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嘘の道しるべ

―? ?―

「やぁ、巽」

「お前は……!」


 灰色の淀んだ空間、そこに僕と――十六夜がいた。


「フフ……」


 十六夜は、歪な笑みを浮かべる。骨だけで立っているのではないかと錯覚してしまうほどに細い体、不快感を感じる気味の悪い笑顔、耳に触るねっとりとした喋り方……感じるだけで思い出す、あの絶望にまみれた日々を。嘘に生きる十六夜の手によって、僕は嘘を重ねる日々を送ることとなった自身の情けなさを。


「どうして、どうしてお前がっ!」


 でも、僕の絶望の思い出を彩る十六夜は死んだ、この世にはいない。そのはずなのに。どうして、目の前に十六夜が立っているのか。


「どうして? じゃあ、逆に聞くが……ここが現実だと思うかい?」

「え?」


 僕の反応を見てか、十六夜はわざとらしくため息をついた。


「まったく……巽はどこまでいっても馬鹿だ。冷静に考えるということをしない。だから、いつまで経っても成長出来ないんだ。どうせ、考えても分からないだろうから教えてやろう。これは、お前の夢だ」

「夢……?」

「……フッ、そう夢だ。お前は、お前が作り上げたこの私と勝手に会話をしているに過ぎない。だというのに、滑稽だな。無意識に作り上げたその存在に、これが夢だと教えて貰ってそれを自覚するのだから」


 僕が作り上げた十六夜の像が僕の夢の中に存在していて、それと僕は喋っている。その存在に夢だと指摘されている。


「難しい話をするな……これが夢? だったら、現実はどこにある!?」

「うるさいなぁ、これだから馬鹿を相手にするのは嫌いなんだよ。夢って目覚める時が来たら、勝手に覚めるだろ。それまでの間、他愛もない世間話をしようと思っていたというのに……やれやれ」

「消えろ! 僕の夢の中に現れるな! 消えろっ!」


 僕は目を瞑り耳を塞いで、僕が無意識の内に勝手に作り上げた十六夜の姿を消そうとした。


「会話すら出来なくなったのか? まぁ、せいぜい足掻いてみるといい……無駄だが」


 しかし、僕のやり方が正しくないのか、足りないのか……十六夜の声は聞こえ続けた。


「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろぉぉ!」


 自己暗示でもするように、同じ言葉を繰り返せばいつか消えてくれるのではないかと勝手に思っていた。そもそも、僕の中で勝手に出来た像なのだ。僕が必死でやれば消えるのではないか、そんな淡い期待を抱いていた。


「どうだい? そろそろ、私の存在は消えたか? この声は聞こえていないか? アハハハハ!」


 十六夜は自身の声が聞こえていると分かって、楽しそうに笑いながらその質問を投げかけた。


「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ!」

「……アハハハハ。本当にお前は面白いな……流石は私の人形だ。さて、そろそろか……最後に伝えておこう。さっき私が言ったことは――全部嘘だ」

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