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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
魔法学院入学編
30/103

予選の一幕

『それでは魔闘技大会予選、開始です!』


 アナウンスの高らかな声で予選の開始が告げられた。同時に闘技場のあちこちで戦闘が始まったようだ。砂煙が舞い、周囲のいたるところで剣戟や攻撃魔法の音がする。


 この予選で300人以上の参加者が10分の1に絞られ、勝ち残った者達で決勝トーナメントを戦うことになる。どう勝ち残るかは個人の自由、武勇と知略と言う事は、単純に1人で10人を倒しても良いし、予選が終わるまで逃げ回っても良いのだろう。


 私としては、この予選でアレクシスかケヴィンのどちらかを負かすのが一番手っ取り早い。

 片方を倒してしまえばもう目的達成だ。さっさと棄権して、のんびり大会を楽しむとしよう。

 とは言え、すでに周りは乱戦状態。戦いつつ目的の人物を探すのは難しい。すでに私の方にも1人の選手が駆け寄って来た。私は自分の剣を抜くと静かな動作で正眼に構える。


「クリスティーナ様!」


 そのまま斬りかかって来ると思われたが、予想に反してその選手は私の前で片膝をついた。あれ?

 

「騎士科2年フィリップ・モーリス! 俺はあなたに向ける剣は持っていません! かわりに俺のこの剣を捧げます!」


 フィリップと名乗った選手は、自らの剣を捧げ持ち、切っ先を自分に、柄を私に向けて頭を下げた。 これってまさか、騎士の誓い?


 騎士の誓いとは、剣を捧げた相手に絶対の忠誠を誓い、それを生涯に渡って守り続ける神聖なものである。

 王族や高位貴族にとっては自身の指導者としての資質、カリスマ性を示すための大事な秤として何よりも重要なものとされている。

 これが女性の場合では、意中の殿方からの騎士の誓いなど、もはやプロポーズに等しく、乙女の憧れの一つであるとも聞いた。


 なぜ公衆の面前で男にプロポーズされねばならんのか!?


『おおっとぉー、なんとここで騎士の誓いがなされましたぁ! 相手はディアナ王国公爵令嬢クリスティーナ・ラピス選手です! 噂に違わぬとんでもない美少女っぷりだ―! 我がセントラル皇国が誇る光の聖女ユーフェミア殿下に匹敵する美貌を備え、入学前の魔力測定値はまさかの1万超え! 手元の資料によりますと、料理、刺繍、裁縫、乙女のあらゆる手習いに秀でて、最新の理想の花嫁ランキングでは堂々の第一位! 開始早々にその魅力をまざまざと見せつけてくれましたぁーっ!』


 理想の花嫁ランキングって何!? この学院ってそんな暇な事やってんの?

 私が呆然と目の前の相手を見下ろしていると、今度は別の選手が歩み寄ってきた。


「貴様ぁー、抜け駆けは許さあん! クリスティーナ様! 騎士科3年のギルバート・ポトスと申します! 俺の剣もあなた様に捧げます!」

「抜け駆けはどっちだ!? クリスティーナ様! 魔法科3年のベーゼヴァン・ボルドー。剣を持たぬ私はこの杖をあなたに!」


 増えてるしぃ――っ!? 次々と私の前で膝を折る選手達。気が付けば5人の選手が私の前で騎士の誓いを求めている。


『なんと言う事でしょう。クリスティーナ選手、戦わずして5人の選手の無力化に成功! さらにその剣を受け取り、騎士の誓いが成立すれば、5人の手駒を手に入れる事になります! 美しさは罪なのかぁ!?』


 調子にのった司会が、面白おかしくまくし立てる。もちろん私に剣を受け取る意思は欠片も無い。この5人、この場で切り捨ててやろうかしら? 

 頭では物騒な事を考えながらも上着のスカート部分を軽く摘まんでカーテシーをすると、5人の顔が赤くなる。(うわあ、下心見え見え……)私はそれに笑顔で話しかけた。


「せっかくですが、お断りさせていただきます」

「「「「「――――っ!?」」」」」


 まさか断られるとは思わなかったのだろう。全員大きく口を開け、そのまま固まってしまった。


『瞬殺ぅ―――っ! 5人共あっさりフラれてしまいましたぁ―――っ!!』


 アナウンスの声と共に大きくザワつく会場。

 私はそれらに関心は示さず、5人に向かい淡々と話しかける。


「私はただ守られるだけは好みません。まして自らのための騎士など迷惑千万! ようするにあなた方の見込み違いにございます。私以外のふさわしい主をお探しください。それでは失礼いたします」


 私は地属性魔法で自身に軽量化の魔法をかけると、その場から大きく跳躍した。


『ああっとお!? クリスティーナ選手大きくジャンプしてその場から離れたー! どうやら5人共捨て置くようです。これは哀れだ! それにしても高い高い跳躍!? これは魔法なのでしょうか?』


 観客席最上段の目線の高さまで跳躍した私は、続けざまに風魔法をかけると、ゆっくりと闘技場上空を移動する。伸身の体勢で体をひねり視線を闘技場に向けると、その全体が見渡せた。


 先ず目に付いたのはミラー王子だ。風属性と思われる円形の結界を張っている。安全な場所を確保して、その中から攻撃魔法を放っているようた。賢いやり方だが、なかなかにえげつない。


『さあ、会場内で異彩を放っている選手がもう一人、魔法大国リアの第3皇子ミラー・カイゼル選手です! 予選開始直後から風魔法の結界を展開。何者も寄せ付けずに完全に無双状態! 常人なら数秒で魔力切れしてしまう魔法結界を涼やかな顔で維持しています。すごい! 例年、剣術が圧倒的に有利とされるこの魔闘技大会において、どれほどの活躍を見せてくれるのか楽しみです!』


「……とりあえず無視しよう」


 あれの相手をすれば、目立つこと請け合いだ。淑女科のご令嬢達の要望ではあるが、今はスルーしよう。

 闘技場は混沌として、アレクシスとケヴィンを見つける事が出来ない。派手に魔法でも使ってくれれば良いが、二人は騎士だけにそれも期待出来ない。


 私は適当に空いたスペースを見つけると、そこに着地した。すると着地の瞬間を狙っていたのか、数人の選手が切りかかって来た。


 どれも騎士科の生徒のようで、魔法を使う様子はない。私は先頭の選手の上段からの斬撃を、軽いバックステップで避けると、前のめりになった相手の横で、入れ替わるように背後を取り、愛用の剣の柄で首元に一撃を入れた。


 がはっ! 短い叫びを上げて倒れこむ様子を見て、続けて襲いかかろうとしていた選手達の足が止まる。どうやら怖じ気づいたようだ。

 相手の力量も分からずに、軽々に勝負を仕掛けるなんて、騎士科のレベルもたかが知れてる。せめてもの情けと、私は声をかけながら相手に切り込んでゆく。


「戦場で無意味に足を、ましてや思考は止めてはいけません!」


 私は瞬く間に選手達の間をすり抜け、すれ違いざまにバッチを切り捨てる。

 バッチを失った選手達は、声も無くそのまま膝をついた。


『つ、強ぉ――――い! クリスティーナ選手、闘技場上空から風のように舞い降りると、瞬く間に5人の選手を倒してしまいましたぁ――――っ!! それにしても見事な剣の冴え。大会前からその規格外の魔力量を注目されていましたが、これは予想外! とにかく強い! おまけに可憐だぁー! 観客席も大いに賑わっています!』


 観客席? 気になったので一際大きな歓声を上げている付近を見ると、先ほどの淑女科の生徒達だ。ユフィとプリシラの顔も確認出来た。

 私の視線に気がついて喜色満面で喜ぶプリシラの横で、ユフィが両手で大きくバッテンを出している。

 やっぱり目立ってる? でも騎士の誓いに関しては、不可抗力だから勘弁して欲しい。


「この状況でよそ見とは余裕だな!」

「!?」


 不意にかけられた声と共に、横合いから鋭い斬撃がせまる! 私は上半身を反らせてそれを躱すと、くるりと体を回転させ、返す剣で突きを放った。

 反撃してくるとは思わなかったのか、相手は驚愕しつつも、剣でそれを弾いて事無きを得る。返しの剣を躱された私はすかさず距離を取り、突然に現れた強敵を睨んだ。

 

「………信じられん。今の攻撃を躱したばかりか、後手に回ってなお反撃に転じるとは…」

「あなたも…大した腕前ですね」


 ほんの少し剣を合わせただけで、目の前の選手が尋常な相手ではないことがわかる。

 逆三角形の見事に鍛え上げられた体躯。おそらく最終学年の生徒であろう、身体はすでに完成され、並みの大人では比べ物にならない。


『おおっとぉ? ここで興味深いマッチングが実現。先ほどから話題のクリスティーナ選手と昨年の魔闘技大会の覇者、ギルバート・フェンリル選手です!』


 アナウンスの声は私を大いに慌てさせた。

 何ですと!? 前回覇者!? 道理で強いわけだー! 不味い、これって勝っても負けても目立ちし過ぎでしょ!? 


 どうするよ―私っ!?

次回マジバトル?

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