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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
セントラルの二人の聖女編
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母来たる②

 知らなかった! 自分の親に、彼女との交際を報告をする事が、こんなにも恥ずかしいものだったなんてっ!


 お母様とマチルダに、着ていた服をひっぺがされた私は、ユフィが後ろを向いてるうちに、素早く着替えを終わらせた。

 さっきのドタバタで私達二人が、お互いを異性として認識している事は、早々にお母様にバレてしまい。今は二人並んでテーブルの椅子に座り、お母様からは、質問と言う名の審問を受けている。


「―――つまり、皇女殿下は、あなたの秘密を全てご存知なのね?」

「「はい…」」

「その上で、お付き合いをしていると、周りには内緒で?」

「「はい…」」

「あなた達の寝室は、ドア一枚で繋がっていて、行き来が自由になっている。それで毎晩イチャコラしているわけね?」

「「―――イチャコラなんてしていませんっ!!」」


 ナチュラルに重なる私達の返事。


「あらやだ、本当に仲良しね」


 元々が赤面症の私はもちろん、ユフィの顔も真っ赤である。前触れなしに交際相手の母親に会うのは、結構な一大イベントだ。正直、私もいたたまれない……

 私達に次々と質問をぶつけていたお母様だったが、自分のティーカップをお皿に置くと、満足気に頷いた。


「よくやったわ!」

「「はい?」」


 間抜けな声まで重なった。お母様はそれにも笑顔を向けて話を続ける。


「とっても良いお嬢さんじゃない。お母様は大賛成よ! きっとお父様も喜んでくれるわ!」


 手放しで賛成された。嬉しいけど、ちょっと理解が追い付かない。


「その娘でしょう? あなたが長い間、ずっと想い続けていた人は?」

「お母様?」


 確信を持って話すお母様。私が呆気に取られているのを笑いながら話を続ける。


「あなたがエメロード陛下の前で、自分の好きな人とだけ婚姻を結びたいと願い出た、その人なのでしょう? どういう理屈かは知りませんが、皇女殿下の顔は、長く想い続けた相手とようやく通じ合えた。そんな顔をしています。今のあなたと同じように」


 語りたいけど語れない。そんな思いを見透かすような答えだった。


「二人共、聖女なのだから、そんな不思議な事もあるのでしょう。もちろん、お母様は気にしませんけどね」


 自分の大好きな母親からの賛意が、こんなにも嬉しいものだったなんて! 反対される事を心配しなかったわけではないが、感極まった私は、言葉よりも先にお母様に抱きついた。


「お母様ぁ!」

「こらこら、今からそんな調子で、大丈夫なの? しょうがない子ねぇ」


 お母様は、呆れがちに私の背中をさすりながら、ユフィに問いかける。


「皇女殿下、()()()()はこうですが、優しい子です。面倒を見てくれますか?」

「ユフィとお呼び下さい公爵夫人。私、クリスじゃないとダメなんです」

「あら、そこはお義母様でもいいのよ、ユフィ?」

「は、はい、 お……お 義母様…?」


 このユフィからのお義母様呼びは、自分で催促しておきながらも、相当に嬉しかったらしく、お母様は私を横によけると、今度はそのままユフィに抱きついた。


「きゃ!」

「なんて可愛いの! クリス、この娘、このまま持って帰ったらダメかしら? ジルクにも紹介したいわ、我が家の嫁を!」

「よ、嫁?」


 喜色満面で私に問いかけるお母様。気持ちはわかるけど、ユフィが明らかに困っている。


「お母様、落ち着いて下さい! 他国の皇女を勝手に連れ帰ったら、外交問題になります!」

「そうねー、面倒くさいこと」


 あっさりと納得したお母様。多分、本気が半分、からかい癖が半分と言ったところなのだろう。

 

「まあいいわ、それよりも気になった事が一つ」

「なんでしょう?」


 お母様は、先ほどまでのお茶らけた態度を一変させ、真剣な顔で口を開いた。

 

「プリシラ王女殿下の姿が、見えませんね?」

「「!」」


 お母様の言葉に、私達は二人とも顔色を変える。


 実は、プリシラは、もうずっとこの寮には帰っていない。


 あの大規模な魔物襲撃事件の後、人知れず姿を消していたのだ。


 戦いの後に倒れてしまった私は、プリシラの事は目覚めた時に教えられた。

 どうも、侍女のミュリエッタを伴ってディアナ王国に帰っているようだと分かり、取りあえず無事であればと安心したものの、その後は皇城への登城準備、続くの聖女絡みのゴタゴタで手が回らず、プリシラの件に時間を割く事が出来なかった。そのまま今に至ると言う訳である。


「いなくなった理由に心当たりは?」


 私はばつが悪そうに、お母様から視線を逸らす。


「あるようね」


 十中八九、私がユフィにキスをした事が関係しているのだろう。と言うか、キスそのものが原因の可能性が高い。


「王女殿下の好意が、普通の妹が姉に寄せるものでは無いことに、ようやく気づいたかしら?」


 私は、静かに頷いた。


「私は、どうすれば良いのでしょう?」


 それを聞いたお母様は、仕方がない子と表情を和らげる。


「小さい頃から、大人びて賢い子でしたが、そういった所は年相応で安心します」


 そんなに大人びた感じに振る舞っただろうか? さすがに、おかしな子の自覚はあるのだけど。

 

「遅かれ早かれ、彼女には、あなたの秘密を話す必要があるでしょう。自身の秘密の重要性を考えた上で、話すタイミングや内容は慎重に。その上で、彼女の気持ちにどう応えるかは、あなた自身が判断する事です」

「私自身で…」


 その事を想像するだけで、胸が苦しくなる。それは、他者からの好意を拒絶する事に他ならない。


「正直に自分の思いを伝えなさい。大切なのは、自分が傷付くのも、相手を傷つける事も厭わない事。自分も他人も傷付かない方法は無いと知りなさい」


 その場で都合の良く取り繕っても、相手を余計に傷つける事になる。頭ではわかっているが、どうしても抵抗がある。


「お母様の話は、理解出来ます。それでも私には自信がありません…」

「あなたはそういう子よね。それでも、想い合う人と結ばれる幸運を思えば、その程度の事は耐えられるわ。好意を寄せてくれた人の為にも、あなたは幸せにならなければいけないのだから」

「お母様…」


 これがゲームの中であれば、ハーレムエンドと言った事もあり得たのであろう。当然のことながら、これは現実であって、私が望む相手は一人だけだ。


「……考えておきます………」


 お母様の忠告に対して、結局、私ははっきりとした返事が出来なかった。

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