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優しく出来ない

―コットニー地区 夜中―

 僕は、やはり奇跡的に助かってしまった。牢屋が崩落した後、僕は下敷きになった。だが、そうなればもはや魔法を封じ込めることは出来ない。

 だから魔法を使って、僕を縛りつけていた縄を解いた。そして、僕を押し潰そうとしてた瓦礫の山も魔法を使って、吹き飛ばした。

 すぐ近くにはロイの姿もあった。が、彼のことはどうでも良かった。出来れば、死んでいて欲しかったが、最悪なことに息があった。ここで殺めるということも考えたが、それだけはどうしても出来なかった。僕の手で殺すというのは、どうしても怖くて。


 そして、自由になった僕は適当に辺りを散策していた。外で何が起こっていたのかを知る為に。本当に酷い有様で、煉瓦で作られていた街並みが嘘のように破壊されていた。沢山の人が死んでいた。その中には、僕の探していたカラスもいた。でも、彼らはとても悪であるようには見えなかった。

 複雑な気持ちを抱きながら歩き続けていると、ついに出会った。ロイが言っていた、二人の女性であろう者達に。


「……初めまして」


 フードを深く被り、真っ白な仮面をつけた少女が口を開いた。その声にも聞き覚えがあったし、そもそも匂いで初めてではないことくらい察していた。


「ここは、貴方のいるべき場所ではないわ。平和に暮らしたいでしょう。ここにいても、何もいいことなんてないわ」


 続いて、その隣に立つ長身で黒髪の真っ赤な仮面をつけた女性が言った。こちらは、完全に初めましてだ。この女性は仮面だけでなく、全体的に赤く血に染まっている。


「それを決めるのは僕です。いいことがあるだとかないだとか、いるべきだとかいないべきだとか……他人にどうこう言われる筋合いはありません。それに、僕が望むのは最終的な平和です。それなら、今はどうでもいい」


 血に汚れた女性に高圧的に言われたことで、僕の中で怯みが生まれていた。だから、それを隠すようにあえて少し強く言った。


「言うことが聞けないのね、お坊ちゃん」

「貴方達の命令なんて聞く価値ありません」

「……そう、残念だわ」


 真っ赤な女性からは、明確な怒りが伝わってきた。声を荒げる訳でもなく、暴れ回る訳でもない。静かな怒りだ。仮面をつけていても、僕には十分過ぎるくらいに伝わった。


「前言撤回よ、もう優しくしてあげる時間はない」


 彼女がそう言うと、隣に立つ少女は小さく頷く。


「僕は別に――」


 瞬間、女性の体から黒い羽が生えた。目の前にいるのは間違いなく鳥族のカラスだと認識した時には、僕はその羽に包まれていた。抵抗することも、力任せに暴れることも叶わず僕の視界は黒に染まった。

 そして、僕を襲ったのはその圧迫感だけではない。ここで何度も聞いたあの歌によって、引き起こされた苦痛よりもずっと酷い痛みと息苦しさを感じた。

 ただ、それを感じることが出来たのはほんの一瞬だった。


 僕は結局何も果たせず、何も出来ず、何も知れず――ただ意識を失った。

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