表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
obsession  作者: 礼央
第三章 目覚めたモノ
45/45

始まりの地へ

早朝から家を出て、移動時間と待ち時間を六時間以上の道なりを進む。

電車に、新幹線に、電車に、バス。何度も乗り継いで蒼間の本拠地へ向かう。

奈良の県境に位置するらしいその地は駅を降りてバスの終点に存在するそうだ。

辺鄙にも程があると疲労を隠せない顔で内心毒づいた。

バスに揺られて一時間。朝からの移動時間による疲れで睡眠を貪っていたのだが、疲労は取れなかった。

長時間揺られている所為か、幸希にも疲れの色が見え、彼もバスの中では目を閉じていた。

木と、山に覆われた、信号も無いような田舎道の途中で終点を迎えたバスを降りる。

快適な冷房の空間によって冷やされた体は、眩しい日差しと焼けつくような暑さへの急激な温度変化によって若干の眩暈を覚える。

山々に囲まれているためか、周囲は蝉の声が大音量で木霊している。

頭に響き渡る鳴き声は真の疲れ切った神経を逆なでしていた。

吹き出す汗を拭いながら、重たい荷物を引きずるように道なりを歩み始めた幸希へと続く。

少し歩いたところで一軒の家が目に入る。道路に沿ってぽつんと存在しているそれに僅かな希望を抱く。

敷地はとても広いようだが、家はごくごく当たり前の田舎暮らしには丁度良い大きさ。

幸希はその家の敷地へと足を踏み入れる。

しかし家の玄関へは向かわず、建物を通りすぎ、敷地の奥へと突き進む。

そこで漸く声を発する。

「―――この家じゃないの?」

此処であって欲しいとも希望があった。

「あの家は一応蒼間の所有物だな。カモフラージュとして老夫婦が住んでる。それに蒼間の総本家があのサイズじゃ俺らは生活できねぇよ」

おどけた様子の幸希に、得心する。この家の方が幸希の実家より狭い。

付いて行けば何れは判る。と、そのまま敷地の中を奥へ奥へと歩む。道路側から見た時は、建物を盾にして見えなかったが、とても奥深い敷地なのだと感じる。

この敷地内には車も行き来するらしく、足元にはタイヤの跡が残されている。結構な行き来があるのだろう。人気のない場所ではあるが、こんな場所に蒼間の本拠地が存在するとは到底思えなかった。

森の奥へ迷い込む感覚を感じながらも疑問符だけを胸に舗装のされていない土道を歩く。


「此処だ」


五十メートル程進んだ所で幸希の足が止まる。

まだ、道には先があった。そちらに集中しながら進んでいたので周りの景色に気が付かなかった。

自らも足を止め、周囲に意識を向けると、道の左側に建築物があった。

石造りの鳥居。

不自然にも車一台がやっと通る様な小さな道の隅にぽつんと建てられたその鳥居の奥には何かを祀っているのであろう小さな祠が建っていた。神社や仏閣などで良く見られる大きさの、威厳ある鳥居に比べて目の前の祠はとても不自然に思える。山を削って造られたのであろうか、祠の奥は行き止まりで周囲は木々が生い茂っているが、人が通れるような道らしき道は無い。

「祠しかないけど・・・」

此処の一体何処に総本家へと通じる道が在るのだろうか。

「嗚呼、相模にはそう見えるのか」

まるで自分が見えているものとは違うとでも言うような言い回しに引っかかりを感じる。

「どういう事?」

「まあ付いてくれば判るって」

そういった幸希は有無を言わさず真の手首を掴んで鳥居へと進んだ。掴まれた腕は炎天下の所為で汗ばんでおり、不快な気持ちを覚えたが、かと言って手を引っ込めるような事はせず、自分の手を引く幸希の力強さもあってか為されるがままに足を進める。


鳥居を抜けると、音が止んだ。

バスを降りてから耳元で鳴かれてたかのように響き渡り続けていた鬱陶しい程の蝉の声が、ぴたりと止んだのだ。

本当に異世界に迷い込んだのだと。

先ほどまで目の前に見えていた小さな祠は姿を消し、現れたのは木々に囲まれ、先の見えない程長く、山頂まで通じた石造りの階段だった。

「何・・・?これ・・・」

夢を見ているのかと思ったし、錯覚かとも思った。しかし自分の腕を掴んでいる幸希の手は温もり以上の体温を感じるし、もう一つの手には肩に掛けた荷物の重さを感じる。

幸希は掴んでいた腕を放すと此方を振り返った。

「これは結界だ」

「結界・・・?」

真の呟きに頷く。

「此処の山一帯が蒼間の所有物なんだ。そこに総本家が存在してる。一般人に知られる訳にはいかないからな、山一帯に結界を張っているんだ。蒼間以外の人間は立ち入る事が出来ない。

さっき相模が言った通り、他の人間が立ち入っても祠にしか行きつかない」

「だから腕を掴んだんだ」

先ほどの幸希の行動の理由に合点がいく。自分ひとりで鳥居をくぐればそのまま祠に行きつく。幸希は蒼間の人間だから最初から今目の前にある階段の光景が見えていたのだろう。

「そういう事。空間自体が違うんだ。だから他所の人間には絶対に気付かれない。もし総本家に大量の爆弾が落とされてもな。

あと、此処に入った途端蝉の声が止んだだろ?これはな、前にっつてもだいぶ昔だが、女の高名な術者が修行に来た際鳴り響く蝉の声に発狂してな、元々大層な虫嫌いだったらしいから虫と言う虫を結界の外へ追いやったんだ。だから今じゃ虫だけじゃなくこの結界内じゃ人間以外生き物は生息していないんだ」

終始、幸希は笑みを見せながら面白おかしく始めに真が感じた疑問の答えを教えてくれた。

だが幸希は肝心な事を喪失している。結界に足を踏み入れた時から鬱々とした気分が晴れないまま真は訴えた。

「そして・・・この階段を昇るの・・・?」

真の発言により事の重大さを思いだした幸希は顔色を変えた。

朝から長時間の移動を繰り返し、既に心身ともに疲れ切った真には目の前に猛々しく聳える終わりの見えない階段を昇り切る自信はなかった。この気候も相俟って。

他に手段は無いのかと願いを込めて幸希に視線を送るが幸希からは情け容赦ない言葉が返ってきた。

「わりぃ、実は俺も此処を使った事はないんだ。普段なら総本家には何人か住み込んでるんだ。だから駅まで車が迎えに来てそれで総本家まで向かうんだ。遠回りにはなるけどな、断然楽だ。

今日も頼んではみたんだけどな、運転できる人間が出て行ったみたいでな・・・」

言葉を濁す幸希だが、真は意味を悟った。つまりは自分の所為なのだと。幸希の両親と同じく真の存在を恐れて総本家から去ったのだと。

寄りによって此処でその弊害が如実に表れるとは思いもみなかった。自分だけでなく、自分の存在の所為で再び幸希にまで迷惑をかけたのだ。

「四谷の時は迎えが来たじゃん・・・」

申し訳なさそうにしている幸希を責める気にはならないが、せめてこの程度の泣き言くらいは口にしてもいいだろう。精神的にも言わずにはいれなかった。

「あれは蒼間の人間じゃなくて寺の人間なんだ。神主始め寺関係の者はうちでは雇われって感じで蒼間とは一線を引いてるんだ」

納得しながらも絶望し、諦めた。

眩暈がおきそうなほど長く続く階段を見つめた。この苦難を乗り切らなければ先へは進めない。引き返すことも出来ないのだから。


鍛練には向いているのかもしれない―――。

前向きに捉えてはいるものの、このような状態で思考が麻痺しているのだとも納得してしまう。

どれほど登ったのか判らない。何時間も歩いた気もするし、疲れている所為で時間の感覚も鈍くなっているのかもしれない。

しかし全然進んでいないのは確かである。

重たい足を引きずるようにして、ほとんど無心に登り続けてはいるのだが、目の前にはまだ段差が永遠と連なっている。暑さ思考麻痺しているというのは理解しているが、これ以上何かを考えてしまうと貧血でも起こして倒れてしまいそうなので足だけに意識を集中させて懸命に動かしているのである。

日差しは強いものの木々が生い茂っており、丁度段差が影になって汗は止め処なくかくものの、それなりの涼しい風を与えてくれる。

何度も憩んでは登り、呼吸を整えては登り、余りにも真がへばっていた所為か途中からは真の所持していた荷物を幸希が持ち歩く羽目になってしまった。

勿論、申し出を受けた時は断りもしたものの俺が持った方が多少は早く着くとの説得力に負けたのであった。

真程息は乱れていないが、若干の顔色に疲れを見せている幸希に真自身情けなさで精一杯であった。

体力の差を思い知らされたのもあるが、幸希が荷物を持った事で重りが減り僅かばかり速度が上がったのは事実であった。


2人が階段を登りきった時には日が沈みかけていた。

一体あの階段は何段の段差があったのだろうか。気にはなったが考えたくもなかった。脚は重しを付けたようにずっしりと一歩一歩気力を注ぐし、猫背になって登っていたせいか首から腰にかけても痛い。とにかく一刻も早く横になりたかったのだが、階段を登り切って終了という訳ではない。ここまでは過程に過ぎないのだから。

やっとの思いで階段を上り終えて頂上の周囲を一通り眺めてみると、一面通路であるかのようにのように石畳が引かれていた。階段を登り終えた此方側にも石鳥居がそびえている。どうも正面玄関はここではないらしく、広々とした建築物は視界に入ってはいるが、気力か削げ落ちた真に周囲に目を配るほど余裕はなく、まだ進まなくてはならないらしい事に気落ちしていた。建築物に時代を感じながらも幸希の後につき、最後の力を振り絞りながらも足を進める。

倦怠感も疲労感も限界を迎えていたが、気持ちだけは緊張により高ぶっていた。

真は意識を幸希の背中に向けながら歩いている。疲れているのもあるが、言葉は一切発しない。これから出会うのは遥鳴も、幸希も一目置くらしい蒼間の中心的人物なのだから。

足にもいっそう重みが増すし、立ち止まってしまいたい、やっぱり帰ってしまいたい。そんな事を内心では泣き言を言っている。

会って、どんなことを言えばいいのだろう。また何かされるのだろうか――――。

悶々としているなか、いつの間にか玄関付近まで辿り着いていたらしい。


「よく来たな」


気配なく掛けられた声に真はびくっと全身を跳ねさせた。驚きに高まった心拍数を整えながら声のする方へ視線を向けると老人が立っていた。

「おう、久しぶり」

いつの間にか立っていた老人に驚く様子もなく幸希は掛けられた声に応える。真が疲れていた余り、見落としていただけなのだろうか。

「大変だっただろう。すまんかったな、誰も迎い手がいなくてな」

「まあ仕方ないさ。初めて階段使ったけど結構きついんだな、修行には持って来いだ。

予定よりだいぶ遅くなったけどな。

こいつが相模真だ」

苦笑いを向けた幸希は藤真に真を紹介し、真に向き合う。

「相模、こいつが前に言ってた藤真玄道だ」

紹介を受け、和装の藤真と言う老人に会釈してみせる。

実際にしているのであろうか、値踏みするように全身を見られていることに若干の着心地の悪さも感じたが、顎に手を当てたままの藤真は応える。

「ほう、芯の通った目をしておるな…」

独り言のようではあるが批判的な見解ではないらしい。

「こんな辺境の地までよく来たな。何もないが、景観だけは誇れる場所だ、ゆっくりして行きなさい」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ