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第38話 可愛いは正義だそうです

「フォル!いつもの部屋借りるわよ」



メリッサさんがそう宣言して、私を拉致したのはお昼ご飯を食べ終わった直後。


この細い腕のどこにそんな力がと思うような力で私を抱え込んで客室へとずんずん歩いていく。



「その格好もかわいいけどね。せっかくだから、もっともっと可愛くしましょう」



あ、これ師匠が言ってた、きせかえ人形にされるパターンだ。



「待て、メリッサ!勝手に人の弟子を連れて行くな」


「ちょっとー男子ぃ。女の子の着替え覗こうとするなんてサイテー」


「そうじゃねぇ!そもそも着替えさせるな!」



駄目だ。

師匠が完全に負けている。

魔法で戦えば師匠が圧勝するんだろうけど、口では全然勝負になってない。



「ラズだって、可愛くおめかししたラピスちゃん見たいわよね?」


「ラピスちゃんは何もしなくても可愛いけど、おめかしした姿も見たいわねえ」



ラズロさんもメリッサさん陣営だ。

師匠を力で押さえ込むラズロさんと、私を強引に引っ張っていくメリッサさん。

勝敗は見えている。

私はおとなしく、客室へとドナドナされた。






「うーん。ラピスちゃんにはどういう系統が似合うかしらねぇ」



そう言いながら、メリッサさんは何もない空間から、どんどこ服を出していく。

これなんてどうかしら、と身体に当てられたのはゴスロリ系のメイド服だ。



「来たときのメイドさんの真似、すごく可愛かったわ」


「ソウデスカ」



ほら師匠。

やっぱりやめた方がよかったんですよ。

反対すればよかったと、心の中で反省する。



「うーん。やっぱりこっちかしら?」



ゴスロリを退けて新しく出されたのは、何というか、妖精系。

フワフワの透けた素材が何枚も重なっていて、随分軽やかな印象だ。



「これね、背中に羽もあるのよ」



あ、やっぱり妖精らしい。

24歳女に、妖精やらせるのはイタイと思う。

そもそも、私はコスプレイヤーでもないので、普通の服で十分なのだ。



「うん。これにしましょ」



どうやら、妖精で決まったようだ。

呆然としている間に、ササッと来ていたワンピースを脱がされる。



「ひぇっ」


「やーん。女同士だから大丈夫」



確かに女同士だけども!

うらやまけしからん体型の美女の前で下着姿を晒すのは、流石にメンタルにくる。



「あのっ、一人で着替えますので」


「だぁめ。着方もわからないでしょ?」



そう言いつつも、多分自分の手で着せたいだけなメリッサさんによって、あれよあれよと言う間に妖精ドレスを着せられる。



「ほら見て?可愛い!次は髪飾りね」



姿見に映った自分の姿に、ちょっと腰が引けた。

せめて十代の頃に着たかった。



「ラピスちゃ、かーいいです」



突然聞こえたアニメ声。

はっ、と見ると部屋の中にはいつの間にかアミュがいた。

隠れてなさいと言ったのに、どうやら出てきてしまったみたい。



「あらー!この子、フォルの使い魔?可愛いわねぇ。そうだわ、せっかくだからおそろいにしましょうか」



そう言って頭につけられたのは、うさ耳カチューシャ。

ネコ耳になったことはある。

なんならその時は尻尾だって生えていた。

でも、あれは師匠と二人だから出来たのであって、他の人にこんな姿見られるなんて、羞恥で死ねる。



「わぁ。ラピスちゃ、アミュといっしょ!」


「ね、可愛いわよね。さ、それじゃ、そろそろ男衆に披露しに行きましょうか」



せめて少しでも見えないようにと、アミュを腕にだいて、客室から出る。

客室前の廊下には、なぜか師匠とラズロさんが待機していた。


なんで!

せめて談話室で待っててくれれば!


泣きそうな私を前にして、固まっている師匠とラズロさん。

せめて、何か一言でも言ってほしい。

無言は辛い、辛すぎる。



「あら、ラピス様可愛くおなりになって。そんな潤んだ目で見つめられたら、主様はドンドン妄想の世界へ引っ張りこまれますわね」



ルージュさんが生温い目で言う。

その言葉に、ハッとしたように師匠が硬直を解いた。



「おつかれ。似合ってる」


「えっ!あ、えと……ありがとうございます?」


「メリッサにしてはいい仕事したな」



師匠はメリッサさんを褒めている。

師匠、私の味方じゃなかったのか。



「いらっしゃい、アタシのうさちゃん」



ラズロさんに手招きされるけど、私はプルプルと首を振った。



「図々しいぞ、ラズ。コイツは俺のだ」



師匠の言葉に赤くなる。



「何言ってんのよ、二人して。ラピスちゃんの居場所は私のそばに決まってんでしょ」



え?

そうなんですか?

私はもう、師匠の隣に帰りたい……いや、この格好で隣にいるのは恥ずかしい。

そうなるとやっぱりメリッサさんの隣か。



「こら、ラピス。お前何流されそうになってやがる」



師匠の言葉にハッとなったけど、それを遮るように、メリッサさんが言う。



「可愛い子は何してもいいのよ!可愛いは正義!女の子は世界の癒やし!」



可愛いは正義って本気で言う人初めて見た。



「見てご覧なさい。可愛い子が可愛い服を着て、可愛いウサギを抱いてるのよ。可愛いに可愛いを足した完成形!」



すいません、言っている意味がよくわからないです。

でも男性陣は何か思うところがあったのか、ぐっ、と詰まっている。


言い合っているうちに、気がつけば談話室のソファに、私はメリッサさんと座っていた。

なせか、頭を撫で撫でされている。

目の前に座る師匠の手が、なんかワキワキしてる。

ふと、斜め横に座ったラズロさんを見ると、ラズロさんも手をワキワキさせていた。



「可愛いわねぇ、ラピスちゃん。今日は妖精にしたから、明日はお姫様にしてみましょうか」


「いえ、もうこれ以上は」


「遠慮しなくていいのよ?このままウチの子になる?」


「それはダメだ」



すかさず師匠が言った。

良かった、やっぱり師匠は私の味方だ。

だいたい、師匠はメリッサさんから守ってくれるって言ってたのに。

じとっと師匠を見ると、微かに耳が赤くなった。

そんな師匠の後ろで、ルージュさんがあらあらウフフな顔をしている。



「ラピス。こっち来い」


「あい」



今だ、とメリッサさんの横から師匠の横へと移動した、はずが、なぜか師匠のお膝に横向きに座らされていた。


ん?

何かこれ、おかしくない?

なんで今抱っこなのかな?


師匠は、私のうさ耳が邪魔だったらしく、ポイッと放り投げた。

いや、邪魔なくらいなら抱っこしなければいいと思うの。



「どうせなら、猫のほうがいい」



師匠が耳元で囁く。

そういう問題かな?!

確かに、師匠は猫好きだけどね!



「この場ではネコになりませんよ」


「当たり前だ。他のやつに見せてたまるか」



二人でコソコソ話していたら、メリッサさんが唇を尖らせた。



「二人で内緒話なんてして、いやらしいわね。だいむい、フォルは昔からムッツリなんだから」


「おい待て。誰がムッツリだ」


「そうですよ。師匠はどちらかと言えばオープンスケベです」


「馬鹿弟子、黙れ」



フォローしたつもりなのに、師匠には怒られて、ラズロさんとメリッサさんは大爆笑している。



「私は、夜ご飯の準備してきますね」



居心地が悪くなったので、談話室から逃げ出した。

ルージュさんも一緒に来てくれて、妖精ドレスでも動きやすいように、エプロンをつけてくれる。



「これ、着替えてきちゃだめかな」


「すぐに別の服にお着替えになることになりますよ」


「だよね」



私は諦めてふぅっと息を吐いた。

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