開会式
「何でてめえがここにいやがる?」
選手控え室で、私はケヴィンに呼び止められた。
「見て分からないのですか? もちろん大会に出場するためですよ。それよりも、今後一切私の前に現れないと、誓約書を書いたのではなかったのですか?」
あの事件の後、反省文と一緒に書かされたと聞いている。ケヴィンは思いっきり顔をしかめると。
「ちっ、今のはてめえから現れたんだ。誰もてめえが大会に出るなんて思ってねえ…」
ふむ、確かにその通りである。
「私からは伝える義務どころか、義理すらありませんでしたからね。この通り私も出場選手です」
私はお気に入りの騎士服姿で胸をはる。
少し鼻白んだケヴィンは、気だるそうに口を開き。
「………勝手にするがいい」
そのまま歩き去って行った。
もっと突っかかって来るかと思ったけど、たまにはこう言うこともあるのだろう。
それにしてもメアリと同じような顔色の悪さだったけど、彼も寝不足だったのだろうか? 出場選手が試合前に緊張するのは、よくある話だが、そこまで考えて私は笑った。
奴がそんなタマか? ないない。
間もなくして開会式が始まった。
選手達は闘技場に整列して、学院長をはじめとした、お偉いさんの挨拶が延々と続いている。長いだけの退屈な挨拶を想像していたが、どの挨拶も比較的短めにまとめられ、式は順調に進行していった。過去に苦情でもあったかな?
最後に主賓として、皇族の方々の入場が宣言された。ゆっくりと軽く手を振りながら皇王夫妻がロイヤルボックスに入られる。
先ず目に付いたのは皇王陛下だ。年の頃は40才前後だろうか? 謹厳な見た目のため、実際はまだ若いのかもしれない。ユフィは狸親父のような事を言っていたが、ユフィと同じプラチナブロンドが雪山の狼のような近寄りがたい印象を与えている。
ユフィをお嫁にくださいと言ったら、片手で吊るされそう……。
皇妃殿下はとてもお若くユフィにそっくりだ。プロンドとプラチナブロンドの違いがあるだけで、姉妹と言っても通用しそう。とにかくとてもお美しい。
最後にもう1人、皇太子殿下が入って来られた。死別された前の皇妃との間の子のため、ユフィとは異母兄妹になる。明るい金髪の絵に描いたようなハンサムだ。ユフィの兄にして攻略対象者の1人。学院の4年生で現生徒会長。モテる要素の塊と言った感じだ。
ユフィとの将来を考える上で避けては通れない人達。とは言え、ユフィからは極力皇族に目を付けられるなと言われているので、今は遠巻きに見るこの距離感で充分かもしれない。
それにしても皇王、こっわっ!
開会式が無事に終わり、いよいよ予選開始の時間が近づいてきた。
出場する選手達は、開会式が終わったそのままの状態で全員が闘技場内で控えている。事前の説明ではこの直ぐ後に、バトルロイヤル方式で本選出場選手を振るいにかけることになるはずだ。
闘技場内は約300名の参加者が同時に戦っても余りあるほどに十分な広さがあるが、すでに一触即発の緊張感が充満して、若干息苦しいくらいに感じる。
『皆さん、お待たせいたしました―――っ!!』
突然、闘技場内にアナウンスの声が響き渡る。もちろん先ほどの開会式も進行のアナウンスはあったのだが、いたって上品な感じの声で厳かな式典に相応しいものであった。今、闘技場に流れている声は、いかにも余興、パフォーマンス的な感じの若い女性の声がする。
『いよいよこれから魔闘技大会予選を開始します。開始するにあたって何点か注意がありますのでよーくお聞きください!』
すでに参加者には大会ルールの諸々は伝達済みである。聞いてないよ的なクレームへの対策と、観客にも聞かせる事で不正行為への抑止とするためだろう。
『えー、飛び入りを含めました大会の最終的な参加者は、なんと307人! 決勝トーナメントの出場枠は32人ですので、この32の出場枠をかけて、予選ではこの307人一斉にこの闘技場で戦ってもらいます。参加者の皆さま、胸元のバッチをご覧ください』
アナウンスの声で、私は自分の胸元のバッチを確認する。私はもちろん参加者全員の胸元に、この簡素な円形のバッチが付けられている。
『出場選手全員の胸元にありますこのバッチは、魔道具となっていて、大会本部で常にその数とそれを付けている選手がモニター出来るようになっています。選手の皆さまには、お互いにこのバッチを壊し合っていただき、バッチが破壊、あるいは外された選手は、その時点で失格となります』
バッチが勝敗の目安になるとは説明されていたが、これ自体が魔道具とは驚いた。魔道具はそれ自体が高級品のため一般庶民には手の出ない代物だ。それを消耗品扱いするとはさすが大国である。
『バッチを自ら外しても失格。または、この闘技場から外に出ても失格となります。さらに、このバッチを狙ってのあらゆる武器、魔法、その他いかなる武芸の使用も認められますが、明らかに勝敗の決した無抵抗の者への攻撃。あるいは急所、命を狙った故意の攻撃と判断された時も失格となりますのでご注意下さい。また、当然ですが、意識を失ったり、戦闘不能の状態になっても失格です』
命さえ狙わなければ何をやっても良いともとれる。さすがに緊張してきた。
『魔法を使える方は、この予選に限って予め自分に補助魔法をかけることを許可します。さらに予選に限って複数人で共闘することも認めます。謀略、裏切り大いに結構。武勇と知略、あらゆる手段を用いて勝ち抜けを目指して下さい』
単純な戦闘の場合。長い詠唱を必要とする魔法より、剣の方が圧倒的に有利だ。強力な魔法使いが詠唱を終えるよりも早く、騎士達の剣は彼らの急所に届くだろう。
ディアナ王都での魔物襲撃事件の際も、突然の急襲に魔法では対応が出来なかった。
組織だった戦場では、戦局すら左右する強力な魔法。一度それが発動すれば、屈強な騎士が束になっても勝つことは出来ない。
それゆえ、高位の魔法使いは数々の厚遇を与えられ、皇都の学院は魔法学院の名を冠している。
予選が始まる前に魔法の使用を認めるこのルールは、魔法使い贔屓にもとれるが、一度魔法を発動すれば、持続させる分にも余計に魔力を奪われるため、今度は魔力切れのリスクを負うことになる。
共闘を認めるとのルールも、裏切られたら終わりの諸刃の剣だ。確かに武勇と知略の両方が重要になるだろう。
ルールの説明は終わりとばかりに、あれほど雄弁だったアナウンスは沈黙し、大きく息を吸い込んだ数瞬後―――
『それでは魔闘技大会予選、開始です!』
私にとって久しぶりの戦いが始まった。
しばらくバトルが続く予定です。




