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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
セントラルの二人の聖女編
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学院長室にて

出来心で始めてしまったこのお話、まさかここまで続くとは… (びっくり)

 私はこれまで、ありとあらゆる方法で攻略対象者達から逃げ回ってきた。


 魂胆見え見えのお茶会のお誘いや、ど定番の新入生歓迎パーティー、それらのイベントフラグは片っ端からスルーしたし、攻略対象者との遭遇率の高い場所、時計塔下のベンチ、女神像の噴水、旧校舎の花園と言ったいかにもな場所には決して近付かなかった。


 更に私は淑女科であることを理由に、男子の立ち入らない教室ばかりを好んで利用して、徹底的に男子生徒との接触を避けた。その結果、純情だの奥ゆかしいだの、私に対する誤解はエスカレートし、理想の花嫁だのと言われる始末である。


 それがここに来てまさかのエンカウント。  

 この学院長室で攻略対象者4人と鉢合わせるなど、いったい誰が予想出来たであろうか。


 しかし、ここで取り乱してはいけない。私は内心の動揺をおくびにも出さずに、この場の上位者である学院長に対し完璧なカーテシーで挨拶をする。勿論、隣のユフィも同様だ。


「これはこれは、聖女様方、ようこそお出で下さいました」


 人の良さそうな笑みを浮かべながら、学院長が話しかける。しかし、これはいただけない。


「学院長先生、いかに皇族や聖女であっても、学院の生徒である以上、学び、教えを受ける身です。普通の生徒と同様に扱って下さい」


 私とユフィを目上として扱おうとする学院長に、特別扱いを止めてもらえるようにお願いした。それを聞いた学院長は興味深げに目を細めると。


「ふむ、これは失礼をした。さすが若いのに大した見識だ。ではその様に話させてもらおう」

「恐れ入ります」


 小娘からの指摘に動ずる事なく、実に落ち着いた対応である。学院長を任されるだけあって、なかなかの人格者のようだ。問題は―――


「ラピス公爵令嬢」


 4人の攻略対象者の中で、私が最も警戒しているキスリング皇太子。その彼が声をかけてきた。


「先日の陛下との謁見では、話す機会が得られませんでしたが、思いがけずこの場でお会い出来ましたことを嬉しく思います」


 私と学院長はまだ会話の途中だ。にもかかわらずここで声をかけてくるなんて…

 私は少しユフィと視線を交わすと、ため息を飲み込みつつ挨拶を返す。


「恐れ入ります皇太子殿下、皇国の若き太陽にお目にかかれ、大変光栄に存じます」


 挨拶は交わしたが、このまま皇太子との雑談に興じるのは御免こうむりたい。私が困惑した顔を学院長に向けると、直ぐに察してくれたようで、軽く手を叩いて皆の注目を集める。


「早速ですが、皆さんに集まってもらった本題をお話ししましょう。席を用意してありますので、まずは座っていただきたい」


 学院長の機転で助かったが、どうやら立ち話で簡単に済む話では無いらしい。私達はそれぞれ席に案内されそこに座る。

 全員が席に着き、お茶の配られたのを見計らって学院長が口を開いた。


「話と言うのは、我が学院で毎年行っている慈善活動の事でしてな」

「慈善活動?」


 前世ではボランティアだったりと、馴染み深い単語だ。こちらではあまり聞かなかったが、全く無かったわけではない。しかし、それで私とユフィが呼ばれた理由がわかった。


 いわゆる高貴な義務と言うやつだろう。高い地位の者は、位に見合った責任を果たさなければならない。例えば従軍の義務であったり、社会的な弱者の救済であったりと様々だ。


 ファナの称号を持つ私とユフィは学院で最も位が高い。呼ばれるのも納得だ。

 学院が主体であるなら、生徒会にも当然お呼びはかかる。学院の現生徒会長であるキスリング皇太子と、次期生徒会長のアレクシスも同じ理由で呼ばれたのだろう。


 分からないのは後の二人だけど…、まさか志願したのか?


「高貴な方々には馴染みがないかもしれまんが、有り体に言って人助けですな。内容は皇都にある孤児院のバザーになります。すでに生徒会の参加は決定していますが、そこにクリスティーナさんと、ユーフェミアさんにも是非ご参加願いたい」

「あの、学院長先生」

「なんですかな? ユーフェミアさん」

「勝手な事を言ってすみませんが、先の魔物討伐からまだ日も浅く、私はともかく、ラピス公爵令嬢は、まだ病み上がりです。お断りすることは可能でしょうか?」


 私の事を思っての事だろう。ユフィがすかさずフォローしてくれる。

 

「勿論、可能ですとも。参加は本人の自由意思によるものですからな。学院側としては是非とも両名に参加してもらいたいのですが、致し方ない理由があるのでしたらやむを得ないでしょう」

「ら、ラピス公爵令嬢が参加しないのは困る!」


 語気を強めて反論したのはキスリング皇太子だ。


「困るのはお兄様だけではなくて?」

「何を言う!? 今回の催しは聖女教の主体で行われるのだ。聖女が二人揃わないのは示しがつかないではないか!」


 ユフィの軽口に過剰に反応する皇太子。それだけでも俺様な人となりが察せられる。


「聖女教のパフォーマンスに付き合う義理はありませんわ」

「パフォーマンスではない。あくまでも孤児院の救済が目的だ!」

「では、なおさら聖女は必要ないではありませんか!?」

「先の魔物襲撃で、皇都は闇の教団の動きに敏感になっている。聖女二人の存在が民心を休めると何故わからん!」

「はぁ…、それがパフォーマンスでなくて何だと言うのですか?」

「――――くっ、なぜお前のような可愛げのない奴が聖女を名乗れるのか!」

「あらお兄様? 私は一度も聖女だなんて名乗った覚えはなくってよ。頼んでもいないのに勝手に聖女認定されて、勝手に呼ばれただけですわ。その聖女教と信者達に!」


 軽い口論かと思えば、ガチで兄妹喧嘩が始まってしまった。これ、まずくない?


「ちょ、ちょっと、ユフィ…」

「クリスは黙ってて!」

「はい…」


 ユフィが怖くてとても口が挟めない。しかし、救いの手は以外な所から差しのべられた。


「キスリング殿下! 恐れながら皇女殿下の意見の方が正しかろう」

「アレクシス殿!?」

「今無事に皇都があるのは、二人の聖女の尽力があればこそ。本来なら慈善活動どころでは無かったはず、我々が彼女らに参加を強要するのは筋違いになりましょう」

「そ、それは…」


 若干、感情的になってしまったユフィよりも、客観的にに事実を指摘するアレクシスの言葉の方が有効だったのだろう。キスリング皇太子は苦虫を噛み殺したように黙り込む。

 代わりに学院長が話を引き継いだ。


「学院側としても無理強いは本意ではありません。参加はあくまでも個人の自由です。とは言え、二人に参加してもらえれば有難いのも事実。今日のところは資料だけ渡しておきましょう。もし考える余地があれば後で連絡をいただきたい」


 さすがは学院長、大人の対応だ。ここで即座に断れば双方に遺恨が残る。話を振られただけでもこちらはいい迷惑だが、私自身は少しだけこのイベントに興味がある。今夜にでもユフィと話し合ってみよう。


「わかりました。学院長先生」


 私はユフィと頷き合って返事をした。


「生徒会側もそれでよいかな?」


 キスリング皇太子は押し黙ったままだが、代わりにアレクシスが返事をする。


「はい、生徒会としてもそれで構いません」

「――――っ! お前えぇ!!」


 堪えきれずにキスリング皇太子がアレクシスに食ってかかる。


「次期生徒会長は私です! まだ引き継ぎこそ済んでいませんが、あなたの任期は終わっている! であれば正しき事に従ってもらいます!」

「くっ…」


 悔し気に押し黙るキスリング皇太子。 何だろう、普通にアレクシスがかっこいい。


 こいつのスペックって、こんなに高かったっけ? 男の私はときめいたりはしないけど、ちよっと、いや、かなり見直したって… はっ!? 今のやりとりに嫌な予感のした私は、ユフィの方を振り返る。


「う、うかつだったわ、キスリング×アレクシスのカプも充分ありね。問題はどちらを受けにするかだけど…」

「…………」


 案の定、腐女子スイッチの入ったユフィが意味不明な事を呟いている。

 うん、ボロが出ないうちに帰ろう。


「アレクシスの強気攻めも良いけど、この際リバースがあってもいいわね。あああ、悩ましいぃ」

「ちよっとユフィ! もう帰るわよ!」

「え!? あ! そっ、そうね! でも、も、もう少し見守りたいわ…」


 もうっ、何にも起こらないから!


 未練たらたらのユフィに心の中でつっこむ私。厄介な腐女子には構わず私は辞去の挨拶をする。


「学院長先生、私達はこれで失礼いたします。このお返事は、また後日に」

「ああ、良い返事を期待したいところだが、くれぐれも無理のないように」

「ありがとうございます」

「ちょ、ちよっとぉ、私まだ帰るとは…」

「だぁめ! それでは皆様ごきげんよう」


 これ以上、挙動不審の聖女を人目に晒すわけにはいかない。

 とうとう駄々をこね始めたユフィの言葉をぴしゃりとぶった切った私は、そのまま腐女子(ユフィ)を回収して、挨拶もそこそこに学院長室を後にしたのだった。

ゆっくりペースですみません。



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