82回目 その日あった事 4
聞いてて一番厄介だったのが、探索者集団だった。
ヒロトシが聞くかぎり、どこもロクデモナイものばかりだった。
だいたいが、個人の強さを誇るような話ばかり。
どこの集団の誰が強いだとか。
あいつはこんな事をやりとげたとか。
そういう話が多い。
武勇伝だからしょうがないのだろうが。
しかし、ヒロトシが欲しいのはそういう事ではない。
迷宮に入るにあたり、どういった準備をするのか。
どういった支援体制をとってるのか。
戦うにあたっての部隊編成などはどうなってるのか。
そういう事が聞きたかった。
だが、残念ながらそういう事を口にする者はいなかった。
企業秘密というわけではないらしい。
そういった事は稼ぎに関わってくるから教えないのだと思ったが。
話を聞くうちにそうではないのが分かって来た。
どうも、あまりそういう事を考えてないようなのだ。
だいたいの探索者が5人から10人程度で活動してる。
その為、それほど細かな組織作りなどが必要無い。
それもあるのだろう。
しかし、一定以上の規模の集団でもこれはあまり変わらない。
全員で一斉に殴りかかるというのがほとんどのようだった。
効果的な行動が出来るように人数を分ける。
必要な役割分担をする。
そういった事はあまり耳にしない。
実際にそうした事はしてないようだった。
ではどうやって戦ってるのかというと。
魔力を使って能力強化。
それで相手を蹴散らしていく。
それだけだ。
間違ってはいない。
だが、それだけというのは問題だろう。
力任せの運頼りになりかねない。
もしかしたら、本当に運任せなのかもしれない。
それはそれで危険に思えた。
運も必要だ。
それはヒロトシも認める。
どれほど努力しても、周囲の状況次第で失敗する事もある。
その逆にありえない成功がやってくる事もある。
偶然だろうが、そういう事も起こりうる。
だから運を否定するわけにはいかない。
だが、純然たる能力や実力。
これらを培ってないのもどうかと思う。
聞けば、探索者に求められるのは個人的な能力だ。
魔力で強化出来るものであるが、それれでも個人の力が必要とされている。
集団による効果的な行動などはあまり考えられてない。
かといった個人の能力がどれだけ重視されてるのか。
それも疑問だった。
確かに個人の能力が優先されている。
しかし、それをどうやって伸ばすのか。
どうやって成長させるのか。
教育方法はどうするのか。
そこについての言及がほとんどない。
どうもそういった事も考えてないらしい。
訓練らしい事もやってるようではあるが。
体力増強につとめるのがほとんどだ。
戦闘技術について余り深く考えられてないようだった。
基本、力任せに武器を振る。
それだけのようである。
怪物相手だと、それで十分なのかもしれない。
しかし、そんな戦い方で大丈夫なのか?
心配の方が大きくなる。
人数に任せて押し切り、敵を圧倒する。
使う魔力もギリギリに抑え、最低限の力で倒す。
それが基本のようだった。
ギリギリを見極めて戦う、それが格好いい。
そんな風潮があるようだ。
そこに危険を感じてしまう。
やるなら、一気に大きく魔力を使い、一気に倒した方が良いのではないか?
相手を問題無く倒せるくらいの魔力を使って。
それで一気に倒した方が効率は良くないか?
そう思えてならなかった。
消費も大きくなるが、確実に怪物を倒せる方がいい。
それによって得られる収益が、消耗分を上回るならば。
その方が安全に事を進められる。
そう考えるようにもなった。
わざわざ危険を冒す意味が分からない。
何よりここが不思議なのだが。
探索者の多くは、危険を自慢する傾向がある。
どれだけ危ない橋を渡ったか。
どれだけの危険をギリギリで回避したのか。
そんな事を自慢げに語る。
その部分には素直に呆れた。
顔には出さないよう注意したが。




