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【異世界転移】をやってみた《1》  作者: とり
 第9話 ラスト・ダンジョン
80/92

78.選定

 ・前回のあらすじです。

 『ユノがセレンへのうたがいを強める』



 ホールの中心でユノは()いかけた。

 長い階段が彼と妖精(ようせい)のそばに控えている。先は(くら)がりに消えている。


「セレンさんは……ボクに隠していることがありますよね」


 セレンの(とが)った耳がピクリと動いた。

 ほそい(おもて)がユノから()れる。


「さあ、どうで――」

 オリハルコンの()がセレンの首に当たった。


 緑の双眸そうぼうが横にすべる。

 剣の(つか)を握るユノを見る。


「あの半魔(はんま)むすめが死んだことを、まだおこっているのですか」

 ユノはセレンを見据(みす)えた。

「かもね、でもその矛先(ほこさき)をセレンさんにけるのはお(かど)ちがいだって、今は思うよ」

「では、これは一体(いったい)?」


 選定(せんてい)(けん)をセレンは指差した。


(はな)してほしいんです、セレンさんの考えてること。でもフツウに()いたんじゃはぐらかすでしょ。さっきそうしようとしたみたいに」

「知ったところであなたのやることは()わらないと思いますが――いいでしょう」


 億劫(おっくう)そうにセレンは嘆息(たんそく)した。

 ――ユノは剣を()げる。


「私は妖精(アールヴ)(おさ)であるわけですが」


 セレンは広い段差(だんさ)に腰かけた。

 コツンと彼女のクツに(いし)くれがたる。


 青いカベかけ松明(たいまつ)()を浴びて、石膏(せっこう)めいた凹凸(おうとつ)が不気味な陰影(いんえい)を作っていた。


「ちょっと前までは半魔はんま――つまり、魔族(まぞく)形質(けいしつ)のこした人間も庇護(ひご)していました」

「今は?」

「取り引きがありましてね。五百年ほど前です。その時には我々アールヴも人間界(にんげんかい)との交流が(さか)んでして」

「……思い出(ばなし)?」

「ユノさま、私たちって美しいでしょう?」

「今度は自慢じまん?……セレンさんのことは、そりゃキレイとは思いますけど。他のアールヴもそうなんですか?」

「ええ。だから同胞(どうほう)はよく連れていかれました」

「どこに」

商人(しょうにん)の所に。その()の行き先は妓楼(ぎろう)見世物(みせもの)小屋(ごや)といったところでしょうか」


 ユノは沈黙(ちんもく)した。


旧王(きゅうおう)との取り引きは、その当時とらわれていた妖精(ようせい)の解放を目的としたものでした。が、そうすると今度は人間側(にんげんがわ)に『被害』がおよぶということで。無条件(むじょうけん)では応じられないと」

 セレンは微笑(ほほえ)んだ。


「そういうことで、私は王に魔族(まぞく)譲渡(じょうと)したのです。王もそれで手を打ちました。なので現在かれらは私の庇護下(ひごか)にはありません。干渉(かんしょう)をする義務もなければ、法律上(ほうりつじょう)『できない』という状態でもあります」


「……それで」

 ユノは先をうながした。


「ただ、私にも良心(りょうしん)はあります。あなたたちの言葉をりれば『義憤(ぎふん)』を覚えるていどには。帰ってきた同胞(どうほう)の姿を見たときには、特に」

同族(どうぞく)だけが大事なんですね」

「ええ」


 セレンの肌が、幽鬼(ゆうき)のようにれる炎をあお()り返していた。


「ユノさま。魔王(まおう)がいなくなれば、人間には平穏(へいおん)(おとず)れます」

 黒い眉毛(まゆげ)をユノはふるわせた。

「ですがそれは(つか)()です。人間はほろびます、ゆっくりと。彼らが(かみ)とあがめる(きん)(りゅう)によって。それがつかさどる、(ぜん)なるちからに()し潰されるようにして」


 ぼう。

 と妖精の(かげ)が揺らめいた。

 彼女は立ち上がる。

 ユノを見つめる。


「そして妖精(ようせい)の時代が来るのです」

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