知るべきではない秘密
―クロエ コットニー地区 夜中―
私達は、瓦礫の道を周囲を警戒しながら歩み続けた。しかし、襲ってくる気配などどこにもなかった。あんなにうるさかったのが嘘のように静まり返り、聞こえるのは私達が歩く音だけだ。
「本当に皆殺しにしちゃったとか?」
「さぁ、あれはちょっとした脅し文句のつもりだったから。まぁ、あれだけの爆発……沢山の人が巻き込まれたでしょうね。怖くて逃げた奴もいるかもしれないし。私が殺したのは百七人だから……全滅には当然至っていない」
イザベラは、漆黒の髪をなびかせながら悠々と隣を歩く。
「え、覚えてるの?」
あれだけフル回転で、次から次へと奴らが襲ってくる中で正確に人数を把握するなんて、恐ろし過ぎる。しかも、辺りは爆発やらうるさかったし。冷静過ぎやしないだろうか。
「当然でしょ。男が九十六人で、女が十一人。大人が百人で、子供が七人。人間が八十三人で――」
「も、もういいよ! そ、それよりもう仮面外しちゃ駄目かな? 息苦しい……フードも暑苦しい……」
「駄目よ。敵の陣地にいる以上、絶対駄目」
「だよね~早く巽君見つからないかなぁ」
「建物内にいたと考えるのが妥当……だとすれば、最悪瓦礫の下に……もしくは既に連れ出されたか」
イザベラの発言に、私はますます絶望的な気分になった。なのに、イザベラは通常運転。仮面の下からも、動揺などの気持ちは伝わってこない。
(嘘でしょ……私のせいなのは分かってるけど……)
「えー!? この中から見つけるのー!? で、いなかったらもう最悪じゃん」
「……かと思ったけど、もうその心配はないみたいよ」
彼女は、私に前を見るよう促す。まさか、と思いつつも視線を向けると……そこには巽君が立っていた。
「ほ、ほんとだ」
右目が黄色で、左目は黒色。至って普通の状態。私を無理矢理眠らせた時と同じ目の色。いや、そんなのとをした時点で普通とは言い難いような気もするが、とにかく彼は通常状態である。
私達の前で直立不動、怯える様子もなくただこちらを見据えている。一体、何を考えているのか。というか、かなり怪我をしているようだ。至る所からの出血が伺える。
「で、どうするの?」
私は、イザベラの耳元でそう囁く。一応、この仮面をつけた状態では私は初めて会ったことになる。要するに「初めまして」って言った方が正しい。
でも、もしかしたら彼のことだ。とっくに、私の正体は見抜いているかもしれない。異様に優れると聞いたあのお鼻なら。
「……ここにいてはいけないわ、お家に帰らせる。なるべく、優しく」
「了解」
言葉で説得させることは出来るだろうか。恐らく、彼は自らの意思でここに来た。そして、何らかの理由で彼の抱える秘密がバレて、さらわれた。
もし、彼がしぶとい根性の持ち主であれば、今がチャンスと色々捜索をし始める可能性がある。その前に説得だ。ここにある秘密など、彼は知るべきではないのだから。




