1話
父が逝ってから、僕の世界は急に広く、そして空っぽになった。
残されたのは三毛猫のこでまりと、倉庫みたいな空き店舗、そして二百万円。
二十六歳フリーターの僕、木暮誠は、突然世の中に放り出された。
「誠、せっかく店があるんだから、何かやってみようよ」
幼馴染の宮部真琴は、埃っぽい床に座り込んで笑った。
その笑顔は昔から変わらない。僕が立ち止まると、必ず背中を押してくれる。
「店って言っても、何をやるんだよ」
「喫茶店?古本屋?猫カフェ?科学カフェ?…あ、スポーツカフェとか!」
「いや、どれも潰れる未来しか見えないんだけど」
「潰したっていいじゃん。青春ってそういうもんでしょ」
僕は苦笑した。青春なんてもう終わったと思っていた。
でも、真琴の笑顔とこでまりの鳴き声が、
「まだ始まってないんだよ」と言っているように聞こえた。
その夜、僕らは街を歩き回った。
古着屋のショーウィンドウを覗いては「これなら始めやすそうだな」と呟き、
スポーツバーの賑わいを見ては「試合の熱気を共有できるのって最高だよな」と胸を躍らせた。
帰宅後は動画を見まくった。
古着屋の開業ノウハウ、仕入れのコツ、採算性の厳しさ。
スポーツカフェの雰囲気、飲食の許認可、放映権の難しさ。
「古着屋なら、初期費用は少なくて済む。でも利益は薄いかも」
「スポーツカフェは盛り上がるけど、許可とか契約とか、誠が苦手そうなやつばっかり」
真琴は笑いながら言った。
「でもさ、どっちも青春っぽいじゃん。失敗しても、やったって思える」
僕は黙ってこでまりを抱き上げた。
猫は何も言わない。ただ、僕らの未来を見守るように瞬きをした。
こうして僕らは二案に絞った。
①古着屋――始めやすいが採算性に不安。
②スポーツカフェ――盛り上がるが許認可が大変そう。
どちらに転んでも、きっと簡単にはいかない。
でも、簡単じゃないからこそ、青春の物語になるのかもしれない。




