第39話 それは真実か
「えっ」
マリアの言葉に最初に反応したのはアーツだった。マリアの言葉に驚いたのか、それともそんな言葉が出るとは思っていなかったのか、口をかなり開けたままにしている。まぁ、その反応もしょうがないとエドガーは思う。実際、そんなこと予想もしていなかったのだから。
「魔道師が?」
「はい……」
アーツは本当かどうか確かめるようにそう聞く。が、変わらずマリアは小さく頷いた。
「信じたくないかもしれませんが、確かに聞いたんです……!」
「すみません、頭ごなしに否定してるわけではないんです」
呆然としているようにも、驚いているようにも見えるアーツを庇うようにルーシーが間に入った。そして、いつもより引きつった笑みを浮かべているように、エドガーには見えた。
「この子、魔法国から来たので信じられないんだと思います。ほら、魔道師様って魔法国の指導者でしかも、この世界の英雄的存在でしょう? だからいきなり言われて困惑しているんです」
「すみません……」
「いえいえいえいえっ! 貴方が悪いとかそういうわけでは決してね? ありませんから。ただ、何でそうなったのか。そこら辺の詳しい事情をもう少しお聞きしたいな~と」
「わっ、わかりました」
やっぱり、ルーシーもかなり動揺しているらしい。ただ、その様子をマリアは特に気にする様子もなく、喋りだす。
「たまたま出されたご飯を食べていると、ドア越しから男の人の声が聞こえて来たのです。その人はこれからこの国でやることがあるって言ったんです。その辺はすみません聞こえなかったんですが……」
「それで?」
「ただ、その後はハッキリ聞こえたんです。彼らはこう言っていました。俺らにはあの魔道師様がいる。だから、安心だって。………本当なんです!」
信じてほしい。そう懇願するようにマリアはエドガー達3人を見て来た。エドガーは正直な事を言えば、かなり混乱していた。直接話しているエドガーにとっては、魔道師がそういうことをするような人間にも思えないのだ。
エドガーはちらりとルーシーとアーツを見た。ルーシーは引きつったように笑みを浮かべており、何を考えているかは分からない。アーツはかなり驚いているように、硬直していた。
「落ち着いてください」
自分に対しても、マリアに対しても言うようにエドガーは呟く。ルーシーとアーツもかなり驚いているのだろう。だから、ここは自分が。そうエドガーは思う。とりあえず、一旦落ち着き、エドガーは再び口を開いた。
「ほかに何か聞いたことはありますか? 魔道師様が何かするとか、ほかに共犯者がいるとか」
エドガーは実のところ、マリアの話が本当かどうか信用しきれていない。嘘を言っているとは思いたくもないし、聞き間違いという可能性もある。だから、本当かどうか確かめるために詳しく聞く事にした。
「あっ、あります!」
「本当ですか?」
「えっと、その後の話になるんですけど………」
「大丈夫です。ゆっくりでいいので、なるべく正確に話してくれませんか?」
真偽を確かめるため。エドガーはマリアと視線を合わせる。実際に魔道師様が魔女を狩る者を招き入れたのか確かめるために、しっかりと話を聞いた。
「あのその続きになるんですけど。男の人がよく魔道師様が協力してくれたなって不思議そうにして、その後に女の人の声が聞こえたんです」
「女の人? 何か特徴とかありますか。声以外に何か見たり……」
「今回は出来ました。小さい穴からなので、鮮明ではないですが……」
「それでも大丈夫です」
エドガーは優しく頷く。それを見て、安心したのかマリアはゆっくりと話し始めた。
「えっと……、何と言うか透き通った声の人でした。見た目は純白の髪で女性にしては背が高かったなと。肌は白くて、人間的には思えないくらい美しい人だなと……」
「それってさ」
思い出しながら言うマリアをルーシーが止める。そして、ちょっと待ってねと言い残し、どこかに消えた。そして、すぐにルーシーは部屋に戻って来た。手にはやや分厚めの本を持っている。見ると歴史書と書かれていた。
ルーシーはページを最後まで開き、ある絵をマリアを見せる。
「君が見た人ってこれか?」
有無言わせない笑みを作っているルーシーにマリアはやや怯えながらも頷いた。急にどうしたんだとエドガーは、ルーシーの変わりように驚く。
「彼女の名前はエティア、エティア・ブラウンって言ってね。魔法国の学院の教員兼歴史学者、それと治癒魔術師としても活躍してるね。でも、何でそんな彼女がそんなところに?」
「しっ、知りませんよ……」
「ルーシー、一回落ち着こう。まず、マリアの話を聞いてからにしよう。まだ、続きがあるんだろう?」
「はっ、はい」
圧を感じさせる笑みを浮かべているルーシーをエドガーが窘める。救われたようにホッとしているマリア。それに対し、一旦了承したのか圧を感じさせる笑みでルーシーは黙った。
「ごめん、その前に聞くけど君が見た女の人はエティアさんでいいんだね?」
「はっ、はい」
エドガーの質問にマリアは頷く。その光景を見て、エドガーは昨日会ったエティアを思い浮かべた。エドガーはエティアとせいぜい数時間話した程度だ。エティアがどんな性格をしているか詳しくは分からない。裏の顔があると言われても、納得できなくもない。でも、優しかったエティアさんがそんな事をするだろうかともエドガーは思う。
とはいえ、実際にエティアさんもが魔女を狩る者を魔道師様と協力して招いた可能性もある。だから、しっかりと真偽を確かめよう。そう思い、エドガーはマリアの話を聞く事にした。
「エティアさんは何か言ってたの?」
「えっと……、魔道師様は私が説得したって言ったんです。で、男の人が魔道師様をどうやって?って聞いて、そしたら女の人は私が……、えっと、これどんな感じで言えばいいんです?」
マリアはどうしようかと戸惑いながらも、ちらっとアーツの方を見る。その感じでエドガーは何となく察した。とりあえず、アーツに耳を塞いでも貰おうとした瞬間、
「ヤッたんでしょう。エティアさんと魔道師様が」
バッサリと、まるで吐き捨てるようにルーシーがそう言った。もう少し、オブラートに出来ないのかよとエドガーは内心思う。
「えっ」
一方のアーツはさらに驚いたように声を上げた。顔を赤くしているなどの様子はない。が、まるでどうしてそうなるの?と言わんばかりに、キョトンとしているようにも見えた。
「えっと……、まっ、まぁそう……です」
どうオブラートに包もうか考えていたマリアは、あまりの直球的表現にややドン引きしていた。そんなのを気にも留めないルーシーは相も変わらず有無言わせない笑みで続きを促す。
「で、続き。それで、エティアさんは何と?」
「あっ、はい。それで男の人達も納得したようで……、祭り前日に決行なと……」
「その内容は何か聞いていませんか?」
「いえ……、すみません」
「分かった、ありがとうね」
エドガーは一旦落ち着かせるために、部屋を出ることにした。部屋の中にいる3人に話し、ドアを開けた。これからどうしよう。そう考えながら、エドガーは階段を下りていく。




