11回目 新人教育 3
そんな新人を見てヒロトシはため息を吐く。
呆れてるのだ。
(今までの連中は何をしてたんだか)
新人も場末の宿に来るまでは別の探索者集団に入っていたという。
だが、数回の探索で放り出されたとか。
もの覚えが悪いからというのがその理由だ。
本当に学習能力が欠如してるなら仕方が無い。
教えようにもどうにもならない。
それはヒロトシも認めている。
世の中には、どうしようもない事もあるのだ、様々な意味で。
だが、今回はそうではないようだ。
動きにもたつきはあるが、ものおぼえが悪いという程では無い。
最初は何度か手間取ったが、繰り返させるうちにやり方をおぼえていく。
同じ事を何度も繰り返したのもあるだろうが、手際も良くなっている。
特段優れてるとは言わない。
今までのヒロトシが見てきた者達の中でも、まあ平均的なところだ。
才能が有るか無いかで言えば、無い方だろう。
だが、無能というわけではない。
人並みだ。
ごく普通の人間のごく普通の能力。
見た所そのくらいの能力は持ってるように見える。
能力の優れた者から見れば劣ってるのだろうが。
それは求める水準が高いだけである。
ヒロトシからすれば、これといって劣ってるところは見えない。
優れたところは無いかもしれないが、それだけで十分だ。
むしろ、これ以上を求めてどうするのかと思ってしまう。
そりゃあ、迷宮探索は危険だ。
出来れば優れた人材を揃えたい。
そう願うのは、探索者ならば当然の思いだろう。
探索者集団を率いる者ならば、優秀で有能なものを抱えたい。
個別の探索者も、出来れば優れた者と肩を並べていたい。
その方が無理や負担が減るからだ。
だが、そういった者ばかりというわけではない。
優れた者はどうしたって少ない。
そんな少数だけを求めてもしょうがない。
(高望みしすぎだよな)
ヒロトシはそう思ってしまう。
優秀な人間が欲しいのは分かるが。
そんな者ばかりで固めようとしても無理や無駄が大きい。
それで損してるようにすら思える。
目の前にいる新人がそれを示している。
確かに彼は凡人だ。
そこらにいるその他大勢の一人でしかない。
だが、無能ではない。
性格も悪くはない。
教えた事を教えられた通りにやるだけの素直さもある。
時間はかかるが、育てていけばそれなりの戦力になるだろう。
そして、教育とは時間がかかるものだ。
その時間を惜しんで人材を揃えようとする。
そして、高い要求水準に届かない者を切り捨てる。
その結果として、この新人のような者が生まれてしまう。
時間をかければものになりそうな者が、意味も無く放逐される。
不可解極まりなかった。
そのせいで戦力になり得たかもしれない人間を手放してしまう。
そして、戦力の拡充も出来ないまま、今の水準に留まっていく。
才能や人材だけを求めて、結局伸び悩んでしまう。
そうして低水準に留まってる者達が多い。
そりゃそうなるとヒロトシは呆れてしまう。




