84回目 その日あった事 6
「どうもこいつはなあ」
「そうなんだよねえ」
「ああ、分かってるよ」
そんな会話を親とご近所探索者がしている。
それを隣で否応なしに聞かされる。
連れて来られた探索者達の施設。
近所にあるそこに連れてこられて、何故か探索者集団に入る事にさせられた。
なんでそうなってんだ、と思ってる間に出て来たのが冒頭の言葉だ。
「こいつは頭で考えるからな」
「そうなんだよね。
もうちょっと根性を見せて欲しいんだけど」
「まあ、それなら俺らで面倒見るよ」
そんな声が続く。
それも前々からの事だが。
ヒロトシは近隣であまり受けがよくない。
それも前世の考えがあるからだろう。
度胸試しのような事を避けてるのだ。
だいたいが子供の遊びのようなものなのだが。
そういった事に興味を示さない。
中身が大人というのもあるのだろう。
そういった遊びにおもしろみを見いだせない。
それが周りの者達には面白くないようだった。
それが続くうちに、ヒロトシは度胸がないという評価がついてきた。
無意味なそういった事を避けてるだけなのだが。
どうもそれがこの世界の大人には不満なようだった。
子供同士の喧嘩も避けてるからなのかもしれない。
無駄な争いはしないようにしてるからだが。
おかげで近所のガキにも舐められる始末だ。
ヒロトシからすれば、なんであれほどけんかっ早いのか分からない。
それが面倒なので、一度本気でやった。
石を握って殴りつけ、目玉と金玉を狙って攻撃した。
前世で見ていたマッサージ用のツボ押し。
それも利用した。
そこで示されてるツボは、だいたいにおいて人体の弱い箇所である急所でもある。
そこを遠慮無く狙っていった。
そして、一切手加減はしなかった。
容赦もしなかった。
死ぬまでやるつもりでやった。
実際、殺してやるつもりだった。
そこまでやらねば、大人しくならない。
途中でやめればやり返してくる。
決してやり返してこないようにするつもりでやった。
そしたら、周りのガキも相手の加勢に回った。
もとよりヒロトシ一人に複数で絡んできたのだが。
それらも同じようにしていった。
目を潰し、急所を狙い、石で相手を殴りつけた。
生かして返すつもりはなかった。
生かしておいたら、逆恨みして後日殺しに来る。
前世の経験上、それが分かってるので、今日この日に叩き潰すつもりでやった。
最終的に、大人が出て来て何故か怒鳴られた。
普段、喧嘩を避けたら怒るくせにだ。
弱虫や臆病者と言ってケチをつけるのに。
それを徹底的にやりかえしたらこれである。
理解不能な思考だった。
そんなわけでヒロトシの将来を案じたのだろう。
気を利かせて探索者集団に口をきいたようだ。
(余計な事をしやがって)
そうとしか思えなかった。
だが、拒否しても無駄なのも分かってる。
一度決めたら絶対に考えを変えない。
そういう連中だ。
(しょうがねえ)
諦めてついていく事にした。
いずれどこかで袂を分かつつもりで。
それが穏便にいくかどうかは分からなかったが。




