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僕は大人

―レストラン 夕方―

 店の奥、そこに厨房はある。昼時や夕飯時は、ここに人でそして、厨房にはトーマスさんとその妻のデボラさんがいた。二人は暇つぶしの為か楽しそうに談笑していた。


「あ、あの……」


 僕が声をかけると、二人は一斉にこちらを見た。


「ん? どうした? また皿でも割ったか?」


 最初にトーマスさんが言った。


「違います!」


(またって……事実だけど)


「おや、だったら注文かい?」


 デボラさんが、続いてそう質問する。


「そうです!」

「ハッハッハッハ! そんな怒った顔するんじゃねぇよ。おうおう、注文言ってみ」


 トーマスさんは豪快に笑うと、僕に近付いて頭をわしゃわしゃと撫でた。本当はこうされるのは、子供扱いされているみたいで嫌だ。だけど、トーマスさんには今までの恩があるから何とも言えずにいる。


「……踊る海老のパスタのパセリ抜きです。それと、オレンジジュース」

「フフ、可愛い注文だねぇ。さて、じゃあ作ろうか。あんた」


 デボラさんはクスッと笑うと、テーブルに置かれていたエプロンを腰に巻いた。


「さっさと作って、ちゃっちゃとお客さんに料理を提供してやらぁ」


 トーマスさんは僕から離れると、鍋を取り出した。


「では、僕は失礼します。また、後で取りに来ます」

「お~う! 三十分後くらいに頼むなぁ」

「はい」


 僕は時計を確認する。時刻は、ちょうど午後三時。おやつの時間だ。こんな時間に時計を見ると、お腹が空いてくる。午後十二時辺りとか午後七時辺りにうっかり時計を見てしまうと、同じような現象が起こる。

 今は、もう少しで上がれるからいいけれど、忙しいその時間に上がることは出来ない。空腹に耐えながら、忙しさに追われ続けるのだ。


(仕事が終わったら、今日はしっかりと食べないと。色々調べるし。力を使わざるを得ないこともあるかもしれない)


 狭い廊下を歩きながら、僕はこれからの予定を組み立てる。


(監視の目を欺く方法……あの力を使うなら、奴らがお酒を飲んでいるかどうかってことになるよね。実際問題……一番近くで僕を監視しているのは、あの子。不安定な土台の上では、彼の力は残念ながら役に立たない。なら、実力でやるしかない、か)


 初めてここに来た本当の目的の為の行動。何よりも大切なことになる。これで結果を掴めなければ、ここに来た意味などなくなる。何なら、学校を卒業するよりも大事だ。

 禁忌の技術について知ること、そして、それを僕の国に運んだカラスという鳥族の正体を知ること、それが僕が王という身分を一時的に放棄してまで英国に訪れた理由。学校など、そのおまけだ。

 魔法について専門的に、そして詳しく研究しているこの学校なら、魔法を元に作られている禁忌の技術のこともさらに知れるのではないかと思ったから通っているに過ぎない。


(……普段よく嗅ぐあの匂いと、あの子の匂いは同じだった。つまりは……そういうことだよね。今回で確信を持てた。わざわざ、どうして僕の目の前に……まぁどうだっていいか。一人は確実に消せる。他にもいるかもしれないから、油断は出来ないけど)


 僕は魔法を使い、空間からある物が入った袋を取り出した。この魔法は、特定の物体を透明化させることが出来る。

 そして、ポケットなどに忍ばせるよりもずっと安全に持ち運ぶことが可能だ。継続的に魔力を消費する為、本当に大事な物か、どうしても見つかりたくない物に使うのが常識的である。

 そして、この袋に入っているのは――。


「僕は大人なんだよ……」


 僕は優しい人間ではない。ただの屑なんだ。ただの人間だったものだ。それでも生きているのは、このペンダントを託し、そして生きることを望んでくれた小鳥がいたから。彼女の命と想いを、無駄にしたくはないのだ。

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