そして一瞬の触手の動きが止まった瞬間を見逃さず、そのままもう1本の触手も斬り刻んだ。
「火炎鳥!」
僕が斬り刻んだ瞬間を見計らって、エージナのスキルが炸裂して触手3本を撃退した。
「よくやった。」
「ありがとうございます。」
僕達がお互いに手をか叩いて褒めあっていた時、突如として、クラーケンのマナが内側から湧き上がって来た。
「何か来る!気をつけて。」
こ、これは……。
クラーケンの口元から衝撃波が放たれた。僕達はその衝撃波で壁際まで押し流され、壁に激突した。
すると、クラーケンはもう一度回りの空気(浸透魔水)吸い込む様に辺りの空気を吸い込んだ。
クラーケンの中でマナがはじける。
そして、ダメージを与えた触手が再び生え始めた。
「なんじゃ、あれは?」
再び衝撃波を放って来た。
ライガとマーロンが僕達の方へと近づいて来た。
「ナギト。火のマナ寄せを頼む。」
「ライガさんは無事ですか?」
「ああ、だが、このままでは拉致があかん。俺とマーロンで胴体を一気に攻める。加勢を頼む。」
「分かりました。」
僕は全員の武器にマナ寄せをした。
「行くぞ。」
僕達はクラーケンに向かって進んで行く。しかし、今度は触手で地面を太鼓の様に叩き出した。
ウォーーー!
バンバンバンバン!
王宮の床が激しく歪み、割れ始める。床が割れると同時にそのひび割れはエントランスホールの石柱まで及び、一部石柱までが崩れ始めた。
「城が壊される!」
「大丈夫よ。ここと謁見の間側とは懸隔があるからここが崩れても城の中央は壊れないわよ。」
「そ、そう言う問題?」
「要は気にせず戦って問題無いって事。」
「そう、それならこっちもやりますか。」
今度は触手が崩れた柱をこちらに投げて来た。
「土の壁!」
テロットがスキルで防いでくれた。
「単なる物理攻撃ならわしのスキルでなんとかする。行け!」
気づくと、ここにはストナ、エージナ、テロットの4人で立っていた。ライガ達は別の場所からクラーケンを狙っていた。
「僕達4人でやりますか。僕とストナで触手を叩きますから、エージナさんは斬れた触手の処理、テロットさんは柱担当で。」
「任せろ!」
「行きます。」
僕達は再びクラーケンに向って進む、数メートル程進むと触手攻撃が来た。
バン!バン!
床を叩きながら4本の触手が迫ってくる。
ひとつ目を避けて、もうひとつが来る!
攻撃のリズムが変わったが、攻めて来るマナの動きは変わらない。
読める。
触手攻撃が槍から鞭に変わったが、こちらも逆に好都合である。落ちて来た触手の2つ目の地面との接触部を思いっきり斬りつけた。そしてその部分から裂くように斬り裂いていく。ストナも僕の攻撃位置を真似て同様に攻撃した。
僕達の攻撃が終わるとエージナの火炎鳥で切り裂かれた触手を焼きイカにする。
これで触手2本撃破だ!
突如として目の前が真っ暗になった。
スミ攻撃?視界を奪われてもマナを頼りに攻撃はかわせる。
いや、攻撃は出来る。
触手のマナを見るんだ。
マナに覆われた触手の攻撃が目の前に来る。さっきと手順は同じだ。
覆いの切れ目を目掛けて攻撃をする。触手が本体を切り離したら次は本体側の触手を裂いていく。3本目撃破!
……。
再び回りの空気(浸透魔水)が揺れる。また衝撃波が来る!
次の瞬間僕は壁に激突していた。
「聖回復!」
ストナのスキルで周りが見え始めた。クラーケンの触手がまた元に戻っていた。
「きりが無いわ。この浸透魔水のせいね。回復効果があるのよ。」
どうすれば?
「私がこの「投網」でクラーケンを丸ごと捕獲する。そうすれば、浸透魔水の効果を遮れるかもしれん。」
「かもしれないって、そもそもあんな巨大なイカそのまま捕獲できるんですか?」
「触手がなければそこまで難しくない。」
「触手を全部斬れって言うことですか?でもすぐに生えてきますよ。」
「斬るんじゃない。触手を一方向に集めればいいんだ。」
「どうやって?」
そこまで話すとカールは指を上に向けた。
……。
……。
またこれか!
僕はカールの「投網」で僕をスリングショットの玉の様にクラーケンへ向けて飛ばした。
これで何回目だ?
……。
無事クラーケンの頭の上に飛び降りた。
ライガとマーロンも降りてきた。
「ナギト!来るぞ!」
触手が僕達を振り落とそうと払って来る。僕達はそれを避けながら逃げ回った。
カールのとんでもない作戦は僕がイカの頭の上で暴れていれば触手はそのコバエを払う様に顔の周り集まって来る。そして全ての触手が本体付近へと集まった瞬間にクラーケンを「投網」の網の中へ入れて生け捕りにする。
クラーケンの頭の上は独特の踏みしめる感覚がある。一瞬ぬかるみに踏み込んだ感覚があるけど、途中から板の上にいる様な感覚へと変わる。更にマナの覆いが僕達を吸付けようとする。炎帝御輪のおかげで吸付く力に反発するので、歩行はそこまで悪くない。問題は両サイドからくる触手だ。
「ナギト!なるべく斬るなよ。ダメージを与え過ぎると衝撃波からの触手回復だ。」
「分かってます。避けてカールさんにつなげます。」
長い2本の触手を使って僕達を攻撃、振り落とそうとしてくる。残りの触手は攻撃してこない。届かないのか。精密性に欠けるのか分からない。けど、目の前の攻撃を避けて避けて避けまくるしかない。
カールさん頼みます。僕は頭上の柱の影に隠れているカールの方を見あげた。
既にカールは柱の上に隠れて、クラーケンが「投網」の枠に入るチャンスをうかがっている。
僕達を狙っていた触手が苛立ちを覚えたのか、今度は辺りの柱を崩し始めた。
しまった!そこはカールさがいる場所だ。触手攻撃を食らった様でカールが上から落ちて来た。
すかさずライガが助けに行く。
「ナギト、ひとまず退散だ。」
マーロンの声が響いた。
ここで引くのか?ここまで来たんだ。弱点はないのか?マナ寄せ開眼でヒレの上を見回した。
僕はヒレと胴体の間に覆いの切れ目を見つけた。ここまで来たんだ。一矢報いてやる!
僕は時より仕掛けて来る触手攻撃を避けながら覆いの切れ目を剣で突き刺した。
行けた。
しかし、そこへと剣を入れた瞬間にその部分から白い液体が僕目掛けて大量に放出されてそのまま壁へと激突したのだった。
「聖回復!」
ストナが近寄って来て回復してくれた。
「大丈夫?」
「なんとか。ありがとう。来る!クラーケンだ。」
クラーケンが僕とストナのいるところへ向かって来た。やばい、戦闘体勢が整っていない。
しかも最初に衝撃波を飛ばしてきた。その衝撃波にそのまま受けてしまい、僕達は壁へとめり込む様に激突させられた。
そして今度は触手攻撃が来る。
だめだ。避けきれない。
その時、奥の方でマナ激流を感じた。これはカールのマナ。しかもスキルをひらめいた時に起こる現象だ。
「スキル『引き潮!』」
この空間を漂っていた浸透魔水が一気に引いていった。そして、浸透魔水がなくなると、あれほど大きかったクラーケンが徐々に縮んでいった。
最終的には1メートルくらいの大きなイカになっていた。しかも干からびて地面に布切れの様に横たわっていた。
そのにマーロンが来て、剣を突き刺した。
クラーケンは息絶えた。
マーロンはそのまま上見あげた。
そこにはもうリリラはいなかった。エントランスは数本の柱が壊れてめちゃくちゃになっている。しかし、謁見の間へと繋がる階段は無事である。
「休んでいる暇はないぞ。」
「あなたに言われないわよ。このチームの隊長ナギトよ。」
また、それか。でも、ここで止まる訳にはいかない。
「追いましょう。そしてルイーゼ王女を助けましょう。」
ライガが僕の頭に手を置いた。
「やるぞ!3匹目の魔女退治だ。」
「はい!」
僕達はリリラを追うように謁見の間へと走り出したのだった。




