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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
魔法学院入学編
31/86

VSギルバート

「どうした? 怖じ気づいたとも思えんが」


 私の挙動があからさまにおかしくなったので怪訝に思ったのだろう。ギルバート選手が声をかけてきた。


「あ、え~と、その、実は私、あまり目立ちたくないのです。この場は見逃してもらえませんか?」

「美人の頼みは断らん主義だが、これ程の手練れを前にそれは無理な話だ。それに、そなた充分に目立っておるぞ」


 あっけなく断られる。目立っている自覚はあるんだけどね。


「せっかくの大会だと言うのに、誰も彼も俺を見ると逃げ回るのでつまらんのだ。ここで美人相手に手合わせ出来れば、収支は大いに黒字になる。観念して相手してもらおう」

「自らの不運を金銭に例えるのは感心しませんね。赤字続きでも心豊かな人はいるものですよ」


 ギルバート選手が笑いつつも剣を握る手に力を込める。


「豊かさを求めた結果はご覧の通りだ」


 どうにも手合わせしなければいけないらしい。

 私達はお互いの距離を詰めるとギルバート選手は剣を上段に構え、私は正眼に構えた。


 上段の構えは攻撃重視の構えだ。最初の一太刀によほどの自信があるのだろう。

 次の瞬間、ギルバート選手が猛然と斬りかかって来た。右上からの斬撃。早い! 

 私は相手の横に滑り込むようにして斬撃を躱すと、そのまま横薙ぎの一閃をギルバート選手に放つ! キインッ! 私の剣はギルバート選手の背中で受け止められる。完全に死角を突いたはずが、こちらを見もせずにしっかり剣で止められてしまった。

 何だろう? ぞくぞくする。楽しい!


「ふうっ、怖い怖い。とんでもないご令嬢がいたもんだな」


 思わずっと言った感じで、ギルバート選手がこぼす。


「あなたこそ、それが学生のレベルですか?」

「どの口がほざく、お互い様だろう。 が、まだまだ足りんなぁっ!」


 言うが早いか、ギルバート選手が一気に距離を詰め、私もそれに応じる。


 ギインッ!! 小細工無用! 真っ向から剣と剣でぶつかり合う!

 とんでもない力だ。私の細身の剣がすぐに押し負ける。吹っ飛ばされなかっただけましだろう。男心(?)をくすぐられて悪のりが過ぎたようだ。よりにもよって力比べに応じるとは。

 すかさず剣の力を逸らして自分の有利な位置を取ると、そのまま数合に渡って打ち合う。


 ギルバート選手の強烈な突きを剣でいなすと、私は横合いから切りつける。私の剣はあっけなく受け止められ弾かれるが、私はその勢いも利用して今度は下段からの斬撃を放つ。

 斬撃、突き技、カウンター、躱して、躱されて、目まぐるしく攻防が入れ替わる。ぶつかっては距離を取り、また切り結ぶ。数十合にも及ぶ打ち合いの中で、私は久しぶりに剣の勝負を楽しんでいた。

 もはや何合打ち合ったのか分からなくなった辺りで、お互いに距離を取って息を整える。すると、思い出したかのようにアナウンスの声が鳴り響いた。


『す、すごお――――い! 全くの互角の戦いです! 失礼ながら私、言葉を失って見いってしまいましたぁー!。前回覇者のギルバート選手を相手にクリスティーナ選手全く引けを取りません! 華麗に剣を振るう様はまるで戦女神のよう! 観客席からも割れんばかりの声援と拍手が送られています!』


 観客席? アナウンスの声で、自分がずいぶんと勝負に没頭していた事に、今さらながら気が付いた。今は目の前の強敵から目が離せないけど、ユフィ怒ってるだろうな……。


「これだけ戦っても息を乱さんとは、剣の腕と言い、よく鍛えてある。にしても解せんな。ご令嬢がなぜそこまで剣を磨く?」

「人それぞれの理由があるのですよ。あなたが手加減しているのにも理由があるのでしょう?」


 ギルバート選手の実力は、自領のラピス公騎士団の団長に迫るものがある。騎士団長は私が五本に一本しか勝てない猛者だ。にもかかわらず、ギルバート選手の繰り出す技は私の予想の範疇にある。これはどう考えてもおかしい。


「はっはは、やはりお見通しか。なあに、これ程の手練れが相手、出来るだけ長く楽しみたいではないか。それに手加減はお互い様だ。なぜ魔法を使わん?」


 思わぬ指摘に驚いた。別に手加減を考えていたわけではない。ギルバート選手とは純粋に剣の腕だけで勝負してみたかったのだ。


「あなたと似たようなものですよ。剣の勝負に魔法とは無粋ではないですか」


 私の答えが予想外だったのか、ギルバート選手が興味深げな顔に笑みを浮かべる。


「ご令嬢、こう言ってはなんだが、見た目に反してずいぶん男っぽいな」


 男ですからね!


「上等な答えだ。ここからは手加減無しでいかせてもらおう。俺としては、何としてもご令嬢に魔法を使わせたくなった」


 ギルバート選手が得意の上段に構える。ただ先ほどと違って圧が半端ない。正真正銘、本気の一撃が来るようだ。知らず私も剣を握り直す。


 次の瞬間、ギルバート選手が一気に距離を詰めて来た! 早いが予想を超える程ではない。左上段からの強烈な斬撃に対し、私はそれを剣で受け流す…!?


 重い!!


 受けた斬撃に込められた威力が、先程の比ではない。かろうじて受け流すことは出来たが、反撃に転じる事が出来ず、ギルバート選手からは次の攻撃が繰り出される。

 たまらず防戦一方に追い込まれた私は、ひたすら守りに徹する。ギルバート選手の剛剣をまともに受ける事が出来ないため、躱すか、受け流す事にのみ専念するしかない。


 柔よく剛を制すとはよく聞く言葉だが、何も柔が一方的に優れているわけではない。 ―― 剛よく柔を断つ ―― 柔らかいゴムもより強い力を加えれば、いずれ引きちぎられる。結局は使い手次第だ。

 並みの柔はより強い剛に、並みの剛はより巧みな柔には及ばない。私の柔は、ギルバート選手の剛に及ばないのかもしれない。しかし悲観するのはまだ早い。人間である以上、永遠に攻撃し続ける事は出来ない。行動の限界。動きを止める瞬間にこそ勝機があるはず。

 とは言え、それも簡単な事では無い。全く勢いの衰えない猛攻には舌を巻くしかなく、延々と続くギルバート選手の攻撃には終わりが無いのではと疑いたくなる。

 ついに私があきらめかけたその時、ギルバート選手の渾身の斬撃が放たれた! 


 この攻撃に二の太刀は無い!


 右上段からの強烈な一振り! 私は刹那のタイミングでその斬撃を刀身で受け止め、そのまま後方に受け流すと、流れるように体を回転させギルバート選手の背後を取った。自身の回転にのせ、今度は私から起死回生の斬撃を放つ!


 ギインンッッ!!


「うそ!? 止められた!?」


 ギルバート選手が振り下ろしたはずの剣が私の剣を止めている! 前世で言うところの()()()だ! 振り下ろした剣を地面すれすれで切り返し、Ⅴ字に跳ね上げるとんでもない大技!


「まだまだあぁ―――っ!」


 ギルバート選手は剣にさらに力を込めて私を押し返そうとする。これ剣が折られる!?


「風よっ!!」


 私は咄嗟に風魔法の結界で身を包むとそのまま後方に離れた。

 再び距離を取った私達はその場から動かない。さすがにどちらも疲れが見え、その場で息を整える。それよりも…… 魔法使っちゃった。


 私の完敗だ。私の剣はギルバート選手の剛剣に及ばなかった。咄嗟に魔法を使わなければ私の剣は真っ二つに折られていたことだろう。

 私が自分の敗北を告げようとしたその時―――。


『それまでぇ――――っ!!!』


 アナウンスの声が響き渡った。

終始バトルで終わってしまいました。

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