参加する?
その夜、突然持ち上がった慈善活動とやらの話をするために、私とユフィは寝室で話し合うことにした。
すでに二人とも寝間着には着替えていて、言ってしまえば何時でも寝てしまえる状態。何となく女子会めいて、緊張感はあまりないのだがそれは気にしない。(そもそも私は女子ではない)
「お嬢様方、就寝前なので少しは控えてください。寝る前の飲食は美容の天敵ですからね」
「ありがとうマチルダ。気をつけるわ」
寝室に備え付けのミニテーブルに、お茶と軽食の準備をしたマチルダが部屋を出ていく。
ふとユフィを見ると、何故か怪訝な顔でマチルダを視線で追っている。なんでだ?
「ユフィ、どうかした?」
ユフィは自分の胸を両手で押さえてぽつりとつぶやく。
「クリスは大きい胸が好き」
「ぶっ!? 」
せっかく口に含んだお茶を少しだけ吹いてしまった。いくらユフィの前だからと言って、淑女としては信じがたい失態である。私は慌ててハンカチで口元を拭き取り、すました顔で取り繕う。
「クリスはおっぱいが好き」
「だからぁ!?」
続けざまの問題発言に、私はたまらずつっこんだ。
「さ、さっきから何なの? む、胸とか関係ないし!」
「昼間のあれ、プリシラに密着されて、鼻の下伸ばして、デレデレしてぇ…」
「鼻の下なんか伸ばしていないし! デレデレもしてない!」
思わず大声で抗議する私。遮音の結界張っておいて良かったよ。
「私、そんなに胸無いし… プリシラも、マチルダも、考えてみればメアリだって私より大きいのに…」
さっきマチルダを見ていたのはそういう事か。なんとなく気の抜けた私は思わずこぼす。
「な、なんだ、そんな事気にしてたの?」
「そんな事ぉ!? 今、そんな事って言った!?」
「えっ、だ、だって…」
しまった、何か地雷を踏んだらしい。たまらず立ち上がったユフィが、猛抗議の構えを見せる。
「クリスってば、見てくれ乙女なのに、女心が全然わかってないんだから!」
「なんかごめんなさい!」
反射的に謝ってしまう私。
「取りあえず謝ればいいと思ってる」
「…………」
どうしよう、ユフィが手強い。
私が困り果ててしまっていると、ユフィは両手の指先で自分の胸を軽く押さえると、恥ずかしげに聞いてきた。
「私の胸……好き?」
「――――っ!」
な、なんだろう、この可愛らしい生き物は!
正直に言ってしまえば、顔や胸どころか髪の毛の一本だって大好きである。でもこの場合、どう答えれば良いのだろう?
ちなみにユフィの胸は決して小さくはない。多少控えめではあるかもしれないがしっかりとした凹凸があるし、割りと身長もあるので理想的なモデル体型と言えるだろう。私のバッタもんの胸など比べるべくもない。
私が何も言えずにユフィの胸を見つめていると、彼女は私を軽くにらんで呟いた。
「………エッチ」
「っ~~~~!」
瞬間、顔が沸騰するかと思った。ユフィの顔も赤いけど、私の顔は完熟のトマトのそれよりも赤くなった事だろう。
「ぷっ、ふふふ…」
そんな私の様子を見て可笑しくなったのか、ユフィが小声で笑い始めた。
このところ私が困るのを見て機嫌を直す事が多い気がする。ユフィの悪い癖だ。正直、勘弁してほしい。
「ふう…、ごめんごめん、困ってる顔も可愛くて、つい…」
「もうー、許してくれるのはうれしいけど、あんまりからかわないでよね。こういうの慣れてないんだから」
前世を含めて女性経験の無かった私には、こう言うじゃれ合いの経験があまりないのだ。
なんかむず痒い…。
ひとしきりわちゃわちゃした私達は、改めて今日の事を話し合う。
「慈善活動、孤児院のバザーって言ってたかな? ゲームのシナリオにはあったの?」
「あるわよ、どの学年時に発生するかはランダムだったけど、よりにもよってあの男の在籍時に発生するなんて不運よね」
「あの男って、お兄さんでしょ?」
「あいつは敵よ、敵! 昼間だってクリスの事いやらしい目で舐めまわして…、あーもう、腹立つぅー!」
舐めまわしていたかどうかは疑問だが、視線は常に感じていた。出来れば一生関わり合いたくないものである。
「それで、このイベントは危険なものなの?」
正直しばらく魔物との戦いはごめんこうむりたい。毎度死にかけては、事態は一層ややこしくなるからだ。
「いたって安全なシナリオのはずよ。本来、このゲームは危険なものの方が珍しいんだから」
「そうは思えないんだけど…」
「そもそもがあの上級の魔物、あんなラスボスクラスの奴なんて、どのルートでも一度も出て来なかったわ」
「出たじゃない?」
「だからおかしいのよ、この世界は」
類時点が多いだけの別の世界か、あるいはシナリオが分岐したパラレルワールドか? 今後の予測が立てづらいのはどちらも同じではあるが。
「それで、どうするつもり?」
「昼間の話だと、聖女二人の参加が無理なら、一人だけでもって話になるでしょう? ユフィは私を庇って自分は出ると言うだろうから、それは嫌かな。それなら私も参加したい」
「特に危険がないのであれば、それでもいいけど、問題なのは攻略対象者達よ」
普通に考えても、慈善活動に危険などあるわけがない。警戒するべきは参加者達だ。
「私も強くなったから、必要以上に警戒しなくてもいいと思う。今なら4人同時に戦っても勝てると思うし」
「まあ、そもそもが戦う前提で考えている事がおかしいんだけどね」
私達は前世の記憶があるため、どうしてもゲームのシナリオを警戒せざるを得ない。
主人公が攻略対象者達に次々に手籠めにされる鬼畜シナリオの事を思えば、これくらいは当然だろう。なにせBLルートはバッドエンド、攻略対象者達から見れば不本意極まりないとしてもだ。
ただ実際は、かなり警戒が過ぎるのではとも思う。
例えば、アレクシス王太子などはかなりいい奴だ。出会った頃こそ、甘ったれな俺様野郎だったが、当時7歳の私に注意されるや直ぐに考えを改めた。きちんと他人の意見を聞く事が出来、それを改める柔軟性は、施政者として得難い資質だと言える。
私に関する空回りだけはいただけないが、好きな相手に一途だと思えば、これも微笑ましいものだ。(相手が悪かったんだよ。相手が)
昼間の振る舞いからは思慮深ささえ感じさせたし、私が男に戻れたら、いや今のままでも良い友人になれると思っている。
「とにかく攻略対象者達とは二人きりにならない。それにさえ気を付ければ参加してもいいわ」
「ほんと? 実は少しだけ興味があったの。バザーとか、お料理も出来そうだし」
焼き菓子を可愛らしくラッピングして、バザーの品として売るのは楽しそうだ。少しだけど売り子の衣装にも興味がある。
「…………クリスの女子力って、変な所に極振りされてるわよね」
「そうかしら?」
「そうなのよ!」
自分ではよくわからない。だから目が離せないのだと、ユフィが愚痴っている。
考えてみれば、私がゲームのイベントとおぼしきものに参加するのは、これが初めてかもしれない。魔闘技大会なんか、本来は客席で見ていた筈のイベントだ。
「自主参加が出来るなら、プリシラにも声をかけた方がいいわね」
「女子の比率を上げるのは賛成よ。その分、男子と二人きりになる機会も減るでしょうから。それならセシリアにも声をかけましょう。彼女はこういう事に向いているわ」
最近なにかと縁のあるセシリア・ダールトン伯爵令嬢。委員長気質の彼女は、二つ返事で引き受けてくれることだろう。私は外れようもない予想をしながらお茶の残りを口に含んだ。
煮詰まっています。




