表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
セントラルの二人の聖女編
46/104

プリシラの憂鬱

 ディアナ王国王城の奥まった一角。

 妙齢に差し掛かった王女を守るため、特に警護の厳重な区画で、王女宮とも呼ばれる場所である。


 王家の女子は、婚姻前の大半をこの王女宮で過ごすのが常で、それは里帰り中の王女、プリシラも例外ではない。天蓋付きの豪華なベッドに顔を埋め、年頃の乙女らしく、恋の悩みにため息をつくプリシラの心を占めていたのは、()()()殿()()では無く、()()()()()()の事だった。


 ―――お姉様がキスをした―――


 お姉様がキスをした。お姉様がユフィとキスをした。お姉様からユフィにキスをした。婚約者候補のお兄様ではなく、しかも同性の女の子にキスをした。


 お姉様が私以外の女性とキスをした――っ!!


挿絵(By みてみん)


 頭の中で、何度も繰り返されるその場面。


 クリス姉様の出場した魔闘技大会。そこに突如として襲い掛かった魔物の大群に、クリス姉様は一人で果敢に立ち向かった。


 お姉様は強い。5年前と同じように、光を纏って戦うお姿は、凛々しくも可憐で、魔物の大群がまるで相手にならない。

 お姉様一人に瞬く間に数を減らす魔物達。さらに皇国騎士団の参戦もあって、戦いは早くに決着がつくかに思われた。しかし、新たに現れた上級の魔物は桁違いに強く、さすがのお姉様も苦戦を免れなかった。

 

 次第に追い詰められるていくお姉様。そのお姉様が、とうとう地面に倒れたその時、私は恐怖に足がすくんで動く事が出来ないでいた。あのお姉様が負ける? 

 私の中でお姉様は絶対だ。いつだって強く、可憐で、優しい。そのお姉様が、魔物に殺されてしまう!?

 その信じがたい光景に、私は絶望した。お姉様が勝てない魔物に、誰も敵うわけがない。私達は皆、ここで魔物に殺されるのだ。

 私が自分勝手にあきらめていたその時、一人だけ動き得た者がいた。

 

”クリス――――――っ!!”


 大声で叫びながら、クリス姉様に駆け寄ったのは、ユフィだ。セントラル皇国が誇る光の聖女。


 なんで、あなたは動けるの?


 呆然と、ただ見ている事しか出来ない私の目の前で、彼女だけが、お姉様の危機にその身を投げ出した。

 

 そして、あの口付け…。


 あの後の劇的な逆転劇を見れば、二人の聖女による儀式的なものだったと理解は出来る。しかし、全てが終わった後の私の心には、どうしようもない敗北感が占めていた。


 クリス姉様の事は、誰にも負けない自信があった。

 王城でお姉様に助けられた時から、お姉様が聖女である事は、簡単に想像がついていたし、この5年間ずっとお姉様のそばにいたのだ。

 私が一番お姉様を見ていて、私が一番お姉様の事を知っている。お姉様の事を一番好きなのも当然私だと思っていた。私にとってクリス姉様こそが私の世界の中心だったのだから!


 その自信が揺らいだのは、彼女が現れてからだ。


 ユーフェミア・ファナ・セントラル

 

 クリス姉様に匹敵するほどの美貌。大国の皇女の血筋。光の聖女の肩書き。もちろん、そんなものにお姉様が価値を見出だす筈がない。

 お姉様は、自身が大貴族の令嬢だと言うのに、身分云々にまるで興味が無いのだから。皇女だろうが、聖女であろうが、今までの有象無象と同じ、そう思っていた。

 あのお姉様の顔を見るまでは―――


 貴族の例に漏れず、クリス姉様が普段の感情を表に出す事は滅多に無い。唯一の例外が、恋愛に関することだろうか。


 お姉様は、自身の好きな人の話に触れられると、必ずお顔を赤くする。5年前のお父様との謁見で頬を染められた時など、恋する乙女とはここまで可憐で美しくなるものかと、幼心に胸をときめかせたものだ。


 学院の寮で、初めてユフィと話した時のお顔は、まさしく恋する乙女の顔そのもの。あまりに破壊力抜群のそのお顔から、私は慌てて自室に逃げ帰ってしまったが、混乱する頭の中はクエスチョンの嵐だ。

 殿方とお会いした訳でもないのに、どうしてあんなお顔をされるの? やはり、お姉様は、女性が好きなのかしら? だとしたら対象はユーフェミア皇女? 混乱する思考の中でも、ユフィへの警戒感は増すばかりだった。


 初対面で、私のお姉様にあんな顔をさせるなんて!!


 しかし、いざ話してみると、ユフィとは驚くほどに話が弾んだ。普段の完璧な淑女の振るまいから、親しい者にだけ見せる気さくな態度。皇女の地位にありながら、偉ぶることなく、身分に無頓着なところ。それに加えて、茶目っ気たっぷりの砕けた口振り。これらは私にとって心地の良いものでしかなかった。

 そう、彼女はクリス姉様にそっくりなのだ。

 心の中の焦燥感とは裏腹に、私達はあっという間に友達になってしまい、今に至ると言う訳である。


 同じ淑女科の仲の良い関係、お互いの侍女も交えての楽しい寮生活。冗談やバカ話も飛び交う楽しい日常を過ごしながらも、それと同時に気付いてしまうこと……


 ―――あの二人、なんてお似合いなんだろう―――


 私やアレクシス兄様ではこうはならない、お互いが空気のように、自然に寄り添える存在。


 今回の騒動で逃げ帰ってしまった私は、どう足掻いてもお姉様の隣は相応しくない。二人ともお人好しだから、今頃、私の心配をしている事だろう。我ながら、なんと短絡的な行動をとってしまった事か…。

 

 私が、もう何回目か分からない無限落ち込みループに突入しようとした時、専属侍女のミュリエッタから、控えめな声をかけられる。


「姫様、お父上、国王陛下がお呼びです」

「会いたくないわ…」


 ディアナ王国に帰国してから、お父様にも、お母様にも、お会いしていない。


「クリスティーナ様の事で大事なお話との事です」

「……お姉様の?」


 あのお父様の事だから、私を釣るための餌なのかもしれない。しかし、このタイミングでのお話と言うのはとても気になる…。

 割と長い沈黙の間、私の扱いに慣れたミュリエッタは、静かに私の返事を待っている。

 どうせ、もう私の返事を察しているのだろう。癪ではあるが、私は小声で返事を返した。


「お会いするわ」


 この後のお父様の話に、私は大いに驚嘆することになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ