011「10 遠征中4」
「10 遠征中4」
地響きが轟いた、そして・・・
『六白牛急便です!荷物を御届けに参りました
受領のサイン御願いします。』
ホルスタイン柄のタンクトップが目印の宅配のおっさん
六白牛急便社長「蒙(もう)さん」が、牛な顔をきりっと決めて
今回も背景に土埃を上げ、体から湯気を立ち昇らせ現れる
それは若干、逆光気味で
ある意味とっても絵になる光景だったのだが
その場にいた人々にとって、予定してない訪問者だったのだろう
ざわざわと煩かった建物の中にいた者全てが静まる
一呼吸置いて・・・
『わぁ~い!も~ちゃんだぁ~待ってたんだよぉ~』
しぃ~んと静まり返った室内で大声を上げ
フィンが、蒙に駆け寄り跳び付く様に抱き付いた
宅配便のおっさんを大歓迎と言わんばかりに御出迎えする。
山都も、出迎える様に歩み寄り・・・
突然、拳を蒙の顔面にめがけて打ち出した
静まり返っていた室内が、打って変って騒然とする
山都が拳を打ち込む際、踏込んだ為に舞い上がった土埃が
視界を遮り、状況が見えなくなる
暫くして埃が落ち着き、そこに遭った光景は・・・
山都の拳が、軽々と蒙の手に受け止められている状態だった
それに喜んだ山都は、顔をくしゃくしゃにして笑った。
レイブンは、自分で淹れた紅茶を啜りながら
セレスは、レイブンの紅茶を横から啄む様に飲みながら・・・
ソラは本気でドン引きしながら、一部始終を眺めていた
『あれ・・・なんなんすか?』
『さぁ~・・・師匠、どう思います?』
『そうだな、強いて言えば・・・
男臭い体育会系の愛情表現から来る悪乗りってヤツかな?』
蒙と山都、2人の間にだけ流れる空気が読めない一行は
やり取りを見守る事を選んで傍観者を決め込んでいた。
『も~ちゃん、業苦労!やまちゃん作業準備ヨロ!』
いつの間にか、注文の品を確認したフィンが
タブレット端末に表示された伝票にサインして、蒙に渡し
普段見せた事も無い、シリアスな表情で笑う
『今から作業始めた場合のタイムリミットは・・・
40時間程度やよ?いけるか?
夜が終わってからにした方がええんちゃう?』
心配する山都にフィンが元気に答える
『大丈夫!アタイには、セレスとレ~君がいるもん』
と、言った後で・・・
『それにそれするとね・・・
仕事終了まで2週間以上掛かっちゃうじゃん?
アタイ、こんな湿気の多い所にずっと居たらカビるよ・・・
それに、家に残してきたプリムラが
その間に故障してたら嫌だし、帰りたい』
ちょっと沈んだ表情をフィンが見せた。
フィンの頭にポンと手を置き
『行くでぇ~準備しやぁ~』との、山都の号令で
建物内に居た者達が、何やら出掛ける準備を始める
『手伝わせろよ』と、蒙も・・・
タブレット端末やら何やら器械を手に支度に加わっていた
準備を整えた者から、車や重機を停めた駐車場を素通りし
徒歩で、上へと続く坂道を
1個が、バスケットボール2個分くらいの大きさの
144個あると言う電球を一人1~2個抱えて運ぶ
ケーブルや、大きなカゴに入った電子部品を抱えて運ぶ者もいる
そんな列の横をフィン一行は
サクサクと手ぶらで登って行く事になった。
天井近くになると・・・
大きく緩やかで、手摺の無い螺旋階段が幾つも
放射状に柱の周囲を取り囲み
その階段一つ一つに、滑車とロープが設置され
同じく放射状に整列して並ぶ光源へと繋がっているのが見えた。
今回、フィンの担当する仕事場は
フィン一行が登ってきた方向とは、逆側にあたる方向
照明が一列・・・
薄暗くて、あちらこちらで微かに点滅している場所
山都が先に、それに繋がる螺旋階段を上り
滑車に繋がった古い縄の一方に新しい縄を繋げ
逆側の古い縄を引き、新しい縄と古い縄を入れ替え
フィンの仕事の準備を整えてくれる。
天井からぶら下がる光源までの道は、存在しなかった
『さっきまでいた場所・・・
水質とか、湯の温度管理とか微妙にハイテクな部分あるのに
何で・・・行き成りアナログ作業なんすかぁ~!?』
フィンの仕事内容・・・
「綱渡りで歩いて行って、電球を交換する」と、言う
地味なのに、本気で危険な仕事内容を耳にしたソラが
驚きの声を上げていた。
『そんなの決まってるじゃん!
あんなでっかい機械から出る電磁波を受けて
小さな機械が、誤作動起こさない訳がない!
さてはソラ、機械同士を直置きして使って壊すタイプでしょ?』
フィンが無智そうなソラに向けて得意そうに笑う
『起動した機械同士はね、近付けちゃ駄目なんだよぉ~
少しの間なら、近くに置いても大丈夫だけど
絶縁体で護るか、一定距離ちゃんと離しておかなきゃ
基盤が磁気で駄目になっちゃうから、気をつけなきゃなんだよ』
フィンは「常識でしょ?」と、言わんばかりに
腕を胸の下で組んで、少し高い場所からソラを見下していた。
『おい!ソラとか言うボーズ・・・お前に仕事やぞぉ~』
山都が、ソラの首根っこを猫掴みし
荷物を運んできた者達の列の最前列に降ろす
『タブレットPCのカメラでチケット認証したら
チケット持ってきた奴の顔が同じか
同じ方法で確認して、チケットの数字通りに並ばせ
チケの所有者が来てんのと違ったら、俺に声掛けぇ~よ
そいつに落とし前つけさしたるから』
『えぇ~っと・・・それ何のチケットっすか?』
説明を受け・・・ソラは怪訝そうに首を傾げる
『お前・・・知らんのに来たんか?』
山都が、目を見開く程に驚き・・・その説明もしてくれた。
取敢えず、交渉する為の言語を持たない捕食者が出るらしい
フィンが獲物になって狩られてしまわない様に
戦わなくてはイケナイそうだ・・・で、その戦いが・・・
コロッセウムで戦う剣闘士の如く、見世物になっていると言う
『マジっすか・・・』
『嘘吐いて何の得になるっちゅうねん・・・見たらわかるわ
それより・・・
今日は人気の狩人参加するから、忙しいねん
さっさとお前、仕事しろや!客待ってんねんでぇ~』
ソラと山都が話し込んでいる内に観客の数は膨れ上がっていた。
『此処に居ていいんは、10人づつ3列な!
30番以降のチケット所持者には、下の駐車場で
ライブ映像流すて言うとけ・・・
持ってない奴には「当日券売り場はコンビニや」て言えば良い』
そう言い残して山都は・・・
小型カメラを装着した数匹の小動物を肩に乗せ、腕に抱えて
螺旋階段を登って行ってしまう
ソラは気を引き締めて、自分を捕食するかもしれない
チケットを持った女性人達に立ち向かうのであった。
そんなこんなで何度かトラブリ・・・
上から降ってわいた山都が
チケットの無い観客を「崖から放り投げる」と、言う
落とし前をつけた後、蒙がソラの護衛に就き・・・
ソラに安全快適な仕事環境が整う
『じゃあ、レイブンさんって有名人なんっすね!』
雑談ができる程にリラックスしたソラは
「先輩って凄いっす」って思いながら
客から、これから始まるイベントの事を耳にしていく
その客達から仕入れた情報によると・・・
空中からセレスが周りを偵察し
緊急事態には、護衛として一緒に現場に付き添うレイブンが
フィンが動き回る1本の長いワイヤーと
照明を補助的な役割で、天井に四方八方から固定する
無数のワイヤーを足場として駆使し
フィンを護る為に戦うらしい
レイブン以外の「狩人」と呼ばれる人達も
似たり寄ったりの感じでフィンを護るのだそうだ
『男の参加者は、レイブンだけだからな・・・一番人気だぞ
2番人気は、「王子」って呼ばれている
尻尾の長い猿系の御嬢さんでな
実を言うと、家の娘が王子のファンなんだ・・・』
前売り券の客を並ばせ、当日券の客の管理に回ったソラに対し
蒙が、自分の娘談議に花を咲かせたのは・・・
ちょっとした、子を持つ親父様の御茶目心です。
最初に「蒙さん」出て来た時、正式な名前を書くの忘れてました☆
そして今回も・・・
蒙さんがホルスタインではなく、茶色一色の牛である事を
ストーリー上に入れ忘れましたが・・・
(◜▿◝)ま・・・いっか、ここで説明(?)したしw




