第38話 魔女を狩る者
「………うん?」
エドガーは最近見慣れている天井で目が覚めた。その天井が宿屋の自分が泊っている部屋だとすぐに気づく。恐る恐る起き上がるが、頭の痛みはない。誰かがここに運んでくれて、治してくれたのだろうか。そう思っていると、聞いたことの無い声が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
声のした方を見ると、ウェーブのかかった金髪の少女がいた。誰だとなるが、エドガーはすぐに思い出す。そうだ、あのよくわからない奴らに追われていた奴だ。
「あっ、大丈夫です。君が運んでくれたの?」
「いや………、そういうわけではないんです」
「?」
「僕が見つけたんだ」
不思議そうにエドガーがしていると、アーツが部屋に入って来た。その後ろからは水に浸っているタオルを持ちながら、ルーシーが続いた。
「そうそう。アーツ君がエドガーが倒れているって言うから、行ってみたんですよ。そしたら、エドガーさんが血を流しながら倒れていて。びっくりしましたよー、何で任務じゃない時に怪我するんですか」
「すみません………。あっ、路地裏に男の人いませんでしたか?」
「いいえ? エドガーさんだけでしたよ。もしや、その人たちに?」
「まぁ、そうなんです………」
それは申し訳ないことをしたなと事情を聞いたエドガーは思う。おそらく、ルーシーが宿屋のこの部屋に運んだ後、医者でも呼んでくれたのだろう。色々と迷惑をかけてしまった。エドガーがそう思っていると、金髪の少女が目を伏せながらエドガーに謝る。
「あの………、すみません。巻き込んでしまって」
「いいえ。俺が勝手に入ったもんですから。ところで、何故ここに?」
「それは、あの男の子が。えっと………、名前は」
「アーツ」
「アーツ君が来たの」
エドガーが3人から事情を聞いてみると、宿屋にエドガーを運んだ後、アーツが単身で金髪の少女を探して見つけたそうだ。なんでも、エドガーを見つける前に路地裏から飛び出した少女を見たから、もしかしたらなんか関係あるだろうと。
アーツは金髪の少女が何者かに追われていることを知り、じゃあ宿屋に来ないと行ったそうだ。
「そういえば、あの男たち何者なんです?」
「その…………」
「言いたくなければ、大丈夫ですよ」
どうしようかと金髪の少女は迷っている。当たり前かとエドガーは思う。勝手に入った部外者に言うのは躊躇うよなと。そう思いながら、金髪の少女が何か喋るのを待っていた。
「魔女を狩る者って知ってますか?」
「あの……テロ組織の?」
「そうです」
魔女を狩る者というのは、魔術師や世界を滅ぼそうとしているテロ組織だ。その前身は第二次人神戦争の敵、神族勢力である。魔術師から迫害を受けた魔力なしと呼ばれる魔力を持っていない人々や一部の魔力持ちや魔術師が集まり出来た勢力だ。彼らは、かつて世界を侵略した異世界の勢力、神族に仲間にし、魔術師だけではなく全世界を敵に回した。それが、第二次人神戦争である。
第二次人神戦争がアーサー・ウェストンによって終結した後、神族はあまりこの世界に手を出さなくなった。この世界にいた神族勢力はアーサー・ウェストンによって全て殺された。しかし、神族の本拠地にわたっていた一部の子孫がおり、その人々が編成したのが、魔女を狩る者である。現在は、何度か半壊しながらもしぶとく世界の壊滅を願っているテロ組織となった。
「もしかして、あの人たち…………」
「はい、魔女を狩る者です」
「マジかよ………」
エドガーは思わず、そんな声が洩れた。もちろん、エドガーも魔女を狩る者という組織については知っていた。リネスからも存在は聞かされていたし、養成学校でも何度も学んだ。だが、ここでその言葉が出てくるとは思わなかった。あの男たちの正体は、せいぜい盗賊か何かだろうくらいしか思っていなかったのだ。
「でも、何でそんな奴らに追われていたんです?」
だからこそ、エドガーは不思議でならない。この金髪の少女は何で魔女を狩る者に追われているのだろうと。あの組織は普通、人生で関わるかどうかわからない。少なくとも、いかにも普通そうな少女が関わるような組織ではないのだ。
「えっと、私、ちょっとこの国では有名な人の娘なんです」
「そうなんですか?」
「マリア・グレテール。父はこの国の王宮魔術師をしております」
「ガバス様の事ですか?」
「そうです」
エドガーは名前は聞いたことはない。しかし、王宮魔術師という職業から相当偉い人である事は察せられた。王宮魔術師というのは、王国の中でも一番強い魔術師が付ける職業だ。王宮魔術師は高い発言権を持ち、中には国内で2番目の権力を持っている者すらいる。エドガー自身、この国の出身ではないのでマリアの父親がどのくらい偉いのかは分からないが、びっくりしているルーシーの反応を見る限り、かなり偉いのだろう。
「だいたい一か月前の事でしょうか。友人たちと遊んで帰っていた所を急に誰かに襲われていたのです。気づいたら、どこかの地下に閉じ込められていて………」
「誘拐ですか……」
おそらく、狙いはマリアの父親の方だろう。マリアは父親が何をしているかは知らなくても、その娘というだけで狙われやすいのだ。
「そうです。私、そこでしばらくの間はじっとしていたんです。何かされるのが怖くて……」
「なら、どうして今になって出たんです?」
「それは恐ろしい事を聞いてしまって………」
「恐ろしい事?」
「はい……。たぶん、聞いてしまったら、皆様方も驚かれるような事を……」
その事を思い出したのか、マリアは手が震えている。一体何を聞いたんだろう。何を聞いたら、震えるようになるんだ。エドガーはそう思いながら、マリアの話を聞く事にした。
「その後、誰かに言わないといけないと思って、何とか抜け出したんです。それで、私が監禁されていた所を見たんです」
「どこだったんですか?」
「………旧王宮ってご存じでしょうか? ここら辺から、30分くらいはかかる」
「はい」
「そこにある別館です」
エドガーはそういわれて思い出す。魔道師に招待されて旧王宮を訪れた際、確かにもう1つ建物があった。じゃあ、あそこにいたのか。そう考えると、エドガーは急いで起き上がろうとする。それは、旧王宮にいる魔道師様やエティアさんにも伝えたほうがいいだろうと。
「すみません、ちょっと行ってきます」
「えっ、駄目ですよ、エドガーさん! 貴方、まだ身体動かしたら……」
「でも、あの別館に閉じ込められているのなら、旧王宮にいる魔道師様に伝えたほうがいいでしょう?」
「それはそうだけど……」
「駄目です!」
急いでドアの方へ行こうと起き上がったエドガーを止めるように、マリアが叫んだ。その声にびっくりして、エドガーがマリアを見る。ルーシーとアーツもマリアの声に反応するように、そちらの方を見た。
「何でですか?」
「それは本当に駄目です……!」
「でも、魔道師様なら何とか……」
「その人が魔女の狩る者をこの国に引き入れたんです……!」




