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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
かつて大聖女と呼ばれた少年編
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ユーフェミアの戦い②

 眩い光に包まれる戦場。私が大規模魔法を発動させた瞬間、七色の虹のような光のカーテンが戦場を横に駆け抜け、魔物と皇国軍の両陣営を真っ二つに分断した。広域結界の魔法が成功したのだ。


 安心してほっと息を吐き出した瞬間、魔力の枯渇しかけた私は軽い目まいを起こし、少しふらついてしまう。片膝をつく寸前でなんとか体勢を整えると、ゆっくりと深い呼吸を繰り返す。身体の奥の方から満ちてくる精霊達の魔力を確認すると、すかさず自分自身に回復魔法をかけて元の状態に戻した。


 我ながら無茶をしているなとは思う。しかし、それでもまだ十分に戦える自信が、確信がある。これも全て完全に覚醒した精霊の愛し子の力によるものだろう。

 私は自身の調子を確認するように、その場で軽くステップを踏むと、そのまま大きく跳躍して、物見の塔の上から飛び降りる。浮遊の風魔法で調整しながらゆっくりと着地したところで、ラルゴ達が駆け寄って来た。


「皇女殿下!」

「ユーフェミア殿下、良くぞご無事で!」

「ラルゴ、この結界は長くは持ちません。今のうちに軍を立て直して反撃の準備を」

「御意!」


 私の指示を受け、即座に動き出す軍の首脳陣。実際の所、軍の決定権を持たない私の命令に従う必要は無いのだが、負傷兵を癒やしたり、広域結界を張ったりと、聖女が戦場に与える影響力は無視出来るものではない。まあラルゴの事だから、諸々をきちんと捌いてくれるだろう。


「殿下、それでクリスティーナ様は?」


 私がいて、クリスがいない。気にするなと言う方が無理がある。


「クリスはまだよ。私の聖女熱を抑える為にずいぶん無理をさせちゃったから」

「左様でございますか。しかし殿下が来られただけでも百人力にございます。すぐにでも彼奴らを蹴散らして見せましょう」


 本当は治癒特化の私よりも、攻撃特化のクリスの方を頼りにしたい所だろう。しかし、それを微塵も感じさせないラルゴの豪快な大言壮語っぷりに思わず笑ってしまう。


「名誉将軍でなくて申し訳ないけど、クリスに治癒魔法が全く使えない訳ではないように、私も攻撃魔法が使えない訳ではないわ」

「やはり戦陣に立たれるおつもりですな?」

「無論です。あの子が起きる前に全て終わらせて、名誉将軍だなんて、恥ずかしくて言えないようにしてやるわ!」

「はっはっは、あの方ですと逆に喜ばれそうですな」


 それについては私も全く同感だが、結果としてクリスが傷つかなければ、それでいい。


「ラルゴ、反撃をするに当たって、専門家の意見はどうかしら?」

「そうですな、まず目下の脅威は上級の魔物2体と、奴の頭部から分裂した黒い個体数百体です」

「私も見たわ。あの黒い気持ち悪い奴ね」


 魔物は人型に近いほど強いとされているが、のっぺりと表情の無い顔に、柔らかく骨格を感じさせない動き。見た目が人に近い分よけい不気味さが増し、もはや嫌悪感しかない。


「あの黒い魔物は、上級の魔物自らが生み出した個体です。あまり考えたくはありませんが、まだ増える可能性も十分あります」

「では、先に叩くべきは上級の魔物だと?」

「左様にございます。なれば総力をあげて2体の内、片方だけでも倒しますかな」

「いえ、2体同時に当たりましょう。片方は私一人で十分だわ」

「お、お一人ですと!?」


 治癒魔法特化の私がたった一人で、上級の魔物と対峙しようと言うのだ。さすがのラルゴも声を荒げる。


「安心して、クリスの体力バカみたいに、真正面から剣で斬りかかろうってわけじゃないから。離れた所からネチネチと魔法攻撃してやるだけよ」

「とは申しましても、御身をお守りする為に、是非とも何人かは…、おっ、そうだ、適任がおりますぞ。バーンズ! バーンズはおるかぁ!?」 


 おもむろにラルゴが人だかりに声を張り上げる。そしてその反応は直ぐに返ってきた。


「元帥閣下、お呼びですか?」

 

 ややあって現れたのは、皇国軍の誇る最精鋭、第一軍を預かるバーンズ将軍だ。歴戦の将軍は一人の若い騎士を連れている。その騎士は―――。


「バーンズ、おうっ、ギルバートも一緒とは都合が良い」


 バーンズ将軍の隣に控えている若い騎士は、魔闘技大会でクリスと対戦したギルバートだった。彼も私の存在に気が付いたようで。


「こ、これはユーフェミア殿下!」

「ギルバートでしたね。あなたはまだ見習いで、予備役ではなかったかしら?」

「はっ! この度の皇都の危機に対して、人材確保のため、自分のような見習いにもお声がかかった次第であります!」

「そうですか、ご苦労さまです」

「あ、ありがとうございます! これもひとえにユーフェミア殿下のおんためでございますれば、何のこれしきであります!」


 あ、あれ? なんか印象が違うくないかこいつ。クリスとはタメで話してたよね?


「あ、あの、あなたとは学院の先輩後輩です。そのように畏まらずとも…」

「とんでもない! 敬愛する皇女殿下に対して、そのような態度は取れないのであります!」

「お前、皇女殿下のファンだったのか」


 呆れ顔でバーンズ将軍が声をかける。私のファン? そう言えば確かに顔が赤いけど。


「ば、バラさんで下さいよ! そう言う将軍こそ、クリスの熱烈ファンのくせに」

「お、おまっ! なんて事を!」


 途端に慌てるバーンズ将軍。こちらも顔を赤くして、さっきまでの貫禄が微塵も感じられない。


「お前には分からんのだ。あのお方の可憐さ、お美しさ、そして偉大さが!」

「いやぁ、あいつはいい奴だけどなんか男っぽいし、俺はやっぱり、こう、か弱い、守ってあげたくなるような女性がぁ……」


 うっとりとお互いの推しについて語るマッチョが二人。どうしよう。クリスに伝えられない案件が増えてしまったような気がする。


「お前ら、いい加減にせんか! 話が進まんであろう! バーンズ! お前まで何たることだ!」

「す、すみません! 元帥!」

「申し訳無いであります!」


 とりあえず落ち着いた(?)らしい。神妙な顔を並べた二人に、ラルゴ元帥が用件を告げる。


「早速だがバーンズ、その問題児を殿下の護衛に付ける。他にも何人か見繕ってくれ」

「はっ! っと!? こ、こいつをですか!?」

「そうだ。そいつをだ。腕は立つだろう? さっきの様子を見る限り、殿下への忠誠心も問題が無さそうだ」

「別の問題がありそうですが、まあ確かに……。ギルバート、分かったか?」


 話しの流れを聞いていた筈のギルバートが、プルプルと身体を震わせている。ああ、このパターンか。早めに諦めた私は、そっと両耳をふさいだ。


「うおおおおおぉぉぉ―――っ!! こっ、光栄の至り! このギルバート、必ずや皇女殿下をお守り申し上げるぞおおぉ―――っ!」

「わかった! わかったから、大声を止めんかっ!」


 興奮冷めやらぬ脳筋の雄叫びを、呆れ顔のラルゴ元帥がたしなめる。人選を誤ったのでは?


「ま、まあ、殿下もご存知の通り腕は立ちます。それに単独行動を好んで、他との連携が苦手でしてな、むしろ護衛任務の方が向いていると判断した次第です」

「……そうですね。戦線に影響がないのであれば、私も異存はありません」


 隊長級の実力がありながら部隊を率いていないため、身軽で扱いやすいのだろう。それに、ここで断ると後で面倒くさい事になりそうだ。


「えっと、ギルバート、よろしくお願いします」

「はっ! では今すぐにでも騎士の誓いを」

「いりませんっ!!」


 喜色満面で剣を差し出してくるギルバートを、私は一蹴した。

 自らの主君に剣を捧げて、絶対の忠誠を誓う騎士の誓い。ただし男性から女性へのそれは、プロポーズにも取られかねない乙女ゲームの定番イベントである。


「ええっ!? 今まで誰にも捧げた事がないのに!」

「知らないわよそんなの! 私は名誉将軍の剣しか受け取りません! そもそも、今そんな事をやっている場合ですか!?」

「そんなあ~」


 ただでさえひっ迫しているこの状況で、何故こんなくだらない事でもたつかなくてはいけないのか?


「チェンジよ、ラルゴ!」

「かしこまりました」

「わああ―――っ!、うそうそ、冗談であります! 護衛任務、死ぬ気でがんばります!――っ痛ぇ!?」


 見事に決まった痛恨の一撃! バーンズ将軍の繰り出したげんこつは、火が出る程の勢いそのままに、ギルバートの頭に炸裂した。あまりの痛みにのたうち回るギルバート。そのあまりの情けない姿に私は思わず笑ってしまう。

 思ったよりも癖が強く扱いづらそうな男だが、これはこれで頼もしいのかもしれない。私は、まだ少し呆気に取られているギルバートに向かうと、頭越しに言い放つ。


「目が覚めたようなら、さっさと行動をしなさい。この状況下でそれだけ自然体でいられるあなたの胆力にこそ期待します。さあ、反撃を開始しますよ!」

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