準備するべきこと
「します! 絶対参加します!」
慈善活動への参加を決めた私達は、一緒に手伝ってくれる面々を揃えるため、早速プリシラとセシリアに声をかけた。
前のめりの勢いで参加を希望しているのはプリシラである。
「慈善活動のバザーですか? 我が伯爵領でも何度かやっていますわ。私、手伝った事がありますの。ええ、もちろん参加いたします」
セシリアもあっさりと快諾してくれる。さすがの委員長気質、ぜひ眼鏡をかけていただきたい。
「二人ともありがとう。とても助かるわ。私達だけでは心細かったの」
予想はしていた事だが、やはり賛同してもらえると嬉しい。私とユフィは頷き合って喜んだ。
「でも今の聖女フィーバーの皇都で、お二人がそろって人前に出たら大騒ぎになりませんか?」
セシリアがもっともな不安材料を口にするが、これには私も考えがある。
「その事だけど、少し聞いてもらえるかしら」
ばか正直にそのまま参加して、聖女教のパフォーマンスに協力するつもりは毛頭無い。私はあくまでも一学生として、このイベントを楽しむつもりだ。
私がちょっとした企みを披露すると、みんな笑いながら賛同してくれた。
その後、慈善活動への参加を学院長にも伝えるため、私とユフィは再び学院長室を訪れた。もちろん、生徒会メンバーのいないタイミングを見計らってである。
アポ無しで突然押しかけた私達を笑顔で迎える学院長。
「ほう、出来るだけ生徒会の面々とは活動をしたくないと?」
「はい、大変失礼な事とは承知しているのですが、私、殿方が苦手なのです。少し怖いと言いましょうか…、それを克服するためにこそ、剣術なども嗜んでいるのですが」
これは昨日ユフィと相談して決めた言い訳だ。実際、男子生徒から逃げ回っている普段の生活を見れば、十分に説得力がある。
「なるほどなるほど、そのような理由がありましたか。綺麗な花に群がる輩は多い。苦労も多そうですな。よろしい、そのように手配致しましょう」
「感謝いたします。私、同年代の殿方は苦手ですが、学院長先生はとても素敵ですね」
「ほう、これはうれしい。帰ったら一番に妻に自慢させてもらいましょう」
私のリップサービスに茶目っ気たっぷりの学院長。実のところこの学院長は相当な権力者でもある。数多くの要人を各国に排出してきた手腕と実績は決して侮ることは出来ない。元は伯爵家の次男と言う事だが、彼の影響力は家督を継いだ長男を遥かに上回るともっぱらの評判だ。ちなみに私的には、この落ち着いた思慮深さとユーモア溢れる人柄に普通に好感を持っているし、尊敬もしている。
これで、攻略対象者との接触を避ける算段はついた。あと気になるのは当日の警備だろうか。せっかく名誉将軍の肩書きがあるのだから、この際使わせてもらおう。
女子寮の裏地、人目に付かない場所に来た私とユフィの目の前に、二人の騎士が控えている。
「将軍閣下、お呼びにより参上いたしました」
目の前の騎士の一人が口にした通り、彼らを呼んだのは他ならぬ私だ。それにしても…。
「ご苦労様です。すでに聞き及んでいるかもしれませんが、この度、私達は孤児院で行われるバザーのお手伝いをする事になりました。私の動かせる範囲で構いませんので、当日の警備を軍にお願いしたいのです」
「閣下に動かせる範囲と申しましても、知っての通り、閣下は全軍の指揮権をお持ちです。お望みとあれば全軍がこぞって馳せ参じましょう」
そう言えばそんな話だった。皇王陛下のお遊びが過ぎる。
「…………私にクーデターでも起こさせるつもりですか? 二個小隊もあれば十分です」
「二個小隊? 聖女お二人の警護にそれでは不十分です。せめて中隊をお付け下さい」
小隊約30人規模に対して、中隊はざっと300人規模の大部隊になってしまう。対して孤児院は子供に職員を合わせても50人に満たないと聞いているから明らかに多い。
「数百人規模の兵が動けば、孤児院近辺を封鎖するようなものす。バザーどころの騒ぎではないでしょう。必要なだけの兵で十分です」
「そうですか…、致し方ありませんな」
何故そんなに残念そうなのか?
「それで、どうして彼がいるのですか?」
私が先ほどから気になっているのは、黙ったまま隣に控えている若い騎士、ケヴィン・ウォーロックの事だった。
「おお、紹介が遅れました。常々探していたのですが、彼が学院における閣下専属の護衛騎士になります」
なんですと?
「私に護衛は不要だと、何度も言っていたではありませんか!」
少し感情的になった私が、思わず声を荒げる。目の前の騎士は少したじろぎながらも話を続ける。
「め、名誉将軍足るお方に護衛を付けない訳にはまいりません。また、閣下は全軍の将にあらせられます。有事の際に閣下の意思を速やかに伝達するためにも、付き人は必ず付けて頂きます」
「元帥閣下がいるでしょう!?」
確かに皇国五軍全ての指揮統率を認めるとあったが、私は言わばお飾りのNo.2だ。私の上にれっきとした最高司令官ラルゴ・マルクス元帥がいるはず!
「その元帥閣下のご命令でもあります」
ラルゴ元帥のバカっ!!
「…元帥閣下には、後で申し伝える事があると言っておいて下さい」
「お、俺、…いや、私がご不満なら、別の者を…」
ここで初めてケヴィンが口を開いた。
「私は、おま…、いや、あなたに借りがある。それを返せると思い志願した。だが迷惑になるのは不本意だ。今直ぐにでも辞めろと命じてくれればいい」
おおよそケヴィンらしくない物言いに私は耳を疑う。
まさかルーンの光で心まで浄化されたのか?
「………あなた、変わりましたね」
「……あれだけの失態をしたからな。後悔もしたし、変わりもする」
口調こそぶっきらぼうだが、彼なりの苦悩が見て取れる。
「閣下と同じ学院の生徒であり、ある程度腕も立つ、更には閣下との面識もある。この条件に合致する者は、この者以外いませんでした。護衛は不要との閣下のお気持ちはわかりますが、いざという時の伝達係ともお思い下されば、決して閣下の不利には働かぬはず。どうかご一考下さい」
俺様キャラで、散々やらかして来たこの男がこうも下手に出て来ると、さすがに気の毒に思えて来る。
「女子寮や、淑女科の教室には入って来れませんよ。それで役目は果たせるのですか?」
実際に入って来られても困るのだが、聞くべき所は聞いておこう。
「致し方ありません。当初は先の条件で女性騎士を探していたのですが、閣下の護衛が務まる程に腕の立つ者がいませんでした。取り急ぎこの者には、閣下にお渡しした物と同じ魔道通話の魔術具を与えてあります。緊急の折には男子禁制エリアへの立ち入りも許可されていますので…」
「私が許可しませんっ!」
またもや大声を上げた私。こほんと咳払いをしてから話に戻る。
「おおかた皇王陛下か、ラルゴ元帥からのゴリ押しで得た許可でしょうが、許可は必要な時に私自らが出します。いいですか? ぜ―――ったいに勝手に立ち入ってはいけませんよ!」
私の前のめりな命令に、呆気に取られた二人の騎士であったが、徐々にその顔が喜色に包まれる。
「か、閣下、と言うことは…」
「ええ、護衛騎士の件は、認めて差し上げます」
「ちよ、ちょっとクリス!? 大丈夫なの!?」
事の成り行きを見守っていたユフィだが、ここでたまらず口を挟んだ。
「女子の区画に勝手に立ち入らないのであれば良いと思うの。学院内に軍とのパイプ役がいれば便利なのは確かだし」
それに下手に条件に合致する女性騎士がいたとすると、それはそれで面倒そうだ。
「いいですか、あくまで試用期間です。少しでもトラブルを起こすようなら、即刻クビですからね!」
「………か、感謝する…」
素直に感情を表現するのが苦手なのだろう。大きく間を空けた後、ケヴィンは絞り出すように呟いた。
自分でもなんとなくやらかしてしまったと思わぬでもないが、こうして因縁浅からぬこの男は私の護衛騎士となった。隣の腐女子がボソッと”ケヴィンは受けもありね”と独り言を言っているが、賢明な私は聞かなかったふりをする。
本来予想していた着地点と大きく差異が生じたため、執筆ペースが著しくダウンしています。
待ってくださっている方、本当にごめんなさい。 .·´¯`(>▂<)´¯`·.
気長に見守っていただけると助かります。




