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秋の小麦の刈り入れが無事に終わり冬になった。
この村が属する領地では小麦生産量の半分を税金として収めなければならないそうです。
私が来る2年前までは、生活するのでギリギリであまり余裕がなかったそうです。今は生産量が増えたので生活に余裕が生まれたそうです。
今、私は1週間ぶりに村のアリスさんの家に遊びに行く途中だ。
服装はお気に入りの白のワンピースに、これまたお気に入りのポシェットを肩にかけている。頭の植物も冬なので少なめで、緑色の髪の毛から生える葉っぱが少々に左右にグーレ。さらにキノコカチューシャと八重咲きの少し大き目な白い花が1輪。ちょこんと咲いている。
首には魔物の私の為におばあちゃんが用意してくれた村の魔物よけの
結界の効果を無効化する蒼い綺麗な石のついたペンダントがかかっている。
村の女の子数名から「キノコカチューシャが欲しい」と言われたのだが、育てるのが難しく作ることができなかった。
なので、代わりに秋の花や木の実を使ったアクセサリーを作ったところ、女の子たちからの依頼が殺到した。
1人1人オーダーメイドで丁寧に作ったのでみんな喜んでいた。
村に着いた。魔物対策に柵で囲ってあるので門から入る。入った瞬間、何だかどんよりとしたよくない空気が村じゅうに漂っている感じがした。
おかしなことに外に誰も出ていない。
村の異様な雰囲気に不安を感じ急いでアリスさんの家に向かう。
「アリスさーん。遊びに来ました〜」
アリスさんの家のドアを叩くが返事がない。
「アリスさーん、イルクさーん。いませんかー?」
再びドアを叩くが全く反応がない。
おかしい、こんなに騒がしくしていれば近所の人が家から出てきてもいいのに誰も出てこない。
こんなこと今まで1度もなかった。
勝手だけどドアを開け家の中に入る。
「お邪魔しまーす」
シーンと静かな家の中を歩き、リビングに向かう。
するとそこにはイルクさんが倒れていた。
「イルクさん!大丈夫ですか!?」
「ああ、セレナ、ちゃん。この村は、危険だ。
早く、逃げて ごほっごほっ」
「一体村で何があったんですか?」
「え、疫病だ」
「なんだ、それならなんとかなりますよ」
「は?」
今回作るのはどんな致死性の高い毒でも不治の病でも立ち所に直す『万能薬』。
必要な材料は頭で栽培できるので早速生やす。生えてきた材料の植物を摘み取りコップに入れる。
キョロキョロと周りを見回しナイフを見つけるとブスリと腕に刺す。そして、出てきた透明で緑色な液体をコップの8分目まで入れ、お腹にぎゅっと力を入れて、ぱぁと輝けば完成!
「イルクさん。飲んでください」
倒れているイルクさんの上半身を起こし口元にコップを持って行きゆっくりと飲ませる。
効果はすぐに現れた。イルクさんの顔色がみるみる良くなり、咳も完全に止まった。
「これは、凄い。体が軽くなった。ありがとう。
じゃない。セレナちゃん、血、血? 止めないと!」
「あ、あははは。忘れてました」
「いや、忘れちゃダメでしょ!」
「でも、ほっといてもすぐに塞がるんですよ。
ほら、こんな風に!」
私は自慢げに塞がっていく傷を見せる。
イルクさんはその様子を見て驚いたが、すぐに何かを思い出したようで慌て始めた。
「その薬、もう一度作ってもらえないか?
アリス達にも飲ませたいんだ」
「アリスさんも病気にかかったんですか!?
わかりました。すぐ作ります」
再び材料をコップの中に入れて腕をナイフでブスリ。
うう、痛い。でも、アリスさんのためガマン、ガマン。
出来上がった万能薬をイルクさんに渡す。
イルクさんは、万能薬を受け取ると大急ぎで奥の方へ向かっていった。
イルクさんは病気で倒れたアリスさんと双子の看病をしていたら、突然病気をを発症して動けなくなったそうだ。
そこにちょうど良く私が来たそうだ。
しばらくすると、奥からアリスさんとイルクさんがやってきた。
「セレナちゃん。ありがとう。おかげで子供達も元気になったわ」
「本当にありがとう」
「いえいえ、元気になってよかったです。
ところで、村の様子が変だったんですけどもしかして
みんな病気で動けなくなってるんですか?」
「そうなんだ。5日前から急に1人が倒れて
それからは、あっという間に広がったんだ」
深刻な表情のイルクさんとアリスさん。
なんか、1週間ぶりに村に遊びに来たらとんでもない事態になっていた。どうりで誰も外を出歩いていなかったのか。
「じゃあ私、万能薬配ってきます!」
「「え!」」
呆気にとられる2人を置いて隣の家に向かう。
「お邪魔します!」
バンッと扉を開け家の中に入る。
中には惨状が広がっていた。
友達の女の子の身体中に小さな吹き出物ができていて、所々潰れて膿と血が出ていた。さらに、ひゅうひゅうと隙間風が漏れるような呼吸でとても辛そうだ。
近くに彼女の両親もいたが父親の症状が特にひどく皮膚が一部変色しており、刺激臭がした。
私は急いで万能薬を作る。
やっぱり痛い。でも泣かないもん。
万能薬を友達の女の子に飲ませると、まず初めに呼吸が落ち着き、次に皮膚の醜い出来物がみるみる無くなり膿んで出血していた傷も治った。
よかった。女の子にあんな出来物あったら悲しすぎる。
一番ひどい父親の方も変色していたのが嘘のようにツヤツヤモチモチのお肌になった。何故。
まあ、治ったので良しとしよう。次に行こう。
その後、次々に万能薬を作っては飲ませ何故かお肌がツヤツヤモチモチになる男性村人達に精神力をガリガリ削られながらも、とうとう最後の病人まで辿り付くことができた。
「よし。これでもう大丈夫。 あ!」
最後の病人に万能薬を飲ませ終わり立ち上がろうとしたら目の前の景色がグニャ〜と歪み、意識が遠のいていく。
「セレナ・・・ん、しっか・・・。たい・・・・・・・・・」
(あ、もうだめ・・・)
誰かが私のことを読んんでいる声が聞こえたが
そこで私の意識はぷっつりと途切れた。
ーーーーーーーーーー
「ふみゅ?」
上半身を起こし、あたりを見回す。
どうやら布団に寝かされていたようである。頭がぼーっとしていて現状がよくわからない。
あ、アリスさんだ。
「セレナちゃん!?
お母さん、セレナちゃんが目を覚ました!」
パタパタと慌ただしい音がしておばあちゃんがやってきた。と思ったら抱きつかれた。
「もう、2日も目を覚まさなくて心配したんだよ。
水持ってきたから飲みなさい」
「うみゅ」
「あ、だめだわこの子。まだ半分寝てる」
「?」
「ほら、とりあえず水を飲みなさい」
口元に運ばれたコップから水を飲む。
ああ、美味しい。体に染み渡る。だんだん意識がはっきりしてきた。
「!」
「その様子だと完全に目が覚めたようだね。
もう1度言うけど、あなたは2日も目を覚まさなかったのよ。
心配したんだから」
「えー! 私そんなに寝てたの?って、それどころじゃない。
村の人はどうなったの?」
「慌てなくてもあなたのおかげで全員治ったわ」
「よかった〜」
本当に良かった。
「でも、それであなたが貧血になって倒れたら本末転倒よ」
「ごめんなさい。でも、ああでもしないとまずかったんだもん」
「はいはい。次は気をつけなさい」
「はーい」
きゅるるるる
お腹が盛大になった。は、恥ずかしい。
「ちょ、ちょっと日光浴びてくる」
「いってらっしゃい」
ニコニコ微笑んでいるおばあちゃんに見送られる。
玄関の扉を開けいざ、外に。
ノオオオオオオ!
なんと、外は雨が降っていた。私はその場に崩れ落ちる。おばあちゃんのあの笑顔、知ってて教えなかったな。
きゅるるるる!
くそう。こうなったら頭のグーレを食べてやり過ごそう。
ああ、甘くて美味しい。
きゅるるるる!!
うん、知ってたよ? グーレは所詮私の体の一部だから食べても全然お腹は満たされないって知ってたよ?
別にあまりの空腹で忘れてた訳じゃないよ。
結局、私は翌日の午後に日光浴するまで空腹のお腹を抱えて、音がなるたんびに顔が真っ赤になった。