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第一話 最強魔術師、パーティーを追放される

「アルス、言ったよな? 次は無いってよぉ」

「次は……無い」

「無能はウチにぁいらねぇ。『白銀の獅子』は世界でも指折りのギルドだ。お前みたいなお荷物がいると面倒この上ないんだわァ」


 豪華な装飾が施されたギルドの応接室。

 ソファーに深く腰掛けた金髪の男――リーダーのガイウスが、鼻で笑いながら俺に書類を投げつけた。

 それは、一方的な専属契約の解除通知書だった。


「クビ……ということ、ですよね」

「二度言わせんなやぁ。報告書を見てみりゃぁ、お前は毎回毎回、パーティーの後方でくすぶって魔法を打つだけだァ。しかもその魔法は攻撃でも防御でもないモノときた。これ以上ない適切な理由だろ?」


 ガイウスの言葉に、彼の後ろに控えていた他のパーティーメンバーたちもクスクスと下品な笑い声を漏らす。

 そして今までの鬱憤を晴らすように口を開く。


「本当よね。アルスってば、いつも後ろで突っ立ってるだけじゃない」

「俺たちが命がけで戦ってるってのに、気楽なもんだよなぁ」


 彼らの言葉を聞きながら、俺は内心で深い溜息をついた。

 俺が戦いの中で使い続けていたのは、彼らの言う「地味な呪文」ではない。

 

 味方の身体能力を極限まで引き上げ、受けるダメージを完全に無効化し、同時に敵の防御力を削ぎ落とす――神級の『結界・支援魔法』だ。


 彼らが「自分たちの実力で魔獣を一撃で倒せている」と思い込み、「魔獣の攻撃を受けてもかすり傷一つ負わない最強の肉体を持っている」と勘違いできていたのは、すべて俺の魔法が常時発動していたからに他ならない。

 だが、それを説明したところで、この傲慢な彼らが信じるわけもないだろう。


 特に処遇に関する決定権を持つガイウスに告げたところで判定は覆ることはない。


「わかりました。今までお世話になりました」


 俺は反論することなく、静かに立ち上がった。

 もともと、彼らの傲慢な態度や、手柄を独り占めにする姿勢には限界を感じていたのだ。ちょうどいい機会かもしれない。


 するとガイウスはどこかつまらなさそうに喉を鳴らす。

 

「ったく、つまんねぇなァ。だが素直なのは結構なことだ。無能としての自覚だけはあったようだなァ。おい、そこにギルド証を置いてさっさと出て行け。二度と俺たちの前に顔を見せるなよ」

「はい。それでは」


 俺は胸ポケットから『白銀の獅子』の紋章が刻まれたギルド証を取り出し、机の上にそっと置いた。


 ――その瞬間、俺がギルド証を介してパーティー全体に付与していた、すべての常時バフ(強化結界)のリンクが完全に切断されたのだが――もちろん、目の前の天才気取りたちがあの独特の「身体が軽くなる感覚」の消失に気づくことはなかった。


 応接室の重い扉を閉め、俺は一人、帝国の冷たい風が吹く街頭へと歩き出した。


 街はいつものように人々でごった返し、店の客引きが忙しい。

 普段とは一切変わりない光景。

 俺だけ仲間はずれにされているような気がした。

 自身のポケットから小袋を取り出す。その中には申し訳程度の硬貨が入っていた。

 手元にあるのは、わずかな旅費と着の身着のままの荷物だけ。

 長年縛り付けられていた重労働から解放された俺の心は、不思議とすっきりと軽かった。

 

 だが同時に、自分を必要とされなかったこと、理解してくれなかったことに対し、心に穴が空いたような気がした。


「さて……これからどうしようか」


 ひとまず、帝国の息がかかっていない隣国へ向かおう。そうすれば余程のことがない限りあの人らに会うことはないはずだ。

 俺はバックパックを背負い直し、新たな一歩を踏み出した。

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